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思考力を鍛える新書【第5回】マインド・コントロールとは何か?

連載第4回で紹介した『霊と金』に続けて読んでいただきたいのが、『マインド・コントロール――あなたのすぐそばにある危機!』である。本書をご覧になれば、なぜ人はいとも簡単に「マインド・コントロール」されてしまうのか、なぜ「マインド・コントロール」された人を「自己責任」だからと安易に切り捨てられないのか、実感できるだろう。

著者の紀藤正樹氏は、1960年生まれ、大阪大学法学部卒業後、同大学大学院博士前期課程修了。現在はリンク総合法律事務所所長・弁護士。人権問題・消費者問題・児童虐待問題に積極的に取り組み、『カルト宗教』(アスコム)や『悪徳商法・詐欺と騙しの罠』(日本文芸社)などの著書もある。

紀藤氏といえば、「統一教会」(宗教法人「世界基督教統一神霊協会」)被害者らの代理として、教団の「マインド・コントロール」の違法性を問う裁判を1991年に東京地裁に提起、1994年の「松本サリン事件」では被害者弁護団事務局長、2000年の「神世界事件」では被害対策弁護団長を務めるなど、さまざまな「霊感商法」や「詐欺事件」の裁判に登場する。

「オウム真理教被害者の会」を組織した当時33歳の坂本堤弁護士は、早くからオウム真理教の「反社会性」を指摘していた。そして1984年11月、彼は29歳の妻と1歳の長男と共に、自宅に侵入したオウム真理教の実行犯6名に殺害された。「彼のことを考えると、いまでも胸が熱くなります」という紀藤氏は、坂本氏が生前に述べた「信教の自由といっても、何をしても許されるという自由ではない」という見解を多くの裁判で主張し続けている。

2000年9月、広島高等裁判所は、統一教会の伝道の違法性を訴えた裁判で「日本で初めて宗教団体による勧誘・教化行為の違法性を認めた画期的な判決」を下した。統一教会は上告したが、2001年2月、最高裁判所はこの上告を棄却、「統一教会の違法性」が確定した。

本書に挙げられている「統一教会の組織的なカネ集めの典型的なやり方」は、次のようなものだ。夫に先立たれて、莫大な遺産を相続したX婦人がいるとしよう。統一教会は、彼女から財産を奪うために、教団内で「サミット」と呼ばれる10人ほどのチームを作る。

最初に親切そうな女性Aが表れて、会話をしていくうちに「たまたま趣味が同じ観劇」であるとX婦人は気付く。実は、教団が彼女の趣味を事前に調査して「観劇」に詳しいAを派遣したのである。一緒に劇場に行くと、Aの知人Bが「偶然」現れ、「ひどい腰痛に悩まされていたが、最近完治した」と話す。これも、X婦人が腰痛持ちであることを調べた上での段取りで、BはX婦人を「腰痛から解放してくれた霊能師」Cに紹介することになる。

教団の道場に連れていかれたX夫人を「霊能師」Cが占うと、腰痛の原因は「過去にさまざまな罪を重ねてきたから」だという。最初の「除霊」は3千円だが、もちろんX婦人の腰痛は治らない。次に「悪霊が重いから」と数珠を1万円で買わされる。この頃には、教団の経済担当者によってX婦人の所有財産は綿密に査定され、そのレベルに応じて、数十万円の印鑑や数百万円の壺を買わせていく。中途半端に「除霊」をやめると「地獄で永遠に苦しむことになる」と集団で脅し、家や土地も含めて全財産を奪い取る仕組みである!

これまで無数の「マインド・コントロール」の「手口」を見てきた紀藤氏は、「信者として取り込まれていく被害者」が教団のチームを見抜くことは「ほとんど不可能」だという。

コーチに心酔して、練習方法ばかりでなく、日常生活の生き方まで指示を仰ぐスポーツ選手。上司の命令に絶対服従する会社員。何から何まで教育ママの言うとおりにする従順な子ども……。よく見かける光景だが、その支配が「法規範や社会規範から逸脱した影響力の行使」を伴えば「マインド・コントロール」の定義に該当することに注意が必要だろう。

世の中白か黒か、マルかバツか二つに一つで、曖昧さやファジーな部分を許さない。こんな教育をやってばかりいるから、「君のいうことは違うと思う」と断ることのできる人間が育たないのでしょう。カルトは、まさにマルかバツか、教祖の教えに100%従うか従わないかという世界。曖昧さを許さず、教団以外はすべて敵という思想を信者に植えつけます。「違う!」といえる若者をつくる教育が必要なのです。(pp. 219-220)

「カルト集団」の「マインド・コントロール」の実態を理解するために『マインド・コントロール――あなたのすぐそばにある危機!』は必読である!


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高橋昌一郎
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