こちら葛飾区亀有聖霊病院前キチガイ

三月二十日。

おれはみどりのわっかを受け取った。みどりのわっかだ。インスタグラムのみどりのわっかさ!「親しい友達リスト」の申請を受け取ったんだ。とある女からだ。
「親しい友達」!「親しい友達」だぞ!なんと喜ばしい、光栄なことだろう。受け取ったとたん、心の中から爆発的なよろこびが押し寄せる。こんなことは同性ではありえない。異性であるからこそ嬉しいんだ。落ちるか落ちないかのギリギリの境界線!生と死のはざま、殺し合いの螺旋にいま立ったということだ。

・・・だがこんなことはどうしようもないことで、その女には婚約を決めた男がいる(いつもこうだ)。優秀な、おれのような底辺とはかけはなれた文句なくナンバーワンの切れる男。なぜ人間がこのように大胆な行動が取れるかといったら、心に決めた伴侶がいてこそなのだ。そしてまたおれも、相手がそうであるからこそ下手な真似はせずにこうしていられるのだ。

疑似恋愛・・・!
愛するものがいてこその絶対的信頼・・・!
踏み外さぬ絶対的境界・・・!


「ああくだらない。独り身の妄想だ。こんなくだらない考えはよすべきだ。恥ずべきだ。貞操観念が欠けている。もっと真面目に働いたらどうか。」

働いている。ここ最近は真面目に働いている。おれはきのう全部やった。新しい持ち場の新しい仕事を完全にマスターした。ちょっと前までは「こんなのできるようになるまであと半年は必要だ」と泣き言を漏らしていたが、今は違う。きのうから違う。おれはぜんぶできるようになったんだ。自分でも驚いている。先輩も驚いていた。
ストレスとプレッシャーは適度には必要なものなんだ。初めてわかったよ。頭から真っ先に無くすべきものかと思っていた。とくにプレッシャーは大切だ。退屈に効く薬だよ。あたまが真っ白になるほどの緊張から、放たれた時の開放感と充実感ったらない。病みつきになりそうなくらいきもちがいい。失敗なんて大したことはない。それもまた経験だ。これが仕事というものだよ。

「たかだか2年半働いたくらいの契約社員風情が、のたまうなよガキが。本当の仕事ってやつを知らないんだ。おまえはおまえの世間のなかで辛いとか緊張するとか言ってるが、狭すぎる。低すぎる。もっと大変な仕事はたくさんあるんだよ。それでみんな大金をもらっているんだ。おまえはなんだ。みっともない。」

聞き捨てならないなちょっと待てよ。
たしかにおれはこの金額で生きてる程度の職場で働いているかもしれない。しかし、他の周りを見てもおれほど多くの持ち場を担当できる社員はいない。あれも覚えたこれもできる。あれも作れるときたもんだ。最近ではどうしてこれっぽっちの金しかもらえないのかが不思議だよ。もっともらったっていい。他の怠けてる連中、一つ二つくらいの種類しか覚えぬできぬ連中、そんな奴らの中でおれがいちばん働いてるんだ。いちばんなんでもできるんだ。それがなんで同じ給料しかもらえないんだ?いいや、そればかりか年齢職歴が長いというだけでおれよりもらっていたりする。ふざけるな。金だ、金をよこせ。世の中ぜんぶ金だ。

「おまえは本当にバカだね。ただバカ正直に働いてるだけだ。会社の使い勝手のいいコマになっているに過ぎない。自覚しようね?自分のバカを。ただ働きゃ偉いなんてガキのいうことさ。大人はもっと器用に立ち回って生きなきゃ。周りを見てみろ、たしかにおまえより働いてるやつは他にいないだろう。これが知恵というものだよ。器用というものだ。」

いったいどういうことだ。

「まだわからないのか。誠実だけが取り柄なら女は見向きもしないよ。もっと悪く生きなきゃ。みんなサボってる。どうせ真面目に働いても同じ給料ならサボる方が得だ。そしてよおく注視してみろ、周りの動きを。あいつとあいつはノートパソコンをもってるな?彼らが何をしているのか気がつかなかったのか?」

あっ、別の仕事をしている!

