雪解けの頃に【6】
ついに桜が咲き始め、町全体が淡いピンク色に包まれていた。公園の桜並木が満開となり、町を歩く人々が自然と足を止めては桜を眺め、心の中で新しい季節を歓迎している様子が伺えた。
僕もその風景に魅せられ、「風待ち亭」へと向かう道すがら、何度も足を止めて桜を眺めた。舞い落ちる桜の花びらが春の風に乗って、町中をふんわりと包み込んでいるようだった。
店に到着すると、田島さんが笑顔で迎えてくれた。「ようやく春が来たね。今年もまたこの町で桜を見られることが、何より嬉しいんだよ」と僕が言うと、田島さんも満足そうに頷いた。
「桜が咲くたびに、新しい一年が始まるような気持ちになる。この町にとって、桜は特別なものなんだ」
その言葉に、僕も深く共感した。僕にとっても、この町の桜は特別であり、昨年から続く物語の一部になっている。来年もまたここで桜を見たい、そんな思いが自然と湧き上がってくるのを感じながら、珈琲を一口、ゆっくりと味わった。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?