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とりあえず、行脚。

待っている“あがり札”が届かぬ内に、期限がきてしまった。1枚カードを切らねばならない。
前回もそうだったが、期限の前日になると突然不安になる。もし、こっちが残すべき当たりのカードだったらどうしよう……? ぐずぐずした薄暗い気持ちに囲まれる。
気が重い……それでも、内定辞退の文章を書き出してみると、思う以上にさらっと書けてしまった。

それで気づかされる。切ることを惜しいと思っていただけで、思い入れはそれほどなかったことに。
ここまでの狙いがあるのだから、焦って手近なもので手を打とうとしてはいけない。もう少し、もう少し……!


とはいえ、モヤモヤはする。断ること自体への罪悪感、引き続き結果を待つことの不安感……こういう気持ちを消すには……

もう、修行の如く歩くしかない!

少し前に思いつきで日本橋-深川間を歩いてみたら、すごく気分転換になった。
モヤモヤを振り払うためには、近場の散歩ではぬるい!

行脚だ! 行脚!

川を越えて……
大きな橋のすべての街灯の上に
1羽ずつ海鳥が止まっていた。関守感がすごい。
油断するとピシャリと落とされる。

そしてたどり着いたのが、

江戸川区の親水公園に併設された庭園で、樹齢約750年といわれる立派なタブノキが見られる。

一之江抹香亭
年季を感じるタブノキ

江戸時代は抹香屋だったそうで、このタブノキの葉や皮を使って粉末状のお香を作っていたそうだ。

お店の名残り。
抹香を擦るのに使っていた石鉢が
つくばいとして使われている。

敷地はかなりこぢんまりとしているが、さまざまな草木が植えられていて、四季折々の姿を見せる。

色づきはじめたイロハモミジと
滑らかな樹皮の百日紅
菊の展示が延長されていた。
ツヤツヤ、モコモコ美しい。
祖父も菊を作っていた。懐かしい。

母屋の縁側では、一之江抹香亭の庭や親水公園で見られる木の実の紹介もしていた。

いろいろな実がある!
が、手に取るのはもちろん……
いちばん食えそうなwクサボケ。
カリンの実みたいな青く爽やかな香り。

ボケの花は知っているけれど、クサボケは初めて知った。実際に実がなっているところも見てみたい。

雰囲気のある石畳みを歩く
見つけた。
花も残っていた。

ボケよりもクサボケの方がだいぶ草丈が低く、花も小さい。でも、ごろごろと実がなっている姿はなんだか愛嬌がある。

母屋に戻り、中も見せてもらう。

扉を開けるとお香の良い香りが立ち込めていた。落ち着く……。

廊下。和室好きー。
畳のお部屋。欄間も床間もある。
ここでお茶会やお香作りのイベントも開催する。
カチコチなる壁時計。ばあちゃん家みたい
しばらく聴き入ってしまった。
母屋から眺めるお庭も趣きがある。

お香の販売もしているそうで、この日は先に来ていたお客さんのために、試しに炊いたのだそう。香袋を選んでいると、係の方が丁寧に来年のイベント予定も教えてくださった。
白檀の香袋を選び、お会計をしていると、さらに声をかけてくださる。

「お香好きなんですね。今日はどちらから?」
「◯◯市です」
「◯◯市って広いですよね。何でいらしたの?」
「……。歩きです」
「抹香亭に近い駅からでしょ? 
 近いって言っても、ここ、駅から
 20分もかかるから、歩くの大変よねー」


……言えなかった。



20分なんてとんでもない……!

その3倍もの時間歩いて来たことを……。

そして、またその道のりを歩いて帰ろうとしていることを……。

そんな奇特な話、恥ずかしすぎて聞かせられないっ!!

「また来てくださいね」の言葉を背に、そそくさと母屋を出たのであった。

とりあえず、一之江抹香亭にはまた季節を変えて出かけてみたいと思った。
そして次に行くときは……
行脚ではなく、乗り物を正しく利用して出かけたいと思う!

修行の如く歩いていることも、
今回もまた、拾ったどんぐりを
怪しく並べてきたことも隠さなくては……

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