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著者が語る:『反オカルト論』<フォックス事件の真相>!

『反オカルト論』は、「非論理・反科学・無責任」な妄信を「欺瞞=オカルト」とみなす一方で、その対極に位置する「論理的・科学的・倫理的」な人類の築き上げてきた成果を「学問=反オカルト」とみなすという「広義」のスタンスに拠っている。

21世紀の現代においてさえ、「オカルト」は生き続けている。社会には「血液型占い」や「六曜」や「十干十二支」のような迷信が溢れ、「占星術」や「祈祷治療」や「霊感商法」のような妄信が跋扈している。さらに、「生まれ変わり」を煽る<医師>、「研究不正」を行う<科学者>、「江戸しぐさ」を広める<教育者>が存在する。その背景には、金儲けや権威主義が絡んでいるケースも多い。

本書では、「騙されない・妄信しない・不正を行わない・自己欺瞞に陥らない・嘘をつかない・因習に拘らない・運に任せない・迷信に縛られない」ために、自分自身の力で考え、状況を客観的に分析し、物事を道徳的に判断する方法を、わかりやすく対話形式で提示したつもりである。

その「第5章:なぜ嘘をつくのか」の「フォックス事件の真相」には、次のような議論が登場する(pp. 186-186)。

教授 一八五三年一月六日、第十四代アメリカ合衆国大統領フランクリン・ピアースの十一歳の息子が、列車の脱線事故で亡くなった。
 大統領夫妻の最初の息子は出産時に亡くなり、二人目の息子は発疹チフスのため四歳で亡くなった。三人目の息子まで失った大統領夫人は、我を失って、フォックス姉妹に交霊会を開いてほしいと依頼した。
助手 そこまで不運が続くとは、大統領夫妻も辛すぎますね。そこに付け込むのがスピリチュアリズムですが……。
教授 超大物の「獲物」からの依頼にレアは小躍りして喜び、絶対に承諾するようにとマーガレットに指示した。これをケインが必死で止めようとした手紙が遺っている。
 「大統領夫人にラップするな! 君は絶対にしないと誓ったのに、もう二度も約束を破っている。僕を愛しているなら、今度は僕の言葉を聞いてくれ!」
助手 こんなに必死に止めているのに、まさか……。
教授 一八五三年三月、マーガレット・フォックスはワシントンを訪れ、第十四代アメリカ合衆国大統領フランクリン・ピアースの夫人ジェーンのために交霊会を行った。
助手 あんなにエリシャ・ケインが止めたのに……。
教授 何といっても大統領夫人からの依頼だからね。しかも夫人は、三人の息子を続けて亡くして悲嘆に暮れていたから、断りきれなかった一面もあるだろうが。
助手 でも、いくら遺族を慰めるためとはいえ、「死者の霊と交信」と言いながら、足の指で音を鳴らして相手を騙すなんて、どう考えても詐欺じゃないですか!
教授 だからこそ、ケインもこれまで以上にマーガレットを激しく「叱責」した。そして彼女も、これを最後に「降霊詐欺」をやめることを決心したわけだ。
助手 ケインが結婚して側にいてくれたら、彼女も幸福になれたのに、彼が三十七歳の若さで亡くなるなんて、本当に不運でしたね。
教授 それでもマーガレットはケインとの約束を守り、その後三十五年以上にわたって「降霊詐欺」には手を出さなかったようだ。
 それどころか、彼女は過去の自分の不正行為を告白して、それが『ニューヨーク・ワールド』紙一八八八年十月二十一日号の「スピリチュアリズムの暴露──マーガレット・フォックスが欺瞞を告白」という記事になったのも、以前見せたとおりだ。
 この日、マーガレットと妹のケイトは、ニューヨーク音楽アカデミーで二千人の聴衆を目の前にして、実際に靴を脱いで「ラップ」音を響かせてみせた。会場にいた二人の医師がステージに上がり、たしかに彼女たちが足の指の第一関節から音を出していると証言した。会場は「爆笑の渦に巻き込まれた」という。
助手 どうしてそこまで惨めな姿を晒したのかしら。
教授 大きな理由は、やはり多くの人々を騙してきたことに対する「懺
悔」だろう。といってもケインが必死に更生させたから、マーガレットが表立って交霊会に出席したのは、十四歳から二十歳までの六年程度にすぎなかったわけだがね。
 ケインの死後、彼女は自発的にローマカトリック教会の洗礼を受けて熱心な信者になったから、キリスト教の「神」に救われたいという思いもあっただろう。
 さらに現実的な理由として、彼女は切実に生活費を稼ぐ必要があった。
助手 そんなに困っていたんですか……。
教授 ケイトも夫に先立たれて以来、アルコールに溺れて遺産を使い果たし、生活に困っていた。フォックス姉妹の「告白」と「実演」に対する報酬は千五百ドル程度だったようだが、二人は自分たちを「晒し者」にしてでも、現金を手に入れる必要があった。
 二人は、ルーベン・ダベンポート著『デス・ブロウ・トゥ・スピリチュアリズム──フォックス姉妹によって暴露された真実の物語』という本に全面的に協力して、スピリチュアリズムを徹底的に批判した。
助手 「デス・ブロウ」とは、すごいタイトルの本ですね。まさにスピリチュアリズムに「死の一撃」を与えた第一級資料でしょうが、こちらも日本ではほとんど知られていませんね。
