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語学の天才じゃないあなたへ【読書感想】

今回ご紹介する本は杉田玄白の「蘭学事始(らんがくことはじめ)」

つまらなそう…

と思うかもしれないが、安心してくださいめちゃめちゃ面白いです!!

【この本のいいところ】

・短い(これ大事)
・おじいちゃんの思出話なので文章が読みやすい
・凡人に勇気を与えてくれる

【この本をお勧めしたい人】

・語学の勉強に苦しんでいる人
・周りの人の才能に負けてると思う人
・自分がやってきたことに自信が持てない人
・世代交代で後輩に譲る立場の人
・昔仲間と共に全身全霊で何かを頑張った人

【本の内容】

・作者は日本人の誰もが知るあの杉田玄白

・前野良沢と共に「解体新書」を書いたことで有名(「解体新書」はオランダの解剖学書「ターへルアナトミア」の訳本)。

・鎖国末期の日本。ほぼ外国の情報も辞書もない中での翻訳作業は、ノーヒントで見たこともない絵の一万ピースパズルを完成させるような超難解ミッション。

・この本は、そんな超ハードモードな翻訳作業を、仲間と一緒に苦闘の末に完成させた杉田玄白の、苦労と栄光の青春回顧録。

(1) 英語…できなくね?

語学の天才はいる。

語学ほど残酷に人の才能が如実に出るものも無いのではないか。

何百回練習しても、何年英会話に通っても、何百回シャドーイングしても、ネイティブと話をした瞬間、脳みそがクラッシュして何も聞き取れない人もいれば、

海外ドラマを見てるだけで、自然な表現を自在に使いこなせるようになる人もいるのだ。

私は、この二者のどちらかと問われれば、圧倒的に前者であり、凡人である。

そしてもし、日本の医学界、語学・翻訳界に燦然と輝くあの「解体新書」を著した杉田玄白も、また私と同じ凡人だったのだとしたら…。

(2)言葉を「創る」男達の物語

上述した通り、この時代の翻訳作業は、かなりのハードミッションである。

オランダ語の本がない、辞書がない、先生がいない、オランダ人がいない、話せる人がいない。


オランダ語と日本語では、アルファベットが違う、使う音が違う、書く方向が違う、文法が違う、修辞表現が違う。

オランダと日本の医学は、歴史を共有していない、人体や病気に対する概念が違う、臓器の分類や範囲や名前の付け方が違う。

辞書やネットのある現代ですら、専門書の翻訳は大変なのに、当時はそんな状況であったため、文字通り一語一語訳していくしかなかった。

いやそれどころか、医学用語に至っては、一語ずつそれに該当する新しい日本語を作っていかなければならなかった(笑)

(3)「不可能」に挑んだ凡人


そんな成功率0.000001%のミッションになぜ彼らは挑んだのか。

杉田玄白を動かしたのは、このミッションを達成できるという自信ではなく、「知りたい」と言う好奇心だったのではないだろうか。

杉田は、オランダのターへルアナトミアという医学書と、当時の日本の医学書に書いてある人体構造の挿し絵が、あまりにも異なることに違和感を覚えた。

どっちが正しいのだろう?

この疑問を解決するには、実際に人体の中身を見るしかない。

杉田は前野良沢とともに、処刑された罪人の腑分け(解体?)を見学させてもらうことにする(この行動力!)

そこで人の臓器の配置が、ことごとくターへルアナトミアに書いてある通りだと言うことに驚愕し言葉を失うのであった…。

杉田玄白、前野良沢は思っただろう。

「ってことは…今まで使ってたテキスト…まちがってね?」

さて、解剖された罪人もまさか「自分の腹」が、日本の近代化を実現するうえで「開けられなければならない扉の一つ」であったとは思わなかったであろう…。

(4)フルヘッヘンド?

さて、杉田玄白はここに至るまでに、

・オランダ語通詞(プロの通訳)に弟子入りを申し入れるも断られる。
・自分は医者の家に生まれたけど、「医者の才能ないなぁ」と悩んでいる。

とまったくパッとしない人生を送っていた。

それに加えて、今まで教科書としていた東洋医学の本に書いてあることが、ことごとく間違っていると知ることになったわけだ。

あなたならこの状況でどうするだろうか?

医学の道を諦める理由は山ほどある。しかしご存知の通り彼はそうしなかった。

彼はオランダ語の単語を少しだけ知っているという前野良沢と一緒に翻訳作業を開始。

後世に名を遺す偉大な歴史的人物のイメージとは程遠い泥臭~い作業を積み重ね、一語一語生みの苦しみとともに訳を作り上げていくのであった。

時には通詞のもとに赴いて学生のように質問し、入手できる蘭学書を頭を掻きむしりながら読み(眺め?)、仲間とこうじゃないかああじゃないかと議論を重ねながら、いつ終わるともない作業に情熱を注ぐのであった。

そこで有名なのが「フルヘッヘンド」という単語の意味を、仲間と見つけたときのエピソードである。

たった一つの単語の意味を発見しただけで、大の大人たちが大喜びで抱き合う。

「学び」とは、こういう発見の感動と喜びの瞬間のことを言うのだと思わさせられる感動的なエピソードだ(ぜひ本の中で該当箇所を読んでみてください)。

つづく…


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