「そうだよ。それで別の金を得てるんだ。この監禁されて退屈な仕事中に別の仕事をこなしてる。別でプラス10万くらいは得てるんじゃないか。」

な、なんだって!たしかにそういえばあの人はよく日本各地を旅行してお土産を買ってきている!

「だからあいつはあんなに太ってられるんだ。バカ正直に生きたって無駄だよ。もっと狡猾に生きろ。まあ焦ることはないさ、とりあえず全部の仕事をこなせるようになってからでもいい。おまえはこの中でいちばん若いのだから。なにもいまから手広くやれってわけでもない。じっくりと機を伺えばいいのさ。」

はい先生。

「若さってやつは厄介で、自分にはなんでもできる、失敗してもやり直せると考えて焦ってしまうもんだ。そうやってなにもまだ身にならないうちに自分の立場を不遇がって辞めてしまう。自分ばっかりがと思って病気になったりする。まわりの友人たちをみて惨めに思ったりする。
これは難しくてあんまり見極めのつかないところだが、まず三年。三年やってみてまだ不満があるなら辞めるべきだ。三年もすればいろんな立場の見え方がわかってくる。おまえはまだ二年と半年くらいか。どうだい、でもだいぶいろいろとわかってきたんじゃないか。」

はい、残すところはあと一つです。あと一つ覚えれば、僕はこの職場の仕事をコンプリートします。二年半かかりました。他にそんな人間はいません。

「いいか、大人にもなりきれてないガキのおまえはただ働いてりゃいいんだ。「働いている人間」というのはバイトも契約社員も正社員もみんな同じだ。芸術家も同じだ。よく勘違いしがちなのは、ミュージシャンや芸術家が「自由」「自由」とか言ってるが、あいつらだって働いてる。生きていくために必至に作品を作っている。ライヴやイベントを行なっている。こないだ捕まったピエール瀧も、飄々としながらとんでもないスケジュールで仕事をこなしていたんだ。「ああ芸能人は楽そうでいいなあ」なんて騙されるな。おまえにあれほどの仕事はできない。そしてピエール瀧におまえの仕事は務まらない。誇りなんて持つなよ。人の仕事をバカにするやつはたいてい自分の不幸に誇りを持っている。すがりついているだけの惨めな人間だ。ただ「働いている」という自覚だけを持て。「働くこと」に上も下もない。まわりの結婚ラッシュなんかどうでもいいことだ。彼らは彼らでそれなりの生活苦をまた得るだろう。子供を育てることだって大変だ。だから彼らはそれなりに厳しい拘束時間で働いて大金を得ている。子供を育てる保証だな。」

スピードが速すぎてなにを言っているのかわかりません。

「つまり、おまえはまだ三年も同じところに勤めたことがない大甘野郎だ。ガキ。のたまうな。ガキがよ。三年勤めてからようやくおまえの出番だ。大人の見せ所だ。隙間を縫って別の仕事を見つけ、稼ぐのだ。だからいまは焦らずに、ただ働くことだけに専念しろ。仕事以外でプライドを得ようとするのはそこからだ。恋愛なんかも話はそこからだ。土俵にも立てていない。それを緑のわっかがどうのとひとりで浮かれ回って、恥ずかしくないか。」

はい。二度といいませんし思ったりもしません。

「しかし、わたしはあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。」
マタイによる福音書からの一節です。しかと肝に銘じなさい。あなたは仕事とたまの制作だけに専念していれば良いのです。あんまり見てて恥ずかしいものだったから、わたしもすこし厳しい口調になってしまいました、こちらこそ謝ります。さあ、今日はもう帰りなさい。

