第五章 幻視 死者との邂逅
駅の待合い室は人間たちでごった返していた。それは彼らと同じように、今からどこかに出発する男たちと見送りに来た女たちだった。ミキと彼とが、もうまもなく別れなければならないように、同じような人間たちのあいだで今から無数の別れが始まろうとしていたのだ。
ミキは、車をエンジンがかかったままの状態でパッシングライトを点滅させて、駐車場に止めっぱなしにして、そのまま途中まで彼のバッグをもって付いてきたが、駅の構内には入らず、「あたし、見送らないから。それじゃね、あなたが帰ってくるの、ずっと待ってるから、旅から戻ったら、連絡ちょうだいね」と言った。彼はうなずき、分かったという仕草の合図を送って手をあげて、彼女と別れた。彼女は人波から離れた場所に立ち尽くして、少し悲しそうな顔をしながら、人混みに姿を消していく彼を見送った。
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