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末摘花登場 その二 トリッキーな大輔命婦を語る

 私が琴を奏で始めると早々に命婦は、
「おや、曇りがちになってまいりました」
と言い出しました。そして、
「そういえばお客が見えるとのことでした。あら、いけませんわ。またゆっくりとお聞かせ下さいませ」
と、格子を下ろして、さっさと行ってしまいました。

 どう思います? 命婦のこの態度!
 月が美しいから弾いてと言うから弾いたのに!しかもこの回りクドいやり方!何なの?
 大輔命婦、酷いですよね。完全に馬鹿にしていますよね。私を。南風を。常陸宮家を。

 なので今回は大輔命婦について語りたいと思います。

 大輔命婦という呼び名はご存知のように女房名です。父親が兵部大輔であることからそう呼ばれています。
 あ、うちの女房ではありませんよ。彼女は宮中にお勤めしています。父親の里を実家として通勤しています。
 父親の里、それが常陸宮邸です。
 ん?どゆこと?
 と思いますよね。
 兵部大輔は常陸宮の縁者、らしいのです。
 え?らしい?ん?
 って思いますよね。
 実はこの兵部大輔、常陸宮の子なのです。つまり私のお父さんの子。だから兵部大輔は私の腹違いの兄。そして大輔命婦は私にとって同い年の姪っ子って訳。
 でもこれは非公式なので、お願いしますね。
 もとより常陸宮家は謎がいっぱいなのです。これはその一部にすぎません。

 そして謎だろうと非公式だろうと、兵部大輔という現実は恋をしました。お相手は左衛門の乳母と呼ばれる人です。そうして生まれたのが大輔命婦です。
 え?ちょっと待って!
 子は母方で養育されるんじゃないの?
 大輔命婦は何で父方にいるの?
 ですよね!
 出産した左衛門の乳母はその名の通り、とあるお方の乳母となりまして、宮中にお務めとなりました。その後は筑前守と再婚したそうで、夫とともに任地へと下ったそうにございます。
 兵部大輔の方も再婚しまして、ほとんどそっちに住んでいまして、宮邸にはほんの時々。命婦は継母の所があまり馴染めないらしく、ここを実家として来ているのです。
 命婦、可哀想なんですよね。居場所なくって。常陸宮邸でも宙ぶらりんな立位置だもの。宮仕えなんてみっともないことだけど、命婦にしてみたら職場である宮中が一番、気楽でいられる場所なのかもね。
 というのも命婦って宮中で恋愛大好きで有名なんです。それで左衛門の乳母のお育てしたお方も恋愛大好きで、乳兄弟同士、色々つるんでいるらしい。

 あ
 一、二、三。

 おかしいと思ったのよね。
 琴の音色が映えるような空でもないのに、あんな言い方しきて。命婦ったら無理やりが過ぎる。
 どうやらその乳兄弟、近くにいるな。
 同い年か。
 音楽性、合うといいな。
 ねー、南風ちゃん。

 で、早速、来ましたよ〜。懸想文〜。二通〜!
 え?二通?
 なんで?
 一つは例の大輔命婦の乳兄弟でしょ。
 もう一つは?
 え?頭中将?
 誰??

 
 

 


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