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桐壺登場 その三十一 光る君の元服式(前半)をライブ感覚で語る

その三十一 光る君の元服式(前半)をライブ感覚で語る

 このようにして光る君、元服となりました。十二歳です。慣例に従って元服式が行われます。その模様をライブ形式でお届けしたいと思います。頑張って聞いて下さい。

 では実況、始めます。こちら清凉殿前です。今からここで元服式が始まるわけですが、帝は立ったり座ったりで、全くじっとしておられません。あっちへこっちへあれやこれや、お世話を焼いています。帝なのに。これによって現場は混乱しています。そもそも限りというものがあるのに、おおっと、帝、微妙なところを追加注文してきますね。これはどういうことでしょうか、解説の桐壺さん。

 はい、これは完全に先年の春宮の元服式を意識していますね。

 春宮、ですか。成程。でも春宮の元服は国家の公事ですからね。だから紫宸殿で行われたわけで。ですが今日のはただの源氏ですよ。いくら帝の御子だからってねえ、この力の入れよう、おかしくないですか。

 そうですね。袴着の時も凄かったですね。

 はい、凄かったです。さすが帝の御子です。でも今回はただの源氏でしょ。親王でさえないんですよ。おかしくないですか。

 実は今回の儀式、私の実家の二条院でやるはずだったんです。それが帝たっての希望でここでやることに。

 ほう。

 それにさっきの帝の台詞、袴着の時と全く同じ、なんですよ(笑)。

 さっきのと言うと、「公事の規定のままに仕えたのでは疎かになることもあろうか云々」というあれですか。袴着の時にも帝、同じこと、言ってるんですか。これは驚いた。我々、完全に煙に巻かれています。帝、天然なのか計算なのか、どちらにせよ高度なテクニックじゃないですか。いやあ、まいりました。

 もう、彼らしいですよね(笑)。

 あ、そろそろ始まるようです。申の刻になりました。桐壺さん、申の刻の説明をお願いします。

 はい、申の刻は午後四時から六時までです。

 始まりそうで始まりませんね。

 そうですね。申の刻、ですからね。

 ところで、本来なら二条院で、とのことでしたが、二条院といえば有名なお化け屋敷ですよね。怪奇スポットとしてガイドブックに載っていますが。

 え、そうなんですか(喜)。

 光る君、本当に孤児なんですね(泣)。

 はい、そうなんです。たとえ、あいつが帝であろうと何だろうと、光る君にはもう、あいつしかいないのです(泣)。

 あ、来ました、光る君です。髪をみずらに結ったいつもの童姿です。これから大人の姿に変わります。それが元服式です。理髪の役は大蔵卿です。って誰?

 さあ?誰か知ってる?誰も知らないみたいですね。

 大蔵卿って演技下手ですね。全然リアルじゃない。

 いえ、これは様式美です。さすが帝の人選。パーフェクトです。

 確かに。まるで不屈の名作の一場面です。でも主役は光る君でしょ。光る君の元服式なんだから。

 元服式なんてそんなものです。

 あ、加冠役の左大臣です。

 誰?

 え?

 いやいや冗談。ほらね、だから元服式なんてのは自作自演なんですよ。なんてのは、っていうか、なんてのも、っていうか。

 はい、やばいです。震えが来ます。このやばさ、皆さんにもお伝えしたいと思います。お願いします、桐壺さん。

 はい、では、説明します。
①左大臣の正妻は帝の姉である。つまり内親王。
②この正妻と左大臣の間にはたった一人の姫君がいる。つまり内親王腹の姫君。
③右大臣方はこの姫君を是非、春宮妃にと内々にに所望している。これは有名な話。
④それを左大臣はシカト。
⑤詳しくは「桐壺登場その八」を読んで下さい。私の妄想が炸裂してます。

 いやあ、恐るべき…、あ、いや、と、とにかく、目の前の光景が信じられません。
 左大臣、ついに出てきました。


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