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桐壺登場 その二十五 藤壺入内の場面を読んで感想を語る

その二十五 藤壺入内の場面を読んで感想を語る

【月日が経っても帝は桐壺更衣のことをお忘れになることができませんでした。少しでも忘れることができるだろうかと、然るべき家筋の美女を次々と入内させるのでしたが、桐壺更衣のような女はいないのだと思い知るだけでした。】

 嘘ばっかり。これはただ夢男が次々と女を口説いては次々と失敗していくという、ただそれだけの話。
 彼、そういう人なんです。ぼけーとたたずんでいるだけで何も考えていない。でも周りは、ああ、また深い物思いに耽っていらっしゃるわ、と思う。ああ、死んでしまった愛しのプリンセスのせいなんだわ、と思う。そう思わせる。そういう人なんです。そして本人もそれに気づいている。気づいていて、気づいていないことにして、自分の都合のいいように利用している。そういう人なんです。

【それで、ある時、典侍が帝に言いました。
「先の帝の四の宮なのですが、とてもお美しいと評判です。母君の后の宮がこれ以上ないほど大切に育てていらっしゃいます。」
 この典侍、先帝にも仕えていた古参の化物で、その四の宮のことを幼少の頃から知っていて、今でもお目にかかる機会があるというのです。
「亡くなられた更衣に似た方を、三代にわたって帝にお使えしている私は見たことがございません。ですが、その后の宮の姫宮様は桐壺更衣に瓜二つでいらっしゃいます」
「まじで?」】

 ほら、何も考えていない。
 似てなんかいませんよ。でも似てなくてもいいんです。肝心なのはそこじゃなくて、まあ、その話は追々。

【早速、帝は后の宮へ四の宮の入内を要請しました。
 母后、
「あな恐ろしや、春宮の女御のいとさがなくて桐壺更衣のああも公然といじめ殺されたというのに」
と警戒して、入内を一向に認めませんでした。】

 そりゃそうでしょう。この母后こそ、宮中の血みどろの政権交代を身をもって経験しているんですから。愛娘の入内なんてとんでもない。どの口で言うかってとこでしょう。そりゃそうでしょう。でも私、この母后の台詞、驚きました。
 衝撃① どうして私が出てくるの?
 衝撃② 何?この弘徽殿のイメージの悪さ!
 衝撃③ えっ?私、弘徽殿にいじめ殺されたの?
 この母后の台詞、正しくは
「あな恐ろしや、黒いアイツ等のいとさがなくて、私の夫と息子がああも公然と謀り殺されたというのに」
というのが正解でしょうに。

【そうこうしているうちに、今度は母后自身が死んでしまいました。】

 ぞぞぞぞぞ。何、このタイミング。
 これって偶然だよね?
 あ、よもや毒殺?
 いえね、私、あの時、薬飲んだなあと、それを思い出したものだから。いえ、あれが毒だったと言ってるんじゃないんです。ただ、私、死の直前、御殿医の薬、飲んだなあと。だから
夢男 「お嬢さんを僕にください。それはそうとお母様におかれましてはご気分がすぐれぬ日々が続くとうかがいました。僕のせいじゃないですよね。くれぐれもご自愛くださいますように。つきましてはこちらを同封いたしました。たいそう良く効くということです。どうぞお安らかに」
とか。

【残された四の宮、過干渉のお母さんがいないと何もできません。すかさず帝、
「大丈夫ですよ。私の娘同然の扱いを致しますほどに」】

 出た!決め台詞!
 これ、覚えておいて下さい。また源氏に出てきます。それにしても平安人男性の娘同然の扱いって何なのよ。絶対、大丈夫じゃないだろう。

 さて、父を亡くし、母を亡くし、後継の兄は生死不明の行方知れず。四の宮の今後をめぐって親族会議です。後見の外祖父一族や兄弟の親王たち、側に仕える女房たちまでが、我が身かわいさで一堂に会し、それとこれとあれとあれがぐっちゃんぐっちゃんに絡まりながら、人間だもの、お決まりの方向へと進みます。
「このまま皇女として心細くおられるよりも宮中に上がればお気持ちも慰められましょう」
なんてね言って。

 こうして入内ということになりました。四の宮、十四歳。あの政変から十一年。一族の思い、いかばかり。
 おや、知っているお方がいらっしゃいますね。兵部卿の宮です。ぱっとしませんね。それもそうですよね。
「兄ちゃんの皇太子がいなくなったから次は弟の俺じゃん」
って思いがあっても、
「よっしゃー、いっちょいっくぜー」
などという素振りを微塵でもみせようものなら、どんな目に合うか。どんな馬鹿でも分かるでしょう。この人も
「俺、超ヤバい状況じゃん」
って震え怯えたことでしょうね。そうして今では先帝系一族はすっかり落ちぶれてしまって、この人も兵部卿という名ばかりの閑職をあてがわれて、なんだかなあの窓際親王なのでございます。
 何だかお顔もそんな顔に見えてきます。
 私の元彼、会ったことないけど、こんな顔じゃないわよね。絶対。
 私の元彼、こんな顔の兄だけど、さすがにこんな顔じゃないわよね。絶対!

 皇女の入内。局は藤壺。飛香舎です。
 内裏図を参照して下さい。是非、参照して下さい。清涼殿にこんなに近いんです。弘徽殿に王手です。くっそー、私の桐壺、めっちゃ遠いやん。

【この藤壺の宮、典侍の言う通り、正しく桐壺更衣の生き写しでした。】

 だから似てないって。

【しかもいとやんごとなき際にはあらぬ桐壺更衣と違って、藤壺の宮は人の御際まさりて、つまりは身分に非の打ち所が一切なくて、何人たりとも藤壺の宮を貶めることはいたしませんでした。】

 でしょうね。

【そうして亡き女への思いが癒されることはないのでしょうが、昔は昔、今は今、これが自然なのでしょう。】

 おい。


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