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【W】今後の旅行計画

一年の中で、11月が一番好き。
徐々に空気がヒンヤリしてきて、夜が拡がり、「終わり」に近づいていく。
なぜかそこに安堵感を覚える。
日が短くなるとセロトニンの分泌が少なくなって冬季鬱になる人が
増えるような話を聞いたことがあるけれど、わたしは暗い方が落ち着く。
今日読み終えたニーチェ『この人を見よ』の「ツァラトゥストラ」章にある
ディオニュソスの夜の歌が、そんな自分の嗜好に拍車をかける。

夜だ。ほとばしり出る泉はいまみな声を高めて語る。そしてわたしの魂もほとばしり出る一つの泉だ。
夜だ。愛をもつ者たちの歌がみな、いまようやく目をさます。そしてわたしの魂も、心に愛をもつひとりの者のうたう歌だ。
(省略)
わたしは光だ。ああ、わたしは夜でありたい。だが、わたしが光につつまれていること、それがわたしの孤独だ。
ああ、わたしは暗くありたい、夜でありたい。そうなったら、わたしはどんなにか光の乳房にすがって飲むだろう。

ニーチェ著、手塚富雄訳『この人を見よ』岩波書店、第1刷:1969年、第55刷:2010年、p.161-2

歌の主旨は他にある訳だけど、表面上の意味だけを掬って、
この数行がわたしのなかでキラキラ、チラチラ、繊細に煌めいたのでした。
若いうちは、太陽のように明るくあることが美徳だと思っていた。
その理想に叶うべく「陽」キャのように振る舞っていたけれど、
わたしの根はどうしようもなく「陰」の性質を帯びていたようで、
大学生になって初めてできた恋人に、「君は太陽というより月が似合う」と
言われてしまった。そこから自分の性を自覚して暗い方を歩むようになった訳だが、そんな言葉をくれた彼のことを、この詩でふと思い出したのでした。


さて、前回は、これまで訪れたヨーロッパの街をひたすら挙げてみた。

直近行ったイギリス旅は、イギリスのゴシック建築を見ておきたいという主旨もあれど、一番の目的はロンドン、V&A ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵のジョヴァンニ・ピサーノ作品や、圧巻の複製コレクションの中にある、ピサーノ父子をはじめとするゴシック彫刻の石膏模型たちを拝みたかったからだ。

Giovanni pisano ジョヴァンニ・ピサーノ《磔刑のキリスト》1300年頃

見よ!この見事な肋骨とくびれを!息を飲む表現力に脱帽。
小さな象牙の作品だけど、緻密に丹念に制作されたのが伝わる。
the Cast Courts (V&A, London)

今回は、これから行きたい、いや、絶対に行く!海外の旅先を列挙したいと思う。

①New York ニューヨーク
アメリカには人生で一度しか足を踏み入れたことがない。
行ったのはハワイ。しかも小学校入学以前。
「アメリカに行った」と言って良いか怪しいところ。

ニューヨーク希望の第一の理由はやはり、ジョヴァンニの作品があるから!
Met(メトロポリタン美術館)の中世美術に特化した分館、Cloisters クロイスターズにそれらはある。ぜひ行きたい。なんとしても行く。

もちろんMetの本館にも行く。一日でまわり切れるのかなぁ。
MoMA(近代美術館)に行って大好きなダリの《記憶の固執》にも対峙したい。

本当はついでにフィラデルフィア美術館まで足を運んで
マルセル・デュシャンの遺作も見たいけれど、時間とお金が許すかどうか…。

②Toledo トレド、Córdoba コルドバ、Granada グラナダ
スペインは20歳のときに一度行ったけれど、ほぼ二大都市しかまわらず。
イスラム文化の面影を残す南部にもぜひ行ってみたい。
エル・グレコの描いたトレドの景観を直に目に焼き付けて、
コルドバでメスキータの、グラナダでアルハンブラ宮殿の建築装飾を
じっくり観察するんだ。スペインは料理も美味しい印象。うう、楽しみ。

③Sardegna サルデーニャ島、Firenze フィレンツェ
サルデーニャ州の州都であるCagliari カリアリの大聖堂内部には、
ピサーノ父子がつくった説教壇より一昔前な形態の説教壇がある。
これは、ジョヴァンニが制作した説教壇が設置される以前にピサ大聖堂内にあったもので、新しいのがきたからお古あげるよーといって、ピサからカリアリに
お下がりとして引っ越してきた、ちょっと気の毒?な説教壇なのだ。見たい。

