ペンネームを考えよう
「その出版社から本を出した友達の話によると、売り上げに応じたギャラが渡されるだけで、何冊売れたかを自分たちで確認することはできないらしんだ」
今日も横浜の実家からイタリアにいるアンドレアとZoomを繋ぐ。タブレットの画面の中で、彼はそう言いながら眉根を寄せた。
※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。
L「で?」
A「それだと、本当は100冊売れたのに、50冊分のギャラしかもらえない可能性があるだろ」
L「どうせ売れないんだから、そんなことどうでもいいよ...」
A「いや売ってみせる」
L「ぁあ、そう。で? 続けて」
A「その彼は最近、Amazonと、あと書店で取り寄せができる...なんていったかな...名前は忘れたけど、とにかく、ネットで販売を始めたんだ。そうしたら、出版社から出すよりも売り上げがずっとよくなったんだって」
L「...わかった。出版社から出すのはやめて、Amazonか、そのなんとかっていうやつから出したいんだな?」
A「そうそう。電子書籍だけじゃなくて紙の本も出せるし、そのほうがいいと思うんだ。やっぱり世の中 金だから。1ユーロでも多く儲けたほうがいいだろ」
L「まぁ、お前がそうしたいならそれでいいけど。僕は、出版社から出したらお前が喜ぶと思ったから...」
A「俺のことを考えてくれたんだね。ありがとう。でも、出版社から本を出したことによって得られるものなんて名声くらいだろ。名声じゃ何も食べられないし、車の修理はできないよ。1ユーロでも多く儲けられるほうがずっといい。世の中 金が全てだから... 君だって、誰かに『すごいね』って言われるより、ジェラートを1個でも多く食べられた方がいいよね?」
L「...あ、わかる。それに、結局『共著』になっちゃったわけだし、お前も著者なんだから好きにすればいいよ。それより、ペンネーム考えないとな」
A「ペンネーム?」
L「そう。だって、本名出すの嫌だろ?」
A「絶対嫌だ。ちなみに、君は “Loris” にするのか?」
L「ううん、僕は “Naoki Nakanishi” にする。“Loris” だとイタリア人みたいだろ。日本人がイタリア詩を書いてることに意味があるんだから、作者が日本人だってわかったほうがいいと思うんだ」
A「じゃぁ俺は “Yamada” にする」
L「いや、お前が日本人のふりする必要ないだろ。むしろ『監修』はイタリア人であってほしいんだけど。あと Yamada って誰?」
A「そうか。じゃあ...」
L「名前はアンドレアのままでいいよね。 苗字の “M.” はどうする? あ! Mascarpone とかどうwww」
A「...嫌だ。他には?」
L「Mozzarella!」
A「嫌だよ」
L「じゃあ Mortadella! ぴったりじゃねwww お前最近また太っ...」
A「今週は2キロ痩せた」
L「...冗談だよ。睨むな、怖いから...」
A「もう少し苗字っぽいのは思いつかないのか?」
L「んー... Mから始まる単語... これ以上思いつかない...」
A「本当にボキャブラリーが貧弱だな。ネットなしじゃ詩を書くことができないのもわかるよ」
L「だったら自分で考えろよ!」
A「そうだなぁ... Miele とかどうだろう」
L「ぉお... なんかムカつくけど、お前のイメージにぴったり...」
231007