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百田尚樹氏の「SF」の論理破綻!

2024年11月8日以降、日本保守党党首・百田尚樹氏のポストが Twitter(X)に何度もリポストされて流れてきた。

その主旨は「少子化対策」のためには「社会構造を変えるしかない」というもので、「SF」だと断りながら「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない法律にするとかね」「30超えたら、子宮を摘出する、とか」と YouTube 番組で発言している。これらの発言に批判が殺到して、多くのリポストが生じたわけである。

番組発言から3日後の11月10日、百田氏は「不快に思われた人に謝罪します」と投稿した。その経緯は次の『朝日新聞』の記事に纏められている。

一連の発言があったのは8日配信の「ニュースあさ8時!」。同党事務総長の有本香氏らと少子化対策について議論した際に発言した。

有本氏は急速に少子化が進んでいることに触れ、「価値観が急激に変化している。子どもがいることイコール幸せになる、という絵図が描けていない。社会の価値観をどうやって取り戻すか、学者の知見を本来かりたいところ」と述べた。

百田氏は「これを覆すには社会構造を変えるしかない」と指摘。「これはええ言うてるんちゃうで」「小説家のSFと考えてください」と複数回前置きした上で、「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない法律にするとかね」などと発言。また有本氏が「子どもを産むには時間制限がある、ということを子どもたちに教えるべきだ」と指摘すると、百田氏は「30超えたら、子宮を摘出する、とか」と述べた。

一連の発言をめぐり、SNSなどでは批判が殺到。百田氏は9日夜、自身のX(旧ツイッター)のアカウントで「『やってはいけないこと』『あくまでSF』という前置きをくどいくらい言った上での『ディストピア的喩(たと)え』ではありましたが、私の表現のドギツさは否めないものがありました。不快に思われた人に謝罪します」と投稿していた。

百田氏の「少子化対策」

ここで改めて百田氏の「SF」が描く「百田国」という独裁国を想定してみよう。この国では独裁者・百田尚樹の定めた「少子化対策」のための3つの「法律」が施行されているとする。

★法律1「女性は18歳から大学に行かさない」
★法律2「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない」
★法律3「30超えたら、子宮を摘出する」

ここで最初に気が付くのは、「百田国」の「少子化対策」が全面的に女性の人権を制限することによってコントロールされ、男性にはまったく何の役割も与えられていない点である。現実の「少子化」は経済的・社会的・文化的要因など多種多彩な原因から生じているにもかかわらず、百田氏の「少子化対策」は完全に「女性」だけに責任を押し付けていることがわかる。

しかも、これらの3つの法律は、何も百田氏が空想した「サイエンス・フィクション」などではなく、すでに現実世界で実施されてきた歴史的事実の寄せ集めにすぎない点に注意が必要である。

★法律1「女性は18歳から大学に行かさない」は、2022年12月20日、アフガニスタンで実権を握ったイスラム原理主義武装勢力「タリバン」の高等教育省が「大学での女性への教育を停止する」と決めつけた事実である。この規制の根底にあるのは、女性の役割を家の中における家事と育児だけに限定し、社会における女性の自由をいっさい認めない「男尊女卑」思想そのものである。

★法律2「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない」は、昭和時代に流行した「クリスマスケーキ理論」を想い起させる。女性の年齢を12月24日のクリスマスイブに売り切れるクリスマスケーキに喩えて、24歳で需要が最高潮に達するが、25日のクリスマス当日以降は次第に「売れ残り」として安く売られるという比喩を指す。百田氏の脳裏に「25歳」と浮かんだ背景には、彼が育った昭和時代のセクハラ的な「クリスマスケーキ理論」があったのではないか。