教授 日本でも世界でも、スピリチュアリストが一番見たくない暴露本かもしれない。こういう本こそ、公平に書店のスピリチュアリストのコーナーに置いてほしいものだがね。この本の中で、マーガレットは、次のように宣言している。
 「皆様ご存知のように、私はスピリチュアリズムの詐欺に最初から深く加担してきました。私が人生で最も後悔しているのは、私が人々を欺いてきたことが真実であり、その真実を告白することが遅すぎたことです。今ここに私は真実を申し述べますから、神様、どうか私をお許しください。その創始者の一人として、スピリチュアリズムは最初から最後まで完全な虚偽であり、何よりも浅薄な迷信であり、この世で最も邪悪な神への冒涜であることを誓って申し上げます!」
助手 そこまで激しく批判していたとは……。
教授 これは『ニューヨーク・タイムズ』紙一八九三年三月五日号のコピーだ。日曜版だから最後のページが消息欄になっている。その下段の「マーガレット・フォックス・ケインの貧困」という記事を見てごらん。
助手 なになに、「フォックス姉妹の一人であるマーガレット・フォックス・ケインは、貧困のため、長く暮らしていた西五十七丁目四五六番地の一室から退去することになった。彼女は重病のため衰弱しているが、火曜日には部屋が没収されるだろう」ですって……。
教授 すでに話したように、その五年前、マーガレットは、過去の自分の不正行為を新聞や書籍に告白し、さらに公衆の面前で、足の関節で「ラップ」音を実演してみせた。しかし、そこまで自分を「晒し者」にして入手した現金も、一年足らずの間に浪費してしまった。
 生活費が不足するようになり、恥も外聞もなくなった彼女は、「実は自分が言ったことは嘘だった」と告白を撤回して、再び「降霊詐欺」を行おうとしたが、もはや客は集まらなかった。家賃も払えなくなって滞納した結果、ついに家主から訴えられて、追い出される日が迫ったわけだよ。
助手 この記事には、「ケイン夫人を特別療養所へ入所させるため、寄付が募られている」と書いてありますよ。そこまで落ちぶれてしまったなんて……。
教授 追い出された日の翌日、マーガレットは路上で行き倒れ、そのまま息を引き取った。六十歳だった。
 彼女と同じようにアルコール依存症だった妹のケイトも、その前年、貧窮のため五十五歳で亡くなっている。ケイトは「スピリチュアリズムは、これまで世界に存在した中でも最大の呪いの一つです」と述べているが、まさに呪われたかのように、スピリチュアリズムを創始したフォックス姉妹は、揃ってホームレス状態で悲惨な死を遂げた。
助手 二人をそそのかした長姉レアは?
教授 レアは、二人とは絶縁状態だった。マーガレットとケイトは「降霊詐欺」を社会に告白した時点で、初期段階からレアが黒幕だという内情も暴露したからね。レアからすれば、二人の方が「裏切り者」だということになる。
 レアは、姉妹を操る交霊会で味を占めて以来、自分も霊媒師となって金を儲けたうえ、銀行家だった夫の遺産も受け継いで裕福だったが、妹たちには何一つ遺さないまま、一八九〇年に七十六歳で亡くなっていた。
助手 フォックス姉妹のことをネットで検索すると、いまだに「本物の霊能者」とか「スピリチュアリズム界のスーパースター」と称える記述が多くてビックリします。二人は、すべてが不正行為だったと何度も告白しているのに……。
教授 当時から現在に至るまで、スピリチュアリズムの信奉者は、「心霊現象」を否定する事実を直視しようとはしないからね。場合によっては、「事実」を捏造することさえある。
 そもそもレアは、姉妹を売り出すためにストーリーを創り上げていた。それは、フォックス家が引っ越してくる前、屋敷に住んでいた男が行商人から金銭を奪って殺して地下室に埋め、その被害者の「霊魂」が彷徨って、姉妹と交信を始めたというものだ。
 すると、この話に口裏を合わせるかのように、『ボストン・ジャーナル』紙一九〇四年十一月二十三日号に、旧フォックス家の地下室で遊んでいた子どもたちが、「人間の遺体らしき白骨を発見」という記事が出た。
助手 まさか!
教授 その翌日の『ニューヨーク・タイムズ』紙には、「フォックス姉妹の家から発見された頭蓋骨のない骨」と真相を暴露した記事が出ている。実は、誰かが動物の骨を集めて人骨に見せかけて配置したが、さすがに頭蓋骨までは準備できなかったというわけだ。
助手 人は、信じたいことを信じるために、捏造までしてしまうんですね!

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さて、読者がマーガレットの立場だったら、「降霊詐欺」で大金持ちになって優雅な生活を送ろうとは思わないだろうか? なぜ彼女は徹底的に落ちぶれ、妹ケイトもアルコール依存症で亡くなってしまったのか? 今でもフォックス姉妹を「本物の霊能者」と持ち上げる「スピリチュアリスト」は、なぜ姉妹の悲惨な「死」に触れようとしないのか?

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高橋昌一郎
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