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登別温泉物語 - 地獄谷の灯り【5】

精霊の伝説


青白い灯りを追いかけて谷の奥深くまで進んだ悠馬は、静かに立ち尽くし、目の前に現れた古びた石碑に目を留めた。その石碑にはかすかに「火の精霊」と刻まれており、年月を感じさせる風合いがある。石碑には苔が生い茂り、風雨にさらされてきたその姿が、どこか神秘的なオーラを放っている。

「これは…精霊に関するものなのか」

悠馬は、青白い灯りが石碑の周りを静かに包み込むように漂っているのを見つめ、しばらくその場に立ち尽くした。谷全体が青白い光で照らされ、どこか神聖な空気に満ちているように感じる。胸の奥で静かな感動が広がり、彼は自分がこの地の一部と繋がっているかのような感覚を覚えた。

そのとき、ふと資料館での説明が頭に浮かんだ。「地元の人たちは、この灯りを『精霊の灯り』と呼び、見る者には心の安らぎと幸運がもたらされると信じてきた」という言葉が、今や悠馬にとって単なる伝説ではなく、現実のものとして迫ってくる。

「確かに…この灯りには、ただの光以上の意味があるようだ」

悠馬は石碑に手を合わせ、静かに感謝の気持ちを心の中で伝えた。その瞬間、彼の心に温かなものが広がり、精霊への畏敬の念が湧き上がってきた。精霊の存在が、彼にとって大切なものとして深く心に刻み込まれたのだ。

再び目を開けると、青白い灯りはふっと消え、辺りには静寂と湯煙だけが残っていた。しかし、その場には依然として不思議な安らぎが漂っており、悠馬は心に深い満足感を抱えながら、石碑の前を後にした。

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