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健康診断で「肝機能障害」と言われたら? アルコールとγGTP、脂肪肝・肝硬変を徹底解説!
はじめに
「健康診断で肝機能の数値が高いと言われてしまった」「お酒が原因って言われたけど、どこまで控えればいいの?」そんなお悩みはありませんか? 肝臓は“沈黙の臓器”とも呼ばれ、ダメージを受けても自覚症状が出にくいため、気づかないうちに状態が悪化してしまうことがあります。この記事では、消化器内科医として知っておいていただきたいアルコールとγGTPの関係や脂肪肝、さらに肝硬変に至るまでの流れをやさしく解説します。健康診断の結果を見てドキッとした方や、日々の生活習慣を見直したい方は、ぜひ最後までお読みください。きっと、今すぐ役立つ知識と改善のヒントを得られるはずです。
1. 肝機能とは? 健康診断でチェックされる主な項目
健康診断で「肝機能の数値が高い」「要精密検査」と言われる場合、主に以下の項目を確認します。
AST(GOT)、ALT(GPT)
肝細胞が傷ついたときに血液中に放出される酵素。ALTは肝臓由来が多く、ASTは筋肉や他の臓器にも含まれていますが、ともに肝障害の有無を確認する指標として用いられます。γGTP(ガンマジーティーピー)
主に胆道系(胆汁の通り道)や肝細胞でつくられる酵素。特にアルコール摂取量が多い方や、胆汁の流れが悪くなる病態で高くなりやすい傾向があります。ALP、総ビリルビン、アルブミンなど
胆道系の障害や肝合成能(タンパク質をつくる力)を知る手がかりになります。
このほか健康診断では、肝炎ウイルス検査(HBV、HCV)がオプションとして追加されることもあります。数値の異常が指摘されたら、放置せずに早めに医療機関を受診しましょう。
2. アルコールとγGTPの関係
「お酒を飲みすぎると肝臓に悪い」とはよく言われますが、なぜ肝臓、とりわけγGTPが気になるのでしょうか?
肝臓はアルコール分解の主役
飲酒をするとアルコールは肝臓で分解され、その際に有害物質であるアセトアルデヒドが生成されます。これをさらに分解することで、私たちの体はアルコールの毒性をやわらげています。γGTPが高くなる理由
アルコールを日常的に摂取していると、肝臓や胆道系に負担がかかり、γGTPが上昇しやすくなります。一般的に“1日あたりのアルコール摂取量”が多い方ほどγGTPが上がりやすいため、「お酒をどのくらい飲んでいるか」の目安にもなるのです。適量の目安は?
日本人の体質やガイドライン上、1日あたり純アルコールで20g程度までが「節度ある飲酒量」といわれます。ビール中瓶1本(500mL)、ワイングラス2杯程度が目安ですが、個人差も大きいため、数値が気になる方はできるだけ控えめにしましょう。
私たち医者はこれらの検査結果や、腹部エコーやCT、MRIなど、様々な検査結果をもとに総合的に考えて診療にあたっています。お酒を飲む方ではγGTPの値にしか目を向けていない方も多くいらっしゃいますが、次の健康診断からは他の数値もぜひ注意して見てみてください!
3. 脂肪肝ってどんな状態?
肝臓に中性脂肪がたまってしまう状態を「脂肪肝」と呼びます。健康診断などで肝機能異常を指摘された方の中には、脂肪肝が原因の方も多くいらっしゃいます。
なぜ脂肪肝になる?
高カロリー食の摂取や運動不足、糖尿病・高脂血症などの代謝異常、アルコールの過剰摂取などが原因となります。アルコール性脂肪肝:ビールなどの飲酒量が多い場合
非アルコール性脂肪肝(NAFLD):糖分や脂質のとりすぎ、肥満、メタボリックシンドロームなどが背景にある場合
放置するとどうなる?
