見出し画像

【H】ネット選挙の新時代—2024年日本政治の観察記(1)都知事選前の政治状況

2024年は政治や選挙を観察していて興味の尽きない年だ。「風」が吹くからだ。

都知事選の石丸伸二氏、自民党総裁選の高市早苗氏、総選挙の国民民主党と玉木雄一郎氏、そして、現在進行形の兵庫県知事選の斎藤元彦氏。

「風」は選挙期間中に起こり、事前の下馬評とは大きく違う結果をもたらす。それは政治の風景を変える。2024年の「風」の出どころは明らかにネットである。その新しい「風」の特質と、その帰結をどう見るべきか。この「風」を主役として、2024年の日本政治の観察記を記したい。

この(1)では、前段として、2024年の都知事選までの政治風景をざっと振り返ることにしたい。

1、「安倍一強」時代からネオ55年体制へ

2024年以前の政治風景を振り返っておこう。

現在の政治風景の起点は、やはり第二次安倍政権だろう。自民党が選挙で勝利し続け、「安倍一強」と呼ばれた時代である。この「安倍一強」の延長線上で、最近はネオ55年体制ということも論じられた。

そもそも平成の政治は、保守の自民党が万年与党で、革新(リベラル?)の社会党が万年野党だった55年体制という昭和の政治を、政権交代可能な保守二大政党制に取り替えることを目指していた。政権交代は2009年に実現したが、その結果生まれた民主党政権が国民の期待に十分に応えることができず失敗に終わったあと、いろいろあって最終的にはまた55年体制のようなものに戻ってしまった。それがネオ55年体制論の認識だ。

このネオ55年体制ということが言われるのは、立憲民主党が野党第一党となったことと密接不可分だろう。安倍政権時代、唯一政権交代の可能性があったのが、2017年の「希望の党」騒動のときである。2016年の東京都知事選で小池旋風を巻き起こした小池百合子が、「希望の党」で衆院選に進出。そこに民主党の後継政党である民進党が飲み込まれていったのである。

初めは政権交代しかねない勢いで、再び保守二大政党制を実現する可能性があった希望の党ムーブメントだったが、小池都知事による「(憲法や安全保障についての考え方が違うリベラル派は)排除いたします」という言葉が冷たいものと受け取られて大失速。排除されたリベラル派である枝野幸男が中心となって立ち上げた立憲民主党が同情を集め、議席数でも希望の党を上回って野党第一党となった。

その後、希望の党は国民民主党に引き継がれるが、一貫して勢力は立憲民主党に劣り、2020年には大半が立憲民主党に合流。国民民主党に残ったのは玉木雄一郎を中心にしたごく少数の議員だった。

こうして立憲民主党は野党第一党の地位を確かなものにしたのだが、その結党の経緯から明らかなように、リベラル色が強く、55年体制で万年野党だった社会党的なものを色濃く受け継ぐ。護憲派で、安保法制は違憲、原発は反対等々、少なくともこれまでの日本の政治風土のなかでは「現実的でない」とされる理想主義的な立場を取り、したがって政権担当能力を疑問視され、広がりを欠き、せいぜいが与党批判に終始する万年野党と見做されてしまうことも多い。

民主党下野後の野党分裂、希望の党騒動など、自民党政権復帰後のさまざまな政治の動きの中で、このような性質を持つ立憲民主党が野党第一党に収まったことが、政権交代の現実味を失わせた。これが現代の政治システムがネオ55年体制と言われるうる所以であるだろう。

2、「安倍派崩壊」と立憲民主党の台頭―都知事選前の政治風景

2024年は、このネオ55年体制の変容が予見される年として始まったということができるかもしれない。

2022年参院選直前の安倍氏の死から、統一教会問題・国葬議問題の紛糾を受けて、岸田政権の支持率は低迷。2023年には広島サミット等の外交成果を受けて持ち直すも、年末にかけて、安倍派を中心とした「政治資金不記載問題」、いわゆる「裏金問題」にて再失速。

こうした安倍一強の負の遺産を受け継ぐなかで、自民党の支持率も低迷。このことの背景には、コロナ後の世界インフレの煽りを受けて、日本でもインフレを輸入することになり、コスト・プッシュ型のインフレが生じたことがあるだろう。その中で二年以上も実質賃金が下落し続け、さらにインボイス導入や社会保険料増額等の負担増政策が行われた結果、生活苦の問題が広がりつつあったのである。それが、莫大なお金をサッと懐に入れられる(と受け取られた)「裏金議員」への反発の火に油を注いだというわけである。

このなかで2024年4月の衆議院の三つの補欠選挙では立憲民主党が全勝。このうち二つの補選は、自民党議員の不祥事からの辞職の結果だからということで、自民党が候補を出していなかったことも大きいものの、保守が強い山陰の一選挙区で自民党に大勝したこともあり、立憲民主党は明らかに勢いづいていた。万博や兵庫県の文書問題に端を発した維新の失速もあり、立憲民主党を中心とした政権交代ということが、久しぶりに少しは現実味を持って語られ始めたのである。

ネオ55年体制から、再び政権交代可能な(保守?)二大政党制へ向かうのか。これが、大要、東京都知事選までの2024年の空気だったということができる。

以下の記事に続きます。


いいなと思ったら応援しよう!