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イタリア滞在記[2]_11【初めての獲物】(2022.8.3)

僕の親友アンドレアは仕事をいくつか掛け持ちしていて、その一つがテニスクラブの運営だ。数人でシフトを組んで回していて、彼が出勤するのは、隔週の月曜日~土曜日、午後4時~遅いと深夜12時頃まで。今週の月曜日から僕もその手伝いを始めた。

初日。初めてテニスクラブを訪れた僕に、アンドレアが、
「今日は、ここでやることをいろいろ教えるから。今、君、ドアの取っ手を触ったよね?こっちに来て」と言う。

案内されたのは、スタッフ用のバスルーム。
僕を洗面台の前に立たせると、彼は背後に立ち、
「水で手を濡らして、ハンドソープを手に取って。それ、俺の私物だから大丈夫」と言う。

なにが「大丈夫」なんだか...と思いつつ、目の前に置いてあったボトルのポンプを押し、液体せっけんを手のひらに乗せると、後ろから、
「手を擦り合わせてよく泡立てて」と指示される。

言われた通りにして、手のひらがふわふわした白い泡に包まれると、やつは再び口を開いた。
「指の間と手の甲も洗って」

「...ちょっと待って」

「なに?」

「なんでお前は僕に手の洗い方を説明してるの?」

...そんな感じで先が思いやられたが、今日でテニスクラブの仕事を手伝い始めて早三日。もう飽きた...じゃなかった、慣れた。
そこで、今回は仕事の内容について書いてみたいと思う。こんな話、読んでも大しておもしろくないだろうから、手短に...

午後4時。テニスクラブに着いたら、まずは休憩。

サラダを食べた。

午後4時半頃から、施設内の清掃を始める。
それが終わったら、テニスコートの整備。クラブ周辺には松の木がたくさん生えていて、コートには松の葉っぱがたくさん落ちているので、まずそれを掃く。

掃き掃除が終わった後の写真なんだけど…
よく見るとまだ松の葉っぱが落ちてるよね。
まぁいいか、これくらい…

次に、地面の白線が赤土に埋もれてしまっているので、ブラシで擦って土をどけ、白線がはっきりと見えるようにする。

白線が見えるようになったら、今度は水撒きをして、土を湿らせる。

↑写真左の水を撒いているのはアンドレア。
ん?やつも写せって?
残念だけど、それはできない。
そんなことしたら僕、三か月間外出禁止にされちゃう。ネットへの露出を極端に嫌う彼は、Facebookにさえ、友達同士の写真ですら上げさせてくれないのだから。
写真中央に写っている虹で我慢してください。

テニスコートは二面あるので、これを二回繰り返したら、コートの整備は終わり。
なんだ、楽そうじゃん。と思われただろうが、これが結構大変。なぜならば...

日は傾いてきたものの、まだまだ炎天下。
テニスコートは40℃を超える暑さなのです。

さすがに40℃以上のテニスコートでプレイしたがるやつなんておらず、最初の客が来るのは早くても午後7時頃。
そんなわけで、また休憩を挟む。

ホットドッグとフライドポテトを食べた。
写真左が玉ねぎ入り、右が玉ねぎなし。
玉ねぎなしの方が美味い。

食べ終わったら、僕は家に帰る。
えっ?仕事、深夜12時までじゃないの?と、驚かれたことだろう。
初日は僕もびっくりした。
もちろん、
「なんで僕だけパートタイム勤務みたいになってんだよ?!」と、反論した。すると、
「だって、君は寝る準備をする時間だろう」と、平然と返してくる。
これが原因で大ゲンカしたけど、あいつは、
「病気の治療が終わるまでは大人しくしている約束だ。どうしてあと二か月待てないんだ」と繰り返すだけで全く譲らず、結局僕が折れた。

でもね!明日は違うんだよ。木曜日は午後7時からテニスクラブ併設のバールでピザとアルコールを提供するイベントがあって、それを手伝うために僕も最後まで残っていいことになってる。
アンドレアは僕にウエイターをさせるつもりらしいけど、実は、初体験なんだよね。オーダーうまく取れるかな...

そんなことを考えながら彼に家まで送ってもらう途中の車内で、事件は起きた。

「アクセルを踏んでも加速しない...」
やつが眉根を寄せ、苛立たしげにそう呟く。

「また故障?なんかもう年中行事だな」

「...まぁ、否定はしないけど、よりによってこんな時に...週末の旅行どうするんだ...君を家に送り届けたらその足で整備士の所へは行くけど、簡単に直らないようだと、父さんかいとこの車を拝借するしか...」

「お、いいね!車の略奪だったら、僕、手伝うよ!ウエイターなんかよりよっぽどおもしろそう...」
そう言うや否や、二の句が継げないほど鋭く睨まれたのは言うまでもない。