はい。


三月二十二日。

FC2コンテンツマーケットで以前300円程で購入した動画が消えた。手元から消えた。なんで?と思ったら投稿者が蒸発していた。バカな。お気に入りだったのに。というか300円払ったのに。これって永久に残らないの?
と悔しがってまたライブチャット系の動画を漁って2つほど買って抜いた。いやあエロかったなぁとか思って寝てまた数日経って「また見たいなぁ」と思って開くとまた消えている。投稿者蒸発。Removed。なんじゃこらあああああああああああああああなんなんやこのクソコンテンツ!バカ!バカがよ!どこ行ったんだ。一体どういうわけなんだ。クソバカヤロウが。おれの700円。

購入した動画は「ストリーミング再生」と「ダウンロード」が可能になる。おれはいままで「ダウンロード」なんてバカがすることだと思っていた。なんでそんな携帯容量を圧迫するようなことするの?いつでも見れるじゃん、とたかくくってた。大間違いさ。このFC2コンテンツマーケットは無修正動画が反乱しているスラム街なんだ。探せば児童ポルノなんかもあるのかもしれない。犯罪が横行している。それ故にすぐに投稿者たちは姿をくらます。無修正動画を投稿し、購入者を募り、おおかた金はせしめたかなと思ったらもう、捕まる前にさっさと消えていく。

あるいは、この「投稿者がすぐ蒸発する」という仕組みを知らぬ今回のおれのような新参が、腹立ち紛れにまた動画漁りに巡ってくることを仕掛けているのかもしれない。まんまとハマったよクソが。思惑どうりさ。

おれはまた腹いせにFC2コンテンツマーケットに行った。出もどり猿。失った途端ありがたみが芽生えるものだ。クソが、クソが、とのたうち回りながら消えた動画を探した。だれか別の人があげてくれてるかもしれない、という淡い希望は砕かれた。どう探しても見つからない。検索ワード「ライブチャット」の検索結果約6000件。ページ数にして200ページ。この膨大なサムネイル画像を一つ一つチェックしていった。だが見つからない。3000個目まで見た。どう探しても見つからない。どう探しても見つからないところへまたおれを誘惑する別の動画。「なんでだ?なんでこんな可愛い人がこんなことを?」「ありえねえだろ、どうしちまったんだこの国は?」もはや探していた動画のことは忘れ、一目散に買ってトイレに駆け込みたい。ブツブツと呟きながらおれは深みにズッポリハマっていく。また買ってしまった。3つも。1000円超えである。これほど親不孝な買い物はあるか?死にたい死にたい。でも下半身は隆々とボッキしている、というこの半分人間。今度は以前の失敗を反省してすぐにダウンロードした。職場のwifiを使ってダウンロードした(これもまたスリルがあった)。これでもう絶対に、投稿者が消えようがおれのものだ。携帯が壊れる以外には、絶対におれのものだ。安心。そうするとなぜか抜く気が失せる。

いま携帯が壊れるという選択肢を書いてハッとして戦慄している。そうだよ。世の中には絶対なんてないんだ。電気グルーヴの音楽だっていまはこの世から消えてしまったし、おれもまんが王国で漫画を買いまくっているがこれだっていつ、王国自体が崩壊するかわからない。かたちあるものみなくずれる、諸行無常である。かたちなき電磁記録ならなおさら。

いったいこれまで幾数の人間がこのFC2コンテンツマーケットの仕打ちにやりきれない思いをしたか。ほぞを噛んだか。こんなことならダウンロードしておけばよかったと、記憶の中だけにある動画。しかしなくなったということはまた投稿者が復活して我々ゴミどもに「あの無念の」動画を配り出す時もあるはずで、だから、見張っていなければならない。パトロールしてなければならない。動機は「後悔しないため。」そんでまたエロいの見つけてハマっていく。これジャンキーの誕生。よくできたシステムだ?

