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SPIを立ち上げた大沢武志氏が目指した心理学的経営とは②

人の能力を数値で可視化するSPI適性検査を生み出した大沢氏ですが、意外にも人が持つ個性を尊重する考えを持っていました。一見、企業においては無駄に思える感情やゆらぎなど人が持つ人間らしさこそが成長する企業の風土に大きな影響を与えるというので。大沢氏はその考えを心理学的経営にまとめました。

心理学的経営の考え方は、人間の現実をあるがままに受け入れ、とらえることを何よりも重視しているのである。
- 大沢武志

ただ、個を活かす経営を実現するためには6つの課題があります。最初の課題であるモチベーションに関しては以下の記事に記載しました。

今回は残りの5つ課題についてまとめたいと思います。

②チームと人間関係の課題

人が集まれば集団の力学が発生してメンバーの行動に影響を与えます。この組織やチームの問題を抜きにしては豊かな人生実現は叶いません。そのために人の行動原理について考えます。

行動原理を知るうえで重要なエルトン・メイヨー氏が実施したホーソン実験というアメリカのホーソン工場で行われた実験があります。この実験では作業室の明るさが作業能率にどのように影響するのかを調査しました。結果、照明は作業能率に関連は無かったのです。むしろ作業条件が悪化しても生産性は維持され上昇することもありました。

この実験から分かったことは参加したメンバーが自分たちが選ばれた集団であり皆から注目される新しい試みであることを自覚していたことが心理効果を生み出していたこと。これをホーソン現象と呼びます。さらにチームの運営を指示せずに多くのことを委ねていることが高い効果を維持すると考えられます。

ここで問題になるのが選ばれなかった人たちのモチベーションです。ホーソン効果を狙って特命チームを作るのは良いですが、チームから漏れたメンバーのモチベーション管理が問題になるため、全ての人を当事者にするマネジメントを目指すべきです。

又、近年では労働時間を短縮する改善がなされますが、ホーソン実験から心理的効果はあまり期待できず、むしろ時間を忘れて作業に没頭できるような状況や関係性こそが最も人間的な仕事の関わり方だと考えます。

ホーソン実験には続きがあります。実験後期では集団凝集性が発見されました。凝集性が高いチームは心理的な帰属意識が高く、行動の同調性が高まります。このような圧力が働く条件としてその集団に魅力があったり、メンバー間の仲間意識がある場合が考えられます。そのような規範が同調している集団をリファレンスグループと呼びます。

別の研究で1980年代にスタンリー・シーショア氏が凝集性が高いチームの方が凝集性が低いチームよりも不安や緊張感がないことを発見しました。重要なのは人間関係で互いに引きつけるものがあり、その集団が周りから高い評価を受けていると自覚できており、心理的な安全に結びついていることが条件となります。

大企業病のようなメンバーの個を埋没させないためには上記のような心理効果の原則を用いて、組織の人間関係のバランスを保つことが重要です。しかし、人間関係には心理的なバリアが働きます。バリアを超えるためにはグループ内で感情と思考を自由に表現できる状況を共に過ごすことが必要です。こうしたグループの中で自身の内面性を開放することで互いに援助し、グループとしての治癒力が発展していきます。これらが促進され見せかけの姿や仮面から抜け出すことで深い人間関係を築けます。

③組織の活性化の課題

21世紀は不透明の時代と言われている。不変なものは何一つ無い。そのような環境で変化に対応するには以前までの環境に適用していた自己を破壊するしかない。変化に適用するには組織が自己変革するかどうかにかかっている。

ドイツの社会学者マックス・ウェーバー氏の無駄を排して効率を志向した論理的整合性の世界はドロドロとしたエネルギーを押し殺してしまう。このエネルギーを刺激することで既存の秩序が破壊され、組織に既存の価値体系、容認された行動規範に疑問(ゆらぎ)をもたらす。組織が自己変革するための活性化は組織の均衡を崩すことで引き起こされる。これが活性化のための最初の組織戦略であるカオスの演出になる。

平穏な組織に比べてカオスが演出された組織は落ち着きがなく、相互批判があり、対決があり、トラブルがある混乱した心身ともの疲弊する修羅場の組織である。このような組織こそ自己革新力と活力が期待でき、さらにゆらぎが一定のクリティカルポイントを超えると新しい創造のための破壊が生まれる。カオスを作り、ゆらぎが生み出されることが組織の活性化の出発点となる。

