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【パロディ】神曲_⑩ベアトリーチェの微笑

(約3,600文字)

天国篇 第33歌より
Vergine Madre, figlia del tuo figlio,
sì che tutto è possibile o mi sbaglio?
Io son Dante... o almeno a lui somiglio?

(日本語訳)
処女の母よ、あなたの息子の娘よ、
できないことなんかないよな。
僕はダンテ... 少なくとも、似てるかな?


僕はダンテ。地獄のような『神曲』天国篇を読み終え、天にも昇る...というか、地にも落ちる気持ちです!
やっぱり自分のような学校嫌いには、地獄の方が居心地がいい...

...ちなみに、冒頭のパクり十一音節詩に自答すると、僕は、神経質なところを除いて、ダンテには全く似ていません。(彼の方が背も高いです)
ダンテは愛からインスピレーションを得て筆をとり、愛が告げたことをそのまま文字にしていくと自然と詩ができあがるそうですが(そのわりに復讐詩がえげつない)、僕はまず詩の題材と構成を決め、なんとなく頭に描いていた内容を歪曲し、つじつまをこじつけると詩ができあがります。"インスピレーション" というものは、まだ食べたことがありません。
また、ダンテの文章表現能力は「火」に形容され、「火の筆」などと呼ばれますが、自分の場合は、我が師であり、指標であり、数々の危険から何度も僕を救ってくれたリアルウェルに言わせると、「思慮分別の筆」とのこと。お世辞とわかっていても嬉しい言葉ではありますが、火を思わせる表現ではなく、むしろ、冷静さを感じさせます。

...まぁ、そんなことはどうでもいいか。
それでは、天国篇最終話、つまり、『【パロディ】神曲』の結末を書いていきましょう!

*****

僕はダンテ。
天国の上の方から地球を見下ろし、旅の最終盤に臨むところです。

僕の周りでは、空中でバラの花びらのようなフォーメーションを組んだ魂たちが光り輝いています。

天国にあるという集合体恐怖症地獄

その中に、ひときわ輝く魂がいました。聖母マリアです。イエス・キリストの母の、善良で謙虚な微笑みは、あらゆる女性のそれを思い起こさせます。至福の魂たちは彼女の名を呼びながら祈り、その周りを取り囲んで飛び回っています。

突然、まばゆい光が目の前を横切りました。僕が今まで見た中で、最も強い光です。それは、イエスでした。彼を凝視しますが、あまりにも強烈な光に心を奪われ、その姿を記憶に留めることができません。

その様子を地獄の自宅からビデオチャットで見ていたウェルことウェルギリウスは言いました。
「怖がるか泣くか気絶するかしかしない上に、見たものを覚えることもできないなんて、なんて情けないんだ!」

...実は、僕もそう思います。作中で自らを英雄的に描かないのは謙遜であり、美徳なのでしょうが、でも、もうちょっと、こう...
...まぁ親近感は湧くけどね。

さて、気を取り直して、ベアトリーチェの声に耳を傾けます。
「君はこんなにも偉大なものを見たのだから、もう私の笑顔を見ても大丈夫」

イエス・キリストで目を慣れさせておき、それから自分の笑顔を見させるってすげぇな、と思いつつ、ベアトリーチェの顔に視線を向けると...

...ああ!

彼女の美しさを表現することなど、僕には到底できません。たとえ全時代の全ての詩人が手伝ってくれたとしても!

マンマ・ミーア... 怖がるか泣くか気絶するかしかせず、見たものを記憶することもできない上に詩まで書けないのなら、こいつはもうおしまいです。
案の定、ビデオチャットを繋いだままのスマホから、
「彼は大丈夫なのか?!」と、ウェルの声が聞こえました。

そうこうしているうちに、三人の祝福された魂たちが歩み寄ってきます。
一人は、厳粛な眼差しと深みのある声を持つ、ペテロ。彼と一緒にいるのは、ヤコブヨハネです。こいつらは聖人ですので、「Wikipedia 神曲¥天国篇¥天国界の構造」によると、ここは第八天、恒星天ということになります。
まぁ、それはともかく、彼らとの問答のおかげで、この旅は本当に学識を豊かにしてくれるものだということがわかりました。実際、僕はこんなにも多くのことを学んできたのです。

その後、最初の人間、アダムの魂と知り合いました。彼は言います。
「禁断の実を食べたから天国を追放されたわけじゃないんだ。神が人間に定めた "境界" を越えたから追い出されたんだよ、教会だけにw 俺は辺獄(リンボ)にいたんだけど、ようやくここに呼ばれてさ。ほんと助かったよ」