「いまも張り付いてるんですか。」

いやいまはもう3つ新しいのを手に入れて、ダウンロードして熱は冷めた。さきほども言ったようにダウンロードした途端、抜く気が失せるんだ。プログレスバーが70%くらいになってきたときがいちばん興奮してるかもしれない。

「どんなときにまたFC2コンテンツマーケットに手を出すと思いますか。」

給料日とかヤバイっすね。ちょっと300円とか400円くらいで買えちゃうんで。

「違法なものは閲覧してないんですよね?」

さあこれがよくわかんないんですよ。もちろん児童ポルノとかは僕、性癖じゃないんで興味ないんですけど。アレはもう見るだけで捕まるっていう(笑)
無修正とかってどうなんすかね。今の法律だと見る人は捕まらないんですけど、所持はどうなんすかね。今完全に所持しちゃってますよねこれあはははは。まあ、受け手であるだけなら捕まらないとはおもうんですけど。ていうかモザイク入ってるか入ってないかで捕まるってよくわかんない、マヌケな感じしますよね(笑)

「笑い事ではないですよ。わたしは心配してるんです」

大丈夫です。家のデスクトップ型なら足がつくかもしれませんが僕は携帯です。僕は年中歩き回ってますからね。

「冗談じゃありません」

ああ、うるせえな。

条文:刑法175条は「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、 又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。 電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする(第1項)。 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする(第2項)。」と規定する。

これでいいか。無修正動画の所持は誰かに売る目的では禁止されているが、個人で楽しむ分にはいいんだ。それから違法ダウンロード法なんかもあるが、おれはちゃんとお金を払って合法でダウンロードしているんだ。だから大丈夫だ。大丈夫なはず。なんだか怖くなってきたじゃないですか。

「大丈夫なんですかね。消したほうがいいと思いますけど。でも、そこまでこだわっても所持していたいものなんですか。」

別に無修正にこだわっているわけではない。おれの趣味はライブチャット動画にあるからね。あんまり画質も良くなかったりする。
いちばん厄介なのは「お金を払っているのに投稿者の気まぐれでふい消えてしまう」ということだ。「もう後悔したくない」から持っていたいというのがいちばんの理由かな。

「なるほど。じゃあ特別無修正にこだわって動画を嗜んでるわけでもないんですね?」

いや、期待を裏切ってしまって申し訳ないが無修正にしてくれるならぜんぶしてほしい。「あの時いったいどうなってたんだろう?」と興味を持つ作品、場面はいくつもある。
時々思うんだが、おれはけつの穴も好きなんだ。けつの穴を眺めるのが大好きで、だからシックスナインもけつの穴が間近で見れるから好きなんだが、けつの穴って普通のモザイクありのAVなんか見てると、普段はかかってない。なのになんだろうちょっとお尻を開いてけつの穴の奥が見えそうになると「チロッ」とモザイクがかかることがあるんだよ。小石くらいのモザイク。あれ、なんで?ってちょっとシコりながら噴き出しそうになるんだけど、最近気づいたわ、あれ女優の人に対する配慮だね。いぼ痔とかだったのかな。

