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書評

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読書記録、しっかりした書評からメモ程度まで形式は統一していません。ネタバレ多。
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#最近の学び

闘争としての恋愛の極北―石原慎太郎「太陽の季節」

 新潮文庫の裏表紙の紹介文はこのように評している。1955年、石原慎太郎が一橋大学在学中に執筆した本作は、新世代の若者のメルクマールとして迎えられた。奔放な戦後青年像は当時の選評も二分し、「攻撃的」「快楽主義的」な表層的な印象から「太陽族」という流行語も生まれた。 という有名な書き出しから物語は始まる。結論から一言で言えばここで描かれるのは、恋愛に形を借りたファム・ファタール(宿敵)=英子との闘争だ。恋はそのまま拳闘に重ねられ、それは効果的に作中に持ち込まれる。  主人公

奔放で快哉な語り―太宰治「盲人独笑」

 太宰治『お伽草子』の作品はいずれも、古典をはじめ、当時から見て現代以前に題材を借りている。巻頭の「盲人独笑」は、江戸後期から明治を生きた、葛原匂当という箏曲家の日記である「葛原匂当日記」の引用(の形に見せかけた語り手の改作)である。  この「日記」の特異な点は、全編がほとんど平仮名で記されているということだ。その表記の形式が大きく絡むもう一つの特異な点は、この日記の書き手=匂当が、盲人であるということだ。語り手によれば、匂当は多才な人物で、音律に対する天賦の才のみならず、