短編小説 函館編【2】
異国情緒と坂道
悠馬は朝市を後にして、坂道が多いことで有名な函館の街を歩き始めた。坂道を上りながら振り返ると、遠くに広がる海と港が目に入る。青空の下、静かに広がる景色は、どこか異国の地に足を踏み入れたような錯覚を与えた。石畳の路地と、古い建物が並ぶ街並みには、他の町にはない雰囲気が漂っている。
悠馬は観光客が多いエリアを抜け、小さな路地に入り込んでいった。そこには、明治時代から続くという古びた教会があり、ひっそりと佇んでいた。白い壁と赤い屋根が特徴的なその教会は、時の流れとともに深みを増し、訪れる人々に安らぎを与えているようだった。悠馬はふと足を止め、その教会を見上げた。静寂の中で、鐘の音が遠くから微かに響く。
教会の入り口に立っていると、地元の女性が話しかけてきた。「観光ですか?函館は初めてですか?」彼女の優しい笑顔に、悠馬は自然と頷いた。「ええ、初めてなんです。この教会、すごく雰囲気がありますね」
女性は少し微笑みながら、教会の歴史について語り始めた。明治時代に建てられたこの教会が、異国の文化が根付いた函館の象徴であり、多くの人々が祈りを捧げてきた場所であることを知る。彼女の話す言葉の端々に、地元に対する深い愛情が感じられた。
「旅って、こういう出会いがあるから素敵ですよね」と女性が言葉を添えた。その言葉が、悠馬の心に小さな波紋を広げる。これまでただ流れるように続けてきた旅の中で、彼は何を求めているのか――そんな問いが、再び心の中に浮かんできた。
話を終え、女性は「函館には他にも素敵な場所がたくさんありますよ」と教えてくれ、さっと去っていった。悠馬はその後ろ姿を見送りながら、どこか不思議な感覚を覚えた。自分が旅を続ける理由、その理由に少しずつ触れているような気がした。
その日の夕方、悠馬は坂道を上り、函館山の展望台へと向かった。日が沈む頃、展望台から見下ろす夜景はまるで星空が地上に広がったように輝いていた。夜風が頬をかすめ、静かに街を包み込むその景色に、彼はしばらく目を奪われていた。
「自分が探し求めているものは、この静寂と輝きの中にあるのかもしれない」
そう思いながら、悠馬はまた新しい土地への期待を胸に、夜の函館を後にした。
これで、函館の異国情緒や出会いが、悠馬の心に少しずつ変化をもたらす様子を描きました。
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