「ライブチャットの何がそんなにそそられるんですか?」

実は本場のライブチャットに参加したりとかは一回もないんだ。エロシーンだけ切り取った動画だけしか見てない。本場は無料から話して有料だからね。手間も時間も金もかかる。だからおれは2ちゃんでいう「まとめ民」みたいなもの。本物のライブチャットのファンには毛嫌いされるにわかだ。
本来、ライブチャットは自分の声が届いてその女と会話したり要求したりすることができるコンテンツなんだ。だがおれはその生放送一回きりで抜いて終わってしまうというのは嫌いで、それから独占欲が強く、他人のおっさんが山ほどちんこを出してしごいているのかと思うと気色悪くて、おれはそれを背徳感として見出すにはまだまだマゾヒストとは言えないんだ。
そういったライブチャットで得られる一体感というものはおれは興味がないんだ。ライヴなんかだって、未だにノリ方がわかんない。音響も、録音の作り上げられたものの方が好きだし、やっぱり一人で寂しくヘッドホンして聞いてる方が好きだしね。
単純に「女がドスケベさらけ出してやっている」っていうのが好きだったんだが、こないだライブチャットをやっている人のインタビューを読んだら「アレは全てパフォーマンスです」と言っていて、おれの夢は崩れ去った。しかし、その女が言うには、「なかには自分の恥ずかしいところを見せて喜ぶ変態女もいる」というから、可能性はゼロではない!
むかしからそうだった、中学校時代大好きだった盗撮オイルマッサージの動画も、盗撮トイレオナニーの動画も、おれは心のどこかで「100%ニセモノとは誰も言い切れないだろう」という点で覗き続けてきた。もしかして本当はこんな風なんじゃないかって。願っていた。クラスのあの女子が、こんなことをしているんじゃないかって、あのシャーペンを握った人差し指と中指できのう、オナニーしてたんじゃないだろうかって、そういう窺い知れない秘密を知りたくて見てきた。乞い願い。祈りのような目でエロ動画を見てきた。おれは女の本性を知りたくてエロ動画を見ている。リアルを見たくて見ている。
ライブチャットは盗撮動画に変わる、一般に存在する女たちの本性を覗けるかもしれないという、そういう期待がかかるジャンルなんだ。なんというかこちらの期待を背負って成り立っているというか。だから見ている。わかってもらえたかな。わかりやすく言えば松本人志のこれもそうだね。

「あなたはもはや童貞ではない。それで26年間生きてきて見つけた、結論めいたものはなにかありますか?」

1つ、ある。
おれは、女はオナニーをしないものだとずっと思ってきた。馬鹿らしいだろう、笑ってくれ。
だが、奴らもする。当然だよ、人間なんだから。優秀なんだから。しないやつももちろんいるだろうが、するやつもいる、これは幻想ではないんだという、これが26年生きてきたおれの結論だ。

「いつ、気がついたんです。」

去年だ。といってもなにか明確にこれだ!と聞いたわけではないし、決定的な何かがあったわけでもない。なにか感ずる瞬間というのはいつも、すでにいくつかの点が散りばめられているあとだ。それらおれ個人の無意識に沈殿した集積と、社会のムード。おれにとって社会とは2ちゃんまとめ、とりわけこういったタブーについての意見を聞けるのはマジキチ速報にあたるのだが、そこらへんでも去年あたりから「女のオナニー」をテーマにしたスレッドが散見されるようになった。

「興味深いですね。少し前までは「しているか、していないか」という感じのスレッドばかりで、決まって結論は「ここまで全員おっさん」という締めで終わっていました。ということはあなただけでなく、世間一般的にも女性の性処理についてのタブーはだんだんと緩くなってきているのでしょうか。」

そうだろうな。こないだは大手女性誌『an an』で女性の性処理について書かれた記事があった、その時の女性のオナニーの言い換えが「セルフ・プレジャー」という呼称で扱われていたのには笑った。95%は「セルフ・プレジャー」の経験があると。「セルフ・プレジャー」ってなんだよ。そんなピカピカした行為ならおれもやってみたいもんだね。女性は肌や髪のツヤが良くなるらしい。セックスをして胸がでかくなるのと同じだ。おれはそれは実地で五年かけて元カノの体で証明したから、事実だよ。女性ホルモンが出るんだ。女性は特だよ。

「(聞きたくねえよ気色悪い)あなた自身はその、女性が「セルフ・プレジャー」をしているという事実を知って、どう思いましたか。あなたが長年、盗撮モノやライブチャットで探ってきた真実が証明されたと知って。嬉しいことでしたか?」

