登別温泉物語 - 地獄谷の灯り
再び訪れた旅の地
再び旅に出た雪村 悠馬は、秋の終わりに北海道の登別温泉を訪れた。冷たく澄んだ空気が肌に触れるたび、紅葉の最後の名残がはらはらと舞い散り、足元に積もる。
温泉街に着いた彼は、古びた宿にチェックインし、年配の宿主と挨拶を交わした。
「この時期に登別を訪れるなんて、珍しいですね」
主人が微笑みを浮かべると、悠馬も軽く笑い返す。「地獄谷の景色に惹かれまして…一度見てみたいと思っていました」
主人は何かを思い出したように頷き、「そうですか。実はこの時期、地獄谷には青白い灯りが漂うという噂があるんですよ。見た人には何か良いことがある、とも言われています」と語った。
悠馬は興味をそそられたが、どこか半信半疑の表情を浮かべた。「それは、地元の伝承のようなものですか?」
主人は肩をすくめ、「どうでしょう。ただ、不思議なことが多い場所ですから、何が起こってもおかしくないでしょうね」と笑った。
その夜、悠馬は宿を出て、薄暗い地獄谷へ向かうことにした。立ち上る湯煙に包まれた谷は、月明かりに照らされ、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。足を進めるごとに、彼の中に少しずつ期待感が膨らんでいった。
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