奔放で快哉な語り―太宰治「盲人独笑」
太宰治『お伽草子』の作品はいずれも、古典をはじめ、当時から見て現代以前に題材を借りている。巻頭の「盲人独笑」は、江戸後期から明治を生きた、葛原匂当という箏曲家の日記である「葛原匂当日記」の引用(の形に見せかけた語り手の改作)である。
この「日記」の特異な点は、全編がほとんど平仮名で記されているということだ。その表記の形式が大きく絡むもう一つの特異な点は、この日記の書き手=匂当が、盲人であるということだ。語り手によれば、匂当は多才な人物で、音律に対する天賦の才のみならず、