脂肪肝は軽度のうちは症状がほぼなく、自覚しづらいのが特徴です。しかし、進行すると肝炎(脂肪肝炎)を引き起こし、最終的には肝硬変へと進む可能性があります。
4. 肝硬変に至るリスク
脂肪肝やアルコール性肝障害、ウイルス性肝炎(B型・C型)などが長期にわたって続くと、肝細胞が繰り返しダメージを受け、組織が線維化(硬くなっていく)していきます。これがいわゆる肝硬変です。肝硬変になると、以下のような問題が起こります。
肝臓の合成能力低下:アルブミンや凝固因子など体にとって重要な成分が十分につくれなくなります。
門脈圧亢進:食道や胃の静脈に圧がかかり、食道や胃に静脈瘤ができる原因にもなり、この静脈瘤からの出血はしばしば大出血にります。
黄疸や腹水:ビリルビンや水分がたまりやすくなります。
肝硬変の状態になると、元の健康な肝臓組織に戻すのは非常に難しくなります。したがって、早い段階からの生活習慣の見直しや定期的な受診が重要です。
5. 具体的な改善策・予防法
では、健康診断で肝機能異常を指摘された方が、今日から始められる対策・予防法をご紹介します。
アルコール量を見直す
先述の「1日20g以下」あるいは「休肝日を設ける」などの方法で、飲酒量をコントロールしましょう。
γGTPが高い方は、思い切って“禁酒”することで数値が大幅に改善する例が少なくありません。
食事バランスの改善
高タンパク・高ビタミンの食事を心がける
脂っこいもの、甘いものの摂取を控え、揚げ物の頻度を減らす
野菜・果物・海藻などで食物繊維をしっかりとる
適度な運動習慣
ウォーキングや軽いジョギング、筋トレなどを週に150分程度(1日20~30分程度)を目標に
続けることが重要なので、無理なく始められる運動からチャレンジしましょう!
定期検査の受診
健康診断で異常を指摘された方は、放置せずに早めに内科や消化器内科で精密検査を受けましょう
超音波(エコー)検査やCT検査、場合によっては肝臓専門の血液検査などを行い、正確な状態を把握することが大切です
6. 補足情報
ウイルス性肝炎のチェックも重要
アルコールや生活習慣だけでなく、B型肝炎やC型肝炎による肝障害も見逃せません。過去に感染の経験がある方や、家族に肝疾患の方がいる場合は、ぜひ一度ウイルス検査の相談をしてみてください。
まとめ
健康診断で「肝機能異常」を指摘されたときは、アルコールの摂取量や生活習慣をまず振り返り、できる範囲から改善していくことが肝心です。脂肪肝や肝硬変など、肝臓のトラブルは知らず知らずのうちに進行し、取り返しがつかない状態になることもあります。
だからこそ、「定期的な検査」+「生活習慣の見直し」が最強の予防策です。この記事をきっかけに、明日からぜひ、ご自身の生活を見直してみてくださいね。
あなたの肝臓を健やかに保つための情報源として、またいつでもお読みいただければ幸いです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
免責事項
本記事の内容は一般的な健康情報を提供するもので、特定の疾患や治療に関する診断・アドバイスを保証するものではありません。体調に不安がある場合は、必ずかかりつけ医師等にご相談ください。
~内科医のひとりごと~
ここから先は日々の診療をしていて思うことの雑記です。
脂肪肝は多くの場合、生活習慣を見直すことで改善可能な病態です。しかし、放置すると肝硬変や肝細胞癌といった重篤な病気に進行するリスクがあります。
肝硬変は消化器内科医として臨床を行う中で最も難しい病気の一つです。
なぜなら、肝硬変を改善する方法がないからです。肝臓は非常に高度なことを行っている臓器なので、代替できる方法がありません。体の中の毒物が分解できなければ肝性脳症と言って意識が混濁してきたり、手の震えが出てきたりすることがあります。そしてこれは注意深い食事や内服でコントロールできるものから、どれだけ注意しても繰り返してしまう重症なものもあります。
ここまで進行すると入退院を繰り返す生活になる人もいます。
また、肝硬変では腹水も起こります。お腹に水が溜まってパンパンの状態になります。
こちらもある程度は利尿薬でコントロール可能ですが、コントロール不能となれば、実際にお腹に針を刺して抜いてあげないといけない状態になったりもします。それこそ2~3日に一度腹水を抜かないといけないような重症な患者さんにも出会いました。
もちろん、肝硬変の原因には生活習慣やアルコールだけでなく、免疫の異常からくるものや、ウイルス性のものなど、防ぐことは難しい原因もあります、しかし自分の責任でコントロールできる生活習慣やお酒による影響は防ぐことができます。
まずは体重管理や運動を取り入れ、日常生活での改善を心がけましょう。また、定期的な健診を受け、医師のアドバイスをもとに適切な対応を取ることが重要です。
脂肪肝についてさらに知りたいことがあれば、ぜひコメント欄でお知らせください!
【著者プロフィール】
消化器内科専門医として日々の診療に従事する傍ら、がん研究にも携わっています。最新の医学知識と臨床経験を組み合わせた情報発信を心がけています。