★法律3「30超えたら、子宮を摘出する」は、ナチス・ドイツが1933年に制定した「断種法」や、それを基に1940年に大日本帝国が制定した「国民優生法」を想い起させる。もともとは「遺伝性疾患」の子孫への遺伝を防ぐ目的で作られた法律だが、次第に拡大解釈されるようになり、ナチス・ドイツは同性愛者に断種手術を行い、大日本帝国ではハンセン病患者がその対象になった。日本では1948年に「優生保護法」に改正されたが、この「強制不妊手術」(優生手術)を認める法律は、なんと1996年まで続いた。百田氏の育った時代に「優生手術」の志向性があったからこそ「30歳を超えたら、もはや不要な子宮は摘出してしまえ」という乱暴な発想が浮かんだのではないか。2008年に歌手・倖田來未氏が「35歳を過ぎると羊水が腐る」と発言して大炎上したことがあったが、百田氏の発想はそれ以上に歪んでいる。

要するに、百田氏の想定する3つの法律は「タリバン・昭和セクハラ・ナチス」思想の詰め合わせセットにすぎず、「SF」と呼ぶのもおこがましい「グロテスクな妄想」と言える。

「ディストピア」とさえ呼べない論理破綻

百田氏の出した謝罪文の中に「ディストピア的喩え」という言い訳があったので、それにも触れておこう。そもそも「ディストピア(dystopia)」とは「理想郷」に対する「暗黒世界」を指し、「ユートピア(utopia)」の反対を意味する言葉である。

「ディストピア」の代表的な作家ジョージ・オーウェルは、1945年に『動物農場』、1949年に『1984年』を書き上げた。これらの小説で彼が描いたのは、民主主義が腐敗して権威主義に陥り、あらゆる情報が監視・検閲され、権力者に都合のよい情報だけが流され、国民が洗脳されるという不気味な近未来社会である。とくに不気味なのは、このディストピアに存在しながら、多くの国民が自分が幸福だと信じ込まされている点である。

それでは、ここでもう一度「百田国」を考えてみよう。この国の使命は「少子化対策」にあるので、それがどれだけメチャメチャな「ディストピア」であろうと、子どもだけは増え続けなければ意味がない。

たとえば「百田国」に生きる女性A子を考えてみよう。A子は法律に従って18歳で就職し、24歳で結婚したとする。妊娠3カ月で出生前診断を受けたところ、胎児の性別は女だったら、おそらくA子は、即座にこの子どもを中絶する道を選ぶだろう。

なぜなら「百田国」では男性は何もかも自由に選択できるが、女性は奴隷のように生きていくしかないからである。したがって、この国の夫婦は、誰もが男子を望み、女子を望まないだろう。しかも女性は30歳で子宮を摘出されてしまうので、何人も産んで育てていくだけの時間的余裕がない。そこで「百田国」の女性は、妊娠したらすぐに出生前診断で性別を判定し、女子だったら中絶、男子だったら出産の道を選ぶようになるだろう。

結果的に「百田国」では男子が増え続けて女子は減少の一途を辿り、むしろ「少子化」が限りなく進行し、やがて絶滅の道を辿るに違いない。つまり「百田国」では「少子化対策」という当初の目的だった論理さえ破綻しているのである(笑)!

私はまったく著作を読んだことはないが、この百田氏が「作家」でもあると知って大いに驚いた。これほどまでに先を見通す想像力が欠如して論理破綻した妄想を語るような人物に、あらゆる状況を事前に設定しなければならない小説が本当に書けるのか、不思議で仕方がない。オーウェルの小説は論理的に確固たる一貫性に基づいているため現実感があるが、幅広い視野を欠いて目先の思い付きだけで構成された百田氏の「SF」は、そのような一貫性さえ感じさせない。

この百田氏が党首を務める日本保守党が、多くの党員を獲得し、国会に3議席を取得しているという事実には、驚愕せざるを得ない。もちろん、この政党にはそれなりの綱領や公約があるはずで、それらについてここで言及するつもりはない。今回の百田氏の「SF」も、雑談で述べた「喩え話」にすぎず、しかも「謝罪」したのだから、それ以上文句を言うなという意見もあるだろう。

しかし、日本保守党の党首がふと漏らした「喩え話」の中に「タリバン・昭和セクハラ・ナチス」という危険思想が潜んでいる点については、よく認識して、忘れないように記憶しておく必要がある。というのは、これらの危険思想が単なる「SF」ではなくなり、現実の日本を侵食する可能性に対しては、常に警戒しなければならないからである。

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高橋昌一郎
Thank you very much for your understanding and cooperation !!!