次に活性化においてが重要なのがアンラーニングになる。長時間かけて構築された習慣や体制から常識が生まれるが人は常識を変化させたがらないためイノベーションの障害となる。この障害となる常識を捨て去るには不要なもの、錆びついたもの、役に立たないものを捨てる作業から始める。

活性化の行動原理を紹介しましたが、では具体的にはどのような活性化の方法があるのでしょうか。大沢氏がリクルート社で実践した組織活性化の施策を紹介します。

採用:新卒や中途採用は組織に異質を取り込むという面でゆらぎの創出をもたらすが、採用活動を始める際の組織横断のリクルーティングチームの発足や、採用できなかった際の危機感、さらになぜ社内では駄目なのかという声に対応する過程こそが活性化の機会となる。
人事異動:安定的な関係は固定的な融通の効かない組織風土になりやすい。リーダーシップのともにカオスの演出のために混乱を承知の上で人事異動を行う。
教育:社内教育においても不要なもの役に立たないものを判断できるアンラーニングの開発に重きをおいている。柔軟な発想をできるようにするため自分の専門知識やこだわりを捨てることが求められている。
小集団活動:個人の思考の障害を取り除き、組織運営単位としての集団的思考を促すことが活性化の戦略ポイントになる。(おそらく凝集性を高める活動のこと)
イベント:お祭りを組織の中にプログラム化することで日常業務とは別にイベントのプロジェクトチームを編成される。これによってメンバーの奪い合い、スケジュールの調整などのカオスが起きる。それらを克服してイベントが成功した場合には全組織をビジョンに引き込み、1つのリズムに共振する共有ができる。

④リーダーシップと管理能力の課題

人に与える影響力は個人によって違いが存在します。例えば鶏ではNo.1の鶏は寛大な悠然と構える性格だが、No.2以降は神経質で厳しい傾向があるという。集団を束ねるためにメンバー間の葛藤を調整し収めていくには、それなりの包容力が求められる。

リーダーとなる人の共通パーソナリティ特性を調査した特性論的研究ではリーダーは人よりも背や知能、社交性が高いという報告がある。そのような性格があったとしても成功するとは限らないが、リーダーシップが発揮される限られた個別の状況に限定すれば意味がある。例えば職務分類を管理職まで絞り込めば優位な相関が認められるかもしれない。

1950年代に行われた管理者早期発見計画という研究では石油会社の443名の管理職に心理検査や経歴調査と人事評価との比較が行われた。その結果、管理者としての成功度に関連がある特性として情緒安定性(性格特性)と社交性が抽出された

さらに著者自身が管理者適性とパーソナリティ特性比較を日本で調査したところ、性格測定の517項目のうち197項目で有意差が見つかった。それらをまとめると以下の4つになる。

①強靭性(自己統制力、決断力、自律性、自己主張性、非抑鬱性など)
②支配性(対人への積極性、外向性、他人に対する主導性、指導性、競争心)
③決断性(分析重視、議論に積極的、批判的な行動、合理的、客観的)
④社交性(人間関係の円滑な適用)

この調査を元に管理者適性検査MATが作られ(1993年にNMATと改定)

さらにリーダーシップの研究を進めていくと4つの行動因子が確認された。これらの行動評価を自己評価と他者評価で比較することでリーダーシップを計測することができます。

要望性(目標達成への指示)
- 部下が予定通り仕事をしたときでも、さらに高い目標を要求するか
- 部下の力からみてギリギリ一杯の仕事を要求するか
- 部下に仕事の改善を求めているか
- 部下がなまけたときしかっているか
- 部下に会社の期待を上まわる業績をあげるよう要求しているか

共感性(人間関係の配慮)
- 部下の成長に気を配っているか
- 部下が仕事にやる気をなくしたとき勇気づけているか
- 部下の人間関係がうまくいくよう気をつかっているか
- 部下の仕事の上で問題が起きたとき、部下と一緒になって考えているか
- 部下がいい仕事をしたときはそれを認めているか

通意性(情報の共有)
- 部下に仕事の計画を知らせているか
- 部下に仕事に必要な情報を知らせているか
- 部下に会社全体の動きを知らせているか
- 部下の能力や知識の不足なところをつかみ指導しているか
- 仕事の方針や計画を変更したときそのことをただちに部下に知らせているか