なんという話でしょう!(??) 僕は夢中になって聞きました。

すると、ふいに周りの魂たちが、この世のものとは思えないほどに優しく...まぁ、あの世のものなんだけど、とにかく、優しく歌い出したのです。まるで、宇宙が微笑んだかのようでした。

僕はベアトリーチェの方へ向き直ります。すると、彼女の美しい微笑みと優美な眼差しが、天使たちの舞う、空の最も高いところ(第十天 至高天エンピレオ)へ、僕を運んでいきました。
(建前上)愛しの彼女は、何の脈絡もなく、言います。
「神は天使たちを愛によって造り出したの。でも、イキったルシファーが反乱を起こして、彼は地球に、文字通りぶちこまれた... で、地表に落ちたときに、めちゃくちゃ深い地獄の裂け目が開いたの」

今、僕は純粋な輝きの中にいます。想像したことすらない、これら全ての奇跡に目が回り、まだベアトリーチェに尋ねなければならないたくさんの疑問があって... 彼女の方を振り向きましたが、(建前上)愛しの人は、もう僕の隣にはいませんでした。
代わりに、ベアトリーチェがいるべきはずの場所には、白い服を着た、父性溢れる優しい目をしたおじぃちゃんが立っていたのです。それは、聖ベルナルドでした。
僕は、彼に聞きます。
「僕の元カノどこ行った?」

聖ベルナルドは言いました。
「ベアトリーチェは、お前の最後の願いをかなえるよう、私に頼んだのだ」

...どこにいるか聞いてんだよ、ちゃんと質問に答えろよ、と、若干イラッとしましたが、辛抱強く、聖人が二の句を継ぐチャンスを与えます。

すると、察した彼は口を開きました。
「見上げれば、彼女は座すべき玉座にいる」

そう言われ、視線を高く上げると...

あぁ、いました。神の光に囲まれ、よりまばゆく輝いています。
僕は感動して、言いました。
「ベアトリーチェ、お前はいつも僕に絶望...じゃなかった、希望の光を灯してくれる。僕のために地獄まで来てくれて... お前が親切にしてくれて、力を貸してくれたから、色々なものが見れたんだ」

彼女は僕に微笑みます。それは別れの挨拶...いえ、そうではないかもしれません。僕も彼女に微笑みました。

...さて、思い出してください。ダンテはウェルギリウスと別れる際、ギャン泣きしました。
一方、愛しいはずの彼女とは、こうして笑顔で別れています。
女性の皆さん、男とはこういうものなのです。僕が例外というわけではありません。友情至上主義万歳。

さて、こうして僕は聖ベルナルドと一緒にいることとなり、彼はとりまマリアに祈りを捧げます。
「聖母マリアよ、ダンテは世界の底辺から這い上がってきました。そして、神を見ることを望んでいます」

すると、マリアはその願いを受け入れたことを身振りで示しました。自分史上最大の望みを叶えようとしている僕は、高みを見上げます。

...自分が見たものを言葉で語ることはできません。スマホから、
「しっかりしてくれ、君は詩人だろ!」という叫びが聞こえてきますが、まるで夢を見た者が目を覚ましたとき、感情以外、全ての記憶が失われているように、僕は何も覚えていなかったのです。お前ほんと大丈夫かよ、と言われても仕方がありませんが、陽光に融ける雪のように、風にかき消される言葉のように、何も覚えていないのです。
それでも、あの瞬間に僕を満たした優しさだけは、まだ心の中に残っています。僕は神の奥底に、宇宙に分け隔てられて存在するもの全てが愛によって調和するのを見ました。いつくしみはあの光の中に収束し、全てのものに形と意味を見出すことができたのです。
何を言っているのか、自分でもちょっとよくわかりませんが、僕の好奇心と探求心は、あの力に照らされ、初めからずっと、全てを回していたのです。

太陽と星々を動かす、神の愛に照らされて...


【パロディ】『神曲』第十章 ベアトリーチェの微笑


参考書籍:
Classiciniクラッシチーニ  La Divina Commedia (Gisella Laterza) Edizioni EL

ダンテ『神曲』煉獄篇/天国篇 (平川ひらかわ祐*弘すけひろ 訳) 河出文庫
(*正しくはへんが「示」でつくりが「右」。IME Padで書いても出ねぇ)