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ホノルル中古レコードショップ訪問記(2024年11月)

今月初め、久しぶりにハワイに行ってきた。その目的のひとつが中古レコード・ショッピング。過去2回訪れている「馴染み」の店に加え、今回はその近くの比較的新しめの店も覗いてみた。時間の関係で2軒しか行けなかったが、備忘録の意味も兼ねて2店の特徴・品揃えなどを記してみた。アナログレコード掘りが好きな方の参考になれば幸いだ。


ハワイを訪れるのは2018年以来。コロナ禍以降は初めてだ。前回は1ドル=110円くらいだったので、アメリカのインフレと合わせて、物価は円換算で2倍近く上がった印象。レストランでハンバーガーとビール1杯頼んだら25〜30ドルにチップが15〜20%なので、5,000円はかかる感じ。以前は10〜15%の感覚だったチップも、今や10%では低すぎるようだ。ファーストフード店でも、例えば、Panda Expressという中華のファーストフードでメイン1種とサイド(白飯、炒飯、焼きそば、または野菜盛りのどれか)1種のコンボとペットボトルの水を頼んで20ドルくらい。円換算だと3,000円になる。

中華のファーストフード店「Panda Express」の一番安いセット(写真は二人分)。味・ボリュームとも満足だが、これでひとり3,000円換算。

ハワイの中古レコード店にでは、今までは日本であまり見かけない盤を割安に買える感覚だった(ただし、盤の状態は概ね良くない)。件の「馴染みの店」を2015年に初めて訪れた際は、1ドル(税別)のバーゲンコーナーでケニー・ランキンやレオ・コッケの盤を買ったし、それまで日本で出逢ったことがなかったウェンディ・ウォルドマンのファースト(1973年)を5ドル、マザーアースのファースト(1968年)を9ドル、ハワイのアコースティック・デュオ、オロマナのセカンド(1977年)を6ドルで買った。その頃、為替レートは1ドル=120円くらいだった。2018年に訪れた際は、長年探していたオザーク・マウンテン・デアデヴィルズの『Men from Earth』(1976年)を6ドルでゲット。ハワイ関係では、アウディ・キムラのデビュー盤を9ドルで入手した。しかし、昨今のインフレ×円安状況×アナログ盤ブームの中、中古レコード相場がどうなっているのか、それも今回チェックしてみたいポイントだった。

向かったのは、今回もホノルルのカカアコ地区。ここは元々車の修理工場や倉庫が並ぶ閑散としたエリアだったが、2010年代以降に再開発が進み、おしゃれなショップやレストランが点在するようになった。高層コンドミニアムも増えつつある。ウォールアートでも有名で、ガイドブックにはほぼ定番で載っている地域だ。カカアコの中心にある複合商業施設「ソルト」(SALT at Our Kaka‘ako)までは、ワイキキの中心部から歩くと西へ30〜40分。私はホノルルに泊まっていないのでワードビレッジの映画館駐車場にレンタカーを駐めたが、そこからだと徒歩15分くらい。ワイキキ拠点ならバス(トロリー)でも行けるし、車で訪れるなら、周辺に駐車場や路上のパーキングメーターもある。

カカアコのウォールアート

Hungry Ear Records

今回、初めて訪れたのがこのお店。商業施設「ソルト」(SALT at Our Kaka‘ako)の2階にある。ソルトには他にも魅力的なショップやカフェ、レストランなどがあったが、今回は時間もないのでこの店に直行。店舗の外壁にもウォールアートが施されていて、店内も整然としたおしゃれな雰囲気。アナログ復権後の今どきのレコードショップという趣きだ。

店のウェブサイトを見ると、1980年から営業している「ハワイ最古のレコードストア」らしい。元々は、東海岸沿いの街カイルアにあったようだ。ソルトのオープンが2017年なので、この店舗自体は新しいと言ってよいだろう。店内のレイアウトは、下の写真の通り(写真は許可を得て撮影)。手前の1列が新しくプレスされたLP群で、それより奥は中古。そのうち2列がロック/ポップ系。ジャズ、フォーク/カントリー、クラシックが各1列ずつ。オリジナル・アパレルやCDの棚を挟んで、一番奥がハワイアン。ブラック系についてはあまり意識していなかったのだが、ロック/ポップの棚に混じっていたのではないだろうか。いずれにせよ、ブラックやヒップホップに強い店という印象はなかった。ジャズについても、ジャズもフュージョンもごちゃ混ぜという棚だったので、ジャズ通向けの店とは言えない感じ。