これが難しいことだがね。
「知りたくなかった」というのが本音だね。どっかでいつまでも幻想の中で追い求めさせてくれって思ってた。旅が終わってみるとあとはなんにもなくてくだらない。つまらない。追い求めることが美しいのは、その追い求めた先の真実ではなくて、追い求めている姿なんだよ。チェ・ゲバラだってそうだろう。平和になったらつぎはまた別の戦争地へ向かっていく。彼は恋をし続けたかった人なんだ。愛と平和を叫べるのは、恋焦がれているあいだだけさ。おれも新しい、なにか一生わからないような疑問に向かって走らなくちゃならないな。
よく考えたら街中を歩く女性の大半はちんぽを口に含んだ経験があるんだ。地獄のような真実だよ。くだらない世の中だ。女性を敬え、ウーマンパワーだなんて、そういうことが見えないから女性でいられたんだ。彼女たちは男性になりたいのか?彼女たちのいう真実の女とは男のようになることなんだろう。そんな世の中はくだらないよ。女性らしくいてほしかった。
ちなみに先生は「セルフ・プレジャー」はご経験済みで?

「わたしは、そんなこと、したことがありませんよ。」

へっへっへっ。そうでなくちゃあ。先生は女性性ってもんがちゃんとおありだ。太宰治の「男女同権」を読んだかい?女性像とは、男が作り上げたものなんだよ。といってこっちが偉いなんてもんじゃない。そんなわけがない。彼もまたフェミニストだからな。男は男をバカだと思ってる。男は男の作ったイデアに神聖を感じたいんだ。われわれの神様でいさせてくれよ。人間らしい女なんていまさらおれたちはどうしたらいいのかわからない。ずっと神様でいてくれ。男が作った女性像に、ハマっていてくれたらこんなに感謝することはない。敬うことはない。それがあなたたちの「やさしさ」っていうもんだね。先生には「やさしさ」があったね。ありがたいことだ。

「(こいつマジで嫌い...ドストエフスキーの読みすぎ...汚ねえ、薄汚れてて...話す内容も全部最悪。はやく帰ってほしい...。)」

そしておれはそれを汚す。神を汚す。神を暴きたかったんだ。そこにカタルシスがあるというもんで、でもこんな情報社会になっちまえばもう、勝手に暴かれて、勝手に暴かれるどころか、女の方から反乱を起こしやがった。事実も結末もくだらないことばかりだ。いまは惰性で抜いているようなものだ。なあ、おれの新しい神はなんだと思う?教えてくれよ、見つけてくれよ、先生。

「ちょっと、なにを飲んでるんですか?」

酒だよ。ロング缶だよ。かまいやしねえだろう。こっちは病人で来てるんだから。
これで3缶目さ。ここにあと2缶ある。先生もどうだい。

「いりません。酔っている人の話はいつもつまらない。本心じゃありませんからね」

かたいこと言うなよ。酔ってるからこそ、本心なんだろう?いや違うな。おれの経験上、酔うとそいつの感情が強化されるんだ。喜怒哀楽が強化されるだけだ。だから本心だ、本心でないなんて、くだらない水掛け論だよ。黙っている時もあれば酔って饒舌になるときもある、人間とはそういうものだ。そのどちらも本心で、そのどちらも本心ではない。
いったい本心っていうのはなんだい?
さっきから気になっているんだろう、主人格は出てこないのかって。あいつはもう出てこないよ。手痛い説教をしたらしいな。

「...。」

浮かれてたものなあ。インスタである女から緑のわっかをもらった、緑のわっかをもらったって。「親友の証」というやつか。それを先生の前でもおおいにひけらかしてたらしいじゃねえか。

「...。」

相当ひどくキツく説教したと見える。おれは酔って寝てたがね、帰ってきたアイツの顔見たらすぐわかったよ。
姉さん、それは嫉妬というやつでっかい。

「...そうです。たしかにあれは嫉妬でした。わたしは治療者失格です。患者と医者のあいだなのに、心が惹かれるなんて、医師として失格です。でもたまらなかったんです。彼のそのうかれようが。そのときはじめて気がついたんです、自分がそんなに彼に好意を抱いているなんて、自分でもわかっていませんでした。失格です、失格です。」

