【映画と語る】ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
好きな映画の話をしたい。
レンタルビデオ屋さん
20年ほど前のこと。
大学生になって、車を自分で運転できるようになって、レンタル屋さんに通うようになった。
当時は、VHSのビデオ7割、DVD3割ぐらいの割り合いで、レンタル屋さんの棚に並んでたんじゃないかな。
お店に入ると映画たちが並んだ棚が、ずらーっと並んでいて。少し前に映画館で上映されていた新作が、パッケージを前向きに置かれている。
ポスターで見たことある映画や、パッケージに惹かれた映画を手に取ってみたり。予告編がテレビに映し出されていたりして。「準新作になったら借りよう」とか計画してた。
毎週木曜が、旧作100円の日だったりして、新作・準新作のシールが貼っていないものを探す。
映画のジャンル別にエリア分けされていて。その時の気分でジャンルを選ぶ。最初にコメディかロマンスの棚を見に行くことが多かったかな。
旧作はパッケージの背表紙のタイトルだけが、ずらーっと並んでいて。
聞いたことのあるタイトルだったり、気になるタイトルのパッケージを引き出し、裏面に書いてあるあらすじを読む。
あらすじを読むのが好きだった。映画の雰囲気がつまっている。こんな感じの映画かな、と予想して、気になったものを借りる。
2~3作ずつ借りてたように思う。
気分によって、ミステリーを借りてみたり、ミュージカルを借りてみたり。サイコ・サスペンスはドキドキし過ぎるから見れない。ほんの気まぐれで手に取ってみて、パッケージのあらすじを見て、そっと棚に戻す。
洋画コーナーに居ることが多かったように思う。たまに邦画コーナーにハマるときもあった。
ヘドウィグとの出会い
気軽に見れるコメディやロマンスを借りることが多かった。ひととおり見たいものは見て、だんだん興味を惹かれるものが少なくなってきていた、ある日。うーん。2回目見るよりは、見たことないものを選びたい。
それまで何回も目にしていた、店員さんイチオシのポップが目に留まった。
音楽系の映画で、横に小さなモニターで歌ってる部分が流れていた。
店員さんの熱いメッセージが書いてあり、気合い入ってるなーとは思うものの、カラフルなギラギラした感じの映像やパッケージのインパクトの強さに、なかなか手が伸びなかった。
それが、ふと、手が伸びた日があった。店員さんの思いの強さが、ついに私の心に響いたのだと思う。
たしか、留学する直前だったんじゃないかな。
自分の部屋に、兄のおさがりのビデオプレーヤー一体型の小さなテレビを持っていた。そこに、VHSを差し込んで、映画を見た記憶がある。
映画の始まりは、レンタル屋さんでも流れていた、ギラギラした歌から始まる。いきなり、「アングリーインチ」の意味を知らされ、わけもわからないうちに、その歌の魂の叫びのような、寂しさのような何かに引き込まれる。
ちょっとカオスな映画の始まりにびっくりしながらも、出てくる歌が、ひとつひとつ素敵で。可愛かったり、面白かったりする。
当時は、まだ失恋を引きずっていたように思う。なんとか留学が決まり、ほっとすると同時に、見知らぬ場所での暮らしが想像できず、ふわっとした不安がつきまとう。
低空飛行の私の気分が、ヘドウィグの歌で浮上した。
素敵な曲たち
ここに全部の歌を、YouTubeで探してきて貼りたいぐらい。全部、映像と一緒に曲を楽しんでほしいから。
Wig In A Box という曲は、落ち込んでいるヘドウィグが、お化粧とウィッグを身にまとうことで、どんな素敵な人にでもなれるように、元気になっていくのが印象的。バンドのメンバーがお茶目で可愛い。
Sugar Daddyは、パトロン的なパパの歌で、茶目っ気と下ネタの境目がギリギリな感じで。全体的に明るくテンポ良く、見ている人がヘドウィグのファンになっちゃうよねって思う。
何よりも The Origin Of Love がうっとりとしてしまう。これはぜひぜひ、映画の映像と一緒に聞いて欲しい。
男と男、女と女、そして男と女が背中合わせにくっついて、一人の人間だった。一人の人間が神により引き裂かれたのが「愛の起源」。もとに戻るよう求めあうのがメイク・ラブ。引き裂かれたその痛みこそが「愛」という。
なんか、この曲を聞いていると、その世界観にうっとりしてしまい、いろいろ持っていかれる。自分のOther Half(片割れ)と出会えたら、と胸がきゅっとなる。
そして、映画の締めに来るMidnight Radio。はみ出し者とされるような、強い意志をもつ女性に捧げる歌のように感じた。もう映画のこの段では、男とか女とかそんなんどうでもいい、ってなるけど。
どんな自分でも完全で、美しく輝いている。
とにかく、意志をもって、自分をもって、生きていくんだという決意に感じる曲。何回聞いても、心の奥から力が湧き出てくる。
聞き込むほどに
実は、一回目にこの映画を見たときは、異様な雰囲気にのまれてしまった。ぎょっとしながら、途中にはさまれる素敵な曲たちに助けられながら、最後まで見終わった。
それが、なんか、いつまでも心にこの映画の空気感が残っていて。留学途中に一時帰国する機会があって、Amazonで注文して届いてすぐに留学先に持って行った。
ちょうど、留学先では、今は夫となっている人に出会ったり、完全なるマイノリティとして生きていて。自分の中にある葛藤とか、期待と現実とか、誰かと離れることで引き裂かれる心のような、そんな気持ちとか。
何回も映画を見ながら、この世界にどっぷりとひたっていたと思う。
そんな私の愛する映画。ヘドウィグ・アンド・(ザ)アングリーインチ。
見る人を選ぶのかもしれないけど、でも、めちゃくちゃオススメです。
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