時間も限られていたので、まずは「SALE」の文字が目に付いた奥の棚に直行。ただ、ここの棚は特に印象に残っていない。それよりも、その前の壁に掛けられていたカラパナのアルバムに目がいってしまったからかもしれない。カラパナのオリジナル期のアルバムは手放した日本制作の駄作『Hold On』以外は全部持っているので、特に買う必要はなかったが、値段が35ドルもするのを見て面食らってしまった。その横にあるマッキー・フェアリー・バンドのファースト(1978年)は、かつて東京の某ショップで一度だけ見かけたものの、高くて手が出なかったもの。これも気軽に手が出せる値段ではなかった。(帰国後、この店のウェブサイトを改めて見てみたところ、これらカラパナ関連のアルバムは「(Hungry Ear Variant)」となっていた。このショップ独自の仕様で再プレスされたもののようだ)

ハワイでのレコード漁りの目的のひとつは70〜80年代初頭のコンテンポラリー・ハワイアンのアルバムを入手することなのだが、セール棚の横にあったそのジャンルの棚は、概ね30ドルから高いものでは50ドルくらい。以前なら、よく知らないアーティストでも「お土産代わりに買っとくか」という感じだったが、今回はそんな価格ではなかった。仕方がないので窓際に移動すると、そこに「BARGEN VINYL」のコーナーがあった。ここの価格は5〜10ドル強くらい(通常の棚は、20〜30ドルくらい)。ここには「買ってもいいかな」という盤もそこそこあったが、もう1軒の目当ての店に掘り出し物がもっとあるかもと自重。とりあえず5ドルのバーゲン盤2枚だけを購入して、店を後にした。

購入した2枚

Idea's Music and Books

こちらがお目当ての馴染みの店。ソルトから通りを挟んだ反対側にある「Coral Commercial Center」という若干寂れた感じのミニモールの一角にある。このセンターは手前が駐車場になっていて、店舗ごとに駐車区画がある。正しい区画に停めれば無料駐車OKだ。このレコードショップは2015年に初めて訪れた際は「Jerry's」とう名前だったが、前回訪問時に今の名前に変わっていた。旧店舗名の頃から元ヒッピーか芸術家といった風情のノームというおじさんが店を仕切っていた。結構年輩の人なので、健在かな?と心配しながら店に入ったが、相変わらず元気そうに鋭い目を光らせていた。以前は、入口でバッグを預けるシステムだったが、今回はノーチェック。そのことも含め、オアフ全体で以前(コロナ前)より治安がよくなっている雰囲気は感じた。

Idea'sの店内(許可を得て撮影)

店内は、上の写真のように雑然としている。それも以前と変わっていない。前述のHungry Earがおしゃれな感覚をアナログ盤に求めてやって来る若者たちの店だとすると、こちらはオタクのおじさんが来る店という感じ。フロアの大きさは、Hungry Earの倍以上。右の壁際が主に映画のDVD、右側の木製棚の列がアナログ中古盤、左にグレーの棚が2列あり、そこがCD。上の方にはミュージックカセットも並んでいる。奥3分の1くらいのスペースは中古書籍コーナーで、その付近に音楽DVDのコーナーやコミック関係のグッズなどもある。全部くまなく見ようと思えば2時間は必要な内容だ。シングル盤についてはあまり意識しなかったが、あっても数は多くなかったと思う。以前あったバーゲンコーナーは今回見当たらなかった。

上の写真のLP棚の左片側がほぼロック/ポップ関連。50s/60s、70s、80sと年代別にそれぞれアルファベット順で並んでいる。日本のレコード店によくあるような、英・米とか、プログレ、ニューウェイブ、AORといった細かいジャンル分けはない。もう片側の通路の4分の1くらいがジャズだっただろうか。あと、残りがハワイアン、フォーク/カントリー、ワールド(日本のレコードもある)など。ここでもブラック系に特化した棚はなかったように思う。意識していなかったせいか、クラシックもあまり目立たなかった。

