[書評]J.D.サリンジャー「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」
グラース家の長兄、麒麟児のシーモアが自殺するナイン・ストーリーズの冒頭から、時間軸的には前後するが、『大工よ、屋根の梁を高く上げよ』というその名も美しき作品は、結婚式をボイコットする長兄を、次男のバディが切々と語りつくす作品だ。時にバスルームで開くシーモアの日記からは、その溢れんばかりの知性の香気が感じ取れもする。次男のバディはあっさりとシーモアを視ようとして、実はかなり熱心に、追慕が頭をもたげるところが、とても愛らしく、そのような筆致で描けるサリンジャーという書き手を素晴