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登別温泉物語 - 地獄谷の灯り【4】

再びの夜に


再び夜の帳が下りた地獄谷へと足を運んだ悠馬は、胸の奥で青白い灯りが再び現れることを期待していた。昼間の賑わいが嘘のように静まり返った地獄谷には、冷たい夜風と湯気の匂いが漂い、どこか異世界のような雰囲気が広がっている。

「本当に、またあの灯りが見えるのだろうか…」

静寂の中で独り言のように呟くと、自分の声が驚くほど小さく感じられた。悠馬は一歩一歩、谷の奥へと歩を進める。闇の中、月明かりが湯煙をぼんやりと照らし出し、その光景はまるで幻想的な舞台のようだった。まばらに見える星が夜空に輝き、どこか異国の地に迷い込んだような気分になる。

やがて、視界の端にふわりと青白い光が浮かび上がった。心臓が早鐘を打つように高鳴り、彼はその場に立ち尽くした。灯りは、まるで彼を誘うかのように静かに揺れながら、谷のさらに奥へと進んでいく。

「導かれているのかもしれない…」

無意識のうちにそう感じた悠馬は、青白い灯りを追いかけるように歩き始めた。夜風が冷たく、肌に触れるたびに身震いがする。しかし、灯りが消えることなく先を照らし続けていることに、彼は不思議な安心感を覚えた。

灯りがゆっくりと奥へ進む中、悠馬は周りの音に耳を澄ませた。湯煙が立ち上る微かな音や、木々が風にそよぐ音が、彼の周りを包み込んでいる。そのすべてが、まるで彼を歓迎しているかのように感じられた。

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