今回はまずハワイアンの棚をチェック。コンテンポラリー・ハワイアンの盤は最低1枚は買って帰りたいので、優先的に見たいセクションだ。ここでもカラパナのファーストとセカンドが30ドル台とか、高いものだと50ドル台!正真正銘の中古盤で、ジャケの状態もさほどよくないのにもかかわらずだ。地元のレジェンドだけに特別人気が高いのかと思いきや、前々回は安く買えたオロマナあたりも15〜20ドル台で、おいそれとは手が出せない感じ。しかし、幸いにもこの棚の「C」のセクションで掘り出し物を発見! 元カラパナのマッキー・フェアリーが女性と一緒に笑顔で写っているモノクロのジャケット。日本では、少なくとも私は見たことがない代物だった。値段は28ドル。ちょっと高いが「これは買い!」と即決。ただ、まだ棚を見始めたばかりなので、最後に回収しようと「C」のセクションの最後尾にこの盤を移し、サーチミッションを継続。続いて、横にあるカントリー/フォークの棚をチェック。ここでは5〜10ドルくらいの範囲で、日本であまり見かけない好みの盤をいくつか発見。目星を付けた上で、ロックの棚に移動する。

待ち合わせの予定があったため、実はこの時点で結構時間が押していた。多少巻き気味に50s/60sから物色。50sにはあまり興味がないので、60sと分けてくれていたらいいのにと多少焦りながらレコードを繰る。70sセクションでは、日本では見かけることが少ないJ.ガイルズ・バンドのファースト(1970年)とセカンド(1971年)、ローラ・ニーロの『Christmas And The Beads of Sweat』(1970年)などを発見。いずれも10ドル以下だったと思うが、ジャケットの汚れ・傷みが目立つため、今回は購入見合わせ。

そんな吟味をしていると、棚を挟んだちょうど向かい側のハワイアン・セクションに、日系人か日本人のような初老のおじさん(70歳前後か?)が5〜6枚のアルバムを手に抱えながら、威勢よく棚を漁っている。思わず彼の方に視線を向けると、なんとおじさんが抱えているアルバムの中に、私がキープしておいたつもりのマッキー・フェアリーのデュエット盤が! ショックのあまり、そこから先は落ち着いて棚を見ることができなくなってしまった。そうこうしているうちに、タイムリミットが近づいてきた。目を付けていた他の数枚をそそくさと回収してレジに向かった。予算的にはもう少し余裕があったのに、慌ててしまって十分に吟味ができなかった。

今回購入したアルバム5枚。左上から時計回りに、Tom Rush "The Circle Game(1968年)9ドル、Keola and Kapono Beamer "Hawaii Then and Now"(1974年)7ドル、Dillards "Roots and Branches"(1972年)6ドル、Kris Kristofferson "Jesus Was A Capricorn"(1972年)9ドル、Jeniffer "See Me, Feel Me, Touch Me, Heal Me"(1969年)5ドル

まとめ ─ 60年代作品掘りにはおすすめ

今回の訪問を総括すると、やはりハワイはかつてのようにアナログレコードを安く仕入れる場所ではなくなったという印象だ。アメリカ本土もおそらく同じだろう。価格は、食品などと同じく、コロナ前に比べるとドルベースで1.5倍×円安の1.5倍、都合、円貨ベースで2倍くらい高くなった印象だ。アメリカの中古レコード盤が日本に比べてかなり粗雑な扱いを受けているものが多いことも考慮すると、コンディション重視の方には到底お薦めできない。店頭の中古レコードが日本のようにビニール袋に入っていることもないので、ジャケットも痛みが目立つものが多い。(色んな意味で、日本はビニール大国だと改めて実感。アメリカだとスーパーでも紙袋が普通だが、紙袋も有料化されていた(5〜10セントくらい))

今回ちょっとショックだったのは、上述のようにハワイアン・ミュージックの作品が予想以上に高かったこと。当然アメリカ本土よりも流通量は豊富なはずなのに残念だった。それでも、盤の状態さえ気にしなければ、ハワイ(アメリカ)の中古レコード店には一定の魅力がある。日本に比べて、60年代作品のレコードが豊富にあることだ。70年初頭のものにも日本にあまりないようなアナログ盤が結構ある。日本にそういったレコードが少ないのは、その頃までの日本の洋楽市場がまだ一定の人気アーティストに偏っていた上に、輸入レコードもあまり流通していなかったためだろう。60年代末〜70年代初頭のロック作品で後年(80年前後)日本で復刻・再発されたものは多いが、オリジナル米盤に出会う機会は限られていると思う。

例えば、私は前回・前々回とIdea'sでヤングブラッズのアルバムを各1枚ずつ購入したが、それらは日本では見たことがないものだった。今回のIdea'sでも(ヤング)ラスカルズのアルバムなどそこそこ揃っていたし、日本でほぼを見かけることのない東海岸フォーク関係のアナログ盤も結構揃っていた。今回私はトム・ラッシュの68年作品を買ったが、それ以前の彼のアルバムもあったし、ジム・クェスキン&ザ・ジャグ・バンドなども揃っていた。ほかに今回入手した中でも、ジェニファー・ウォーンズが芸名の権利の関係で単に「ジェニファー」と名乗っていた時代のセカンドアルバム(69年)などは、日本ではお目にかかったことがないものだった。50年代のアルバムについてはあまり詳しくないので価値がわからないが、60年代以前の米盤に興味がある人ならば、ハワイの中古レコード店は結構パラダイスになるのではないだろうか。