ついでに、なのか、もう一つの目的と言ってもよいが、フィレンツェに寄りたい。
20歳、30歳の年にフィレンツェに降り立つことができたので、
今後も10年毎の節目イヤーに行けたらいいなと思い描いている。
人生はそんなに上手くいかないかもしれないけれど、密かな夢。
だから、今度のイタリア旅行は40歳の年に行こうと思っている。

④Avignon アヴィニョン、Cluny クリュニー、Lyon リヨン
ジョヴァンニの作品はフランス・ゴシック彫刻の影響を受けている。
前掲のV&A所蔵品も、様式はもちろんのこと、「象牙」で「小品」であるということからして、フランス的である。(当時は、象牙製で持ち運びの容易な小型祭壇や聖遺物入れなどが多くフランスで作られ輸出されていた。イタリアではそのような作品が制作されることは珍しく、ジョヴァンニもフランスからきた何らかの小品を参考にして同作品を制作したものと考えられる。)
そういった事情もあって、フランス・ゴシックはいつも関心範囲には入っており、
北部の主要な聖堂は学生時代の旅で一通り回った。
一方、南部は行ったことがないなーということで、
ジョヴァンニがピサ大聖堂説教壇の制作を完了しかけていた1309年に起こった「アヴィニョン捕囚」、それきっかけに建設された教皇庁を見ておきたいと思い立った。状態はよくなさそうだが、シモーネ・マルティーニの壁画も見ておかねば。

あとの二都市は近いからついでに、なノリではあるが、ぜひとも行ってみたい。
クニュニーは、いわずもがなクリュニー修道院。現在残っているのはほんの一部で、複雑な改修フェーズを経て超大型建築となった当時の威光を微かにでも感じてみたい。行く前にはクリュニー建造時系列メモをつくって持参しよう。
リヨンには何があるかよく知らないけれど、のんびり楽しく観光したい。

⑤、⑥フェデリコ2世の聖地巡礼
「聖地巡礼」なんていう今時の言葉でまとめちゃったけれど、
信仰が厚いとは言い難いフェデリコ2世ならきっと許してくれるだろう。
今のところ、詳細な旅のプランは立っていないが、必ず行きたい場所は二つ。

まずは、プーリア州のだだっ広いところに突如どーんと立っていそうな(行ったことがないのであくまで想像)Castel del Monte カステル・デル・モンテ。
近くの大きい街というとBari バーリかなと思うので、ここに宿をとってカステル・デル・モンテ日帰り観光ができるかしらと目論んでいる。

もう一つの目的地は、Sicilia シチリア島、Palermo パレルモの大聖堂。ここに眠るご本人の墓参りがしたい。

バーリとパレルモ、イタリア南部旅として一回でどちらもまわれるかなと思いつつ、移動時間ばかりの旅行になってももったいないので、⑤南イタリア、⑥シチリア、として二回に分けて行きたいと計画中。

⑤については、以前の調査旅行でナポリに赴いた際、研究対象だった七つの美徳の擬人像表現が想定以上にたくさん見つけられたので、関連の聖堂装飾がナポリ近郊の街でも見つかるかもしれないという期待がある。ジョヴァンニの弟子であるTino di Camaino ティーノ・ディ・カマイーノがナポリに作品を残しているから、もしかしたらその影響を感じるような作品にも周辺都市で出会えるかもしれないね。

⑦Paris パリ、Saint-Denis サン=ドニ、Strasbourg ストラスブール
パリの国立中世美術館(クリュニー美術館)が2023年に購入した、これまたジョヴァンニ・ピサーノの象牙小品に会いに行くことが第一目的。
火災後のノートルダムの現状も見ておきたいし、美味しいチョコレートも欲しい。

また、フランス・ゴシックも④で述べた通り学習対象なので、最初期のゴシック建築としてサン=ドニ大聖堂も拝んでおきたい。シェジェールやクレルヴォーのベルナルドゥスといった関連人物たちのことももっとちゃんと勉強しておかないと。
ストラスブール大聖堂も行くよ。前回のゴシックを巡る旅では行けなかったから、今度こそ。ドイツに近いからフランスといえどちょっと文化が違いそうで楽しみ。

以上、これらの旅を2年おきに実行していくのが当面の目標であり生き甲斐。
そして、⑧50歳の年に、再びフィレンツェに降り立つ。この旅では20歳のときにホームステイをした、心の故郷ピエンツァにも寄れたらいいなと思う。当時毎日目にしていたトスカーナ特有の小高い丘、その上に広がるオリーブや葡萄畑、遠くに見えるアミアータ山の美しい景色が、わたしにとっての原風景なんだよなぁ。

来年夏予定のニューヨーク旅から、⑧に至るまで、実に16年計画。
興味の矛先が変わることなく、かつ健康であり続けられれば、ぜひ実現したい。



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