なんだよ。張り合いねえな。どっちが患者かわからねえよ。つまらねえ。なにも泣くこたねえだろ。これでも飲めよ。おれは先生の話聞きてえな。

「いえ、失格です。医師になる人というのはもともと、そのなるきっかけというのは、自分の問題にあるものなんです。なにか自分や、その近くに、家庭だったり、人格だったり、なにか問題があって、それをどうにか解決したい、自分を救いたい、そういう動機で始めることがはじまりです。わたしもそうでした。でもだからこそ寄り添えるんです。だからわたしも、病人と言えるでしょう。それが、こんどぶり返してしまった。彼と話していると落ち着く自分がいた。でもそれはどうにか理性で打ち消して考えていたが、こんどの、緑のわっか、親友の証、を女からもらったと浮かれる彼を見て、爆発してしまったんです。決壊してしまったんです。嫉妬が。すみません、一口、いただきます。
悔しかった。虚しかった。わたしと彼はこんなに、医師と患者という間ながら、いやそれゆえにかもしれませんが、誰よりも打ち解けて、さらけ出して話していたのに、たくさんたくさん話してきたというのに、彼はまったく、わたしのことを女性としてみてくれなかったのだ。そう思ったら、嫉妬、憎悪が湧き上がって、怒り狂ってしまったのです。止められなかったのです。」

べつにアイツは先生のことを女性としてみてなかったってことはないぜ。性的には見ていたこともあるだろう。胸元に目がいって自分を恥ずかしく思ったって言ってたしな。おれたちは胸は特別興味がなくて尻派なんだが、やっぱり目線がいってしまうことが人間的で恥ずかしいとか。性的に見られるっていうのは、女性性が保たれるってことじゃあないかい?

「そんなんじゃ、ないんです。そんな、猿みたいなことじゃないんです。だれだって、どんな生物だって異性なら、性的にみてしまうときだってあるでしょう。そんなことはどうだっていいんです。生理現象です。でもわたしと彼は違った。そんな生理とかよりもずっと深い、楽しおはなしで笑いあったことがある!それなのに彼はわたし以外に救いを見つけた!そうです!それが許せない!結局、わたしが彼を救えなかった!医師であるわたしより、そこらのなんでもない女のちょっとしたサインになにより浮かれて、救われた!その事実が許せない!自分が許せない!結局、彼は、わたしのことを女性としてみてくれなかったんだって、わかった。いえ、それは医師としては合格ですが、わたしは、彼のことを好きだったわたしとしては、失格です!どうして?あんなに楽しかったのに。あんなに二人で話して楽しかったのに!どうして彼は、わたしのことを見捨てたのでしょう?」

それは照れだね、先生。照れ隠しだよ。別に見捨てたわけじゃない。もちろんアイツが緑のわっかをもらってはしゃいだのは本当さ。でもそれを先生にあえて教えるっていうのは、彼なりの照れ隠しだよ。一種の好奇心だよ。彼がたとえその女とどうにかなったとしても、べつに先生のことを忘れることなんかはないさ。

「そんな言葉は、いらない。くだらない。許せない。その女が許せない。わたしの方がたくさん、知っているのに。悩みや、なにや。たくさん、たくさん、聞いてきて、話をしてきたのに!勝手にいきなり横から入ってきて、勝手に奪われた!嫌だ、嫌だ嫌だ。わたしはこんなに好きなのに!どうして?」

伝えなかったのが悪かったのさ。伝えても、アイツは逃げるだろうがね。医師と患者。この距離は絶対的だ。絶対的で犯すことがないゆえに、アイツはアンタに甘えたのさ。甘えたのによ。あんたの話を聞いていると、こっちが医者になった気がしちまう。落ち着こうや。だれが悪いというわけでもない。アイツは患者と医師のあいだで甘えた。あんたは恋心が勝ってしまった。なんだかすっかり酔いが覚めちまったよ。おれはもう帰る。今度のことは伝えておくよ。できるだけ、いままでどおりの先生の姿で、神様でいられますように。

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