あと、ハワイもしくはアメリカ全般の中古店の活用法としてちょっと思ったのが、レコードを「売る」という選択。日本人のレコードの扱いは丁寧だし、米国人が売る中古盤よりは状態が良いものが多いはず。また、「帯付き」日本盤レコードは海外の人には珍しく、人気がある。それに加えて、この円安状況である。旅行ついでにレコードを持参して買い取ってもらえれば、現地の高い食事代の足しくらいにはなるのではと思った。もっとも、重い荷物を持って行って売れなかった時の保証はできないので、事前に問い合わせておくのが無難だとは思うが…(と言うか、今時その気になればネットで海外販売は可能と思うが)

逃した魚

今回何とも口惜しかったのは、釣りかけた魚を眼前で逃したこと。しかも、目の前でそのブツを掴んでいたおじさんは、なんだか日本人訛りっぽい英語だった。もしかしたら、日本人⁈ 一目惚れした女子に告白せずに遠目に見ているうちに先輩に持っていかれた気分だ。帰国してからこの盤について調べてみたところ、マッキー・フェアリーとハワイの女性シンガー、ノヘラニ・シプリアーノのデュエットによる12インチ・シングル『Let's Do It』で1980年の作品だった。

マッキー・フェアリーについては、ドラッグなどの問題で投獄された末に獄中自殺したという悲劇性も相まって、個人的にかなり思い入れのあるアーティストのひとりだ。カラパナについても、マッキーが在籍していた1枚目(75年)と2枚目(76年)に尽きると思っている。その当時まだ20歳前後だった彼の才能は抜きん出ていた。日本では「サーフ・ミュージック」のように捉えられていたカラパナだが、とりわけマッキーがいた時代の彼らのサウンドプロダクションは特筆に値する。まだ「アダルト・コンテンポラリー」や「AOR」といった言葉が生まれる以前のこの時期、アコースティックな音色とハーモニーをブレンドしながらブルーアイド・ソウルを独自に消化したそのサウンドは、例えば、ホール&オーツの『Abandoned Luncheonette』や、ロギンズ&メッシーナの『Mother Lode』、ネッド・ドヒニーの『Hard Candy』、さらには山下達郎などにも通じるものだと思うが、75年時点でこのような音を完璧に作り上げていた時点でAORに先んじていたし、少し後の形骸化されたLA産AORに比べると、アコースティック・ミュージックが根付いていたハワイという土地柄ゆえか、えも言われぬ大らかさがあった。

そんなマッキー・フェアリーが、カラパナ脱退後、自身のマッキー・フェアリー・バンドの2枚のアルバムの後に発表していたのが、このノヘラニ・シプリアーノとの12インチ・シングルだったようだ。マッキー・フェアリー・バンドのアルバムは2枚ともハワイの異なるマイナーレーベルから出されている。調べてみると、ファーストの方は当時日本盤が発売されたようだが、流通量は限られていたようだ。セカンドの方は当時日本盤は発売されていなかったと思うが、幸い私は10年ほど前に日本で輸入盤を入手することができた。今回見つけた12インチシングルも、別のハワイのレーベルからのものだ。幸いと言うか、残念ながらと言うべきか、今ではサブスクにもアップされており、聞くこと自体は容易にできる。ドゥービーの「Takin' It To The Street」を彷彿させるようなゴスペルタッチのスパイスが効いた、期待に違わぬ佳曲だった。Discogでレコードを調べてみると、日本で購入できるものだと、送料込みの円貨ベースでの最安値がカナダの出品者の5,683円、最高値がドイツの出品者の12,030円だった。

今時、ネットでポチれば海外からでも簡単にレコードを購入できる時代。しかし、私自身はよほどの場合以外、そういう買い方はしない。10代の頃から沁みついてきたレコード棚を漁って掘り出し物を見つけた時の甘美な感動体験から抜け出せないのだ。何なら、レコードを所有すること自体よりも、そういった「一期一会」の出逢いこそが一生ものの趣味になっているのかもしれない。

【今回の教訓】
一度惚れたら しっかり掴んで手放すな!


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