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小説『廃市』 第九章 夢屋


静寂が病室に戻った。薬が切れたのか、もう手足は自由に動くようになっていた。ベッドのマットの下を調べるとレインコートの男が隠していったピストルの黒い包みが出てきた。その、ずっしりとした重さはリアルだった。冷たい鈍く光る銃把を握りしめると心のなかにはっきりと対象を定めきれない不安定な殺意がわきあがるようだった。
 彼は、医者の言葉もレインコートの男の台詞も信じられないような気がして落ち着かなかった。ただ、〈ヒカリ〉と〈チカラ〉のために人々が血みどろの争いを繰り広げることだったら有りそうな気がしていた。
その時、若い娘のはな歌をうたう歌声と廊下を歩く足音が聞こえ、看護婦が部屋に戻ってきた。
「やっぱり、その辺を裸で歩き回ってたんですね。しょうがない人ね。サァ、着替えを持ってきましたよ。さっき、正式にあなたの退院の許可も下りました。これからはあんなところで途中で寝ころがってねむってしまっちゃだめよ。ホームレスと間違われるわよ。

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