信頼性(部下が上司を信任すること)
- 部下が問題を持ち込んだとき適切な処置ができるか
- いったん決定したことは実行しているか
- 部下の仕事に対するアドバイスは適切か
- 仕事に必要な知識や技術はもっているか
- 部下は管理者の決定や判断を信頼しているか

⑤適正と配置の課題

個人間の差異を観察することは前世紀からのテーマでした。どの職能においても基本的な関連がある知能と職業レベルの関連が研究され、アメリカ労働省によって一般職業適性検査(GATB)が開発された。ただアメリカでは一般適性=知能だが、日本では標準的に分類してきたため職業が細分化されておらず、人材としての可能性を捉えるアプローチが必要になった。

日本の適性とは能力要件としての職務適性ではなく自社の社員としての総合的な適合性が基準、つまり社員適性を意味する。社員適性はグループの仲間としての適性に重きがおかれるため、特に大学新卒の総合職では職務と職種への適正を見分けるニーズはほとんどなく、代わりに適応性や学習可能性などの潜在的資質が重視される。このことから適性の基準は2つに分けられる。

①職務適性
- 手として採用する
- 当該職務の遂行が評価対象となる
- 職務給がベース
- 欧米型の人事慣行

②社員適性
- 人として採用する
- 人格が評価対象となる
- 職能資格制度がベース
- 日本型の人事慣行

このように日本においては人間関係が重大な側面になるため、信頼関係や好き嫌いの感情的な関係などパーソナリティの相互関係が大きい意味を持ちます。そのためパーソナリティの測定に関心が持たれます。

心理的な個人差の特性を測定する検査するパーソナリティテストがありますが、パーソナリティテストはあくまで本人の成長のためであって、人事評価として利用されるべきではない。仮に人事テストして利用したとしてもテストデータと職務成功度を関連できる妥当な保証はない。

GATBを職務適用の判断ではなく、どの仕事においても要求される基本的に要求される知的能力として測定するのであれば日本においても有効である。もし部門間の差異がある適性基準が発見できれば配属の際の参考となるが、まず困難である。職務要件として部門ごとの差異が明確に定義できないこと、そしてパーソナリティ特性からある程度の傾向を出せたとしても分布の重なりが広すぎるために判定できるほどの差異は発見できないのである。

適性というのは物差しを当てて判定できる単純なものではなく、関与する範囲が能力、興味、性格、価値観、意欲、職務経歴など多岐にわたる。また、パーソナリティテストを点数化して序列化して検証することは十分な裏付けが無い限り危険をともなう。パーソナリティテストは定性的なアプローチにマッチするが点数をデジタル化するべきではない。

ただし、基礎能力であれば全ての部門に対して共通する関連が認められます。基礎能力が高いメンバーはどの部門でも人事評価が高く昇進が早いことが分かりました。基礎能力(知的適応能力)とは以下の3つの能力で構成されます。

①言語的理解力
②論理的思考力
③数量的処理力

職務が細かく分類されず、仕事の境界があいまいな日本企業においては知的能力は有効性が認められています。あいまいだからこそ新しい知識を学習し、応用し、問題を把握分析し、論理的に推測する能力が求められるのです。

⑥自己個性の把握の課題

少し昔であれば自己実現や個性を大事する生き方は老後の人生後半のテーマであった。定年になるまでは無我夢中で働き続けることが良しとされ、引退してから自分の人生はなんだったのか振り返り第二の人生を送る、1980年代までの主要な価値観だった。そうした成長至上主義は薄れてゆとりある生き方に移りつつある。その結果、ライフスタイルが企業の中に取り込まれて個を優先する考えが浸透してきている。

「個人の求める価値」と「組織の目標」とをいかに統合するか、多様化した個人的な価値を受け入れ、あるいはそれらを積極的に生かすことを前提に組織のあり方を考えるのが、これからの経営の方向であることは間違いないのである。

ただ問題なのは個人の自己実現のためには自身で自己が持つ個性とは何かを把握する必要がある。では自分の個性とはなんだろうか?これを追求しすぎると禅問答のようになってしまうが昔であればこの問題を定年後に考えればよかったので時間は大いにあった。けれど今は入社したての若者が取り組まなければならない。そこで個性を知る手掛かりとして世界の企業で取り入れられているパーソナリティテストがある。

人の行動の心理過程は「知覚」と「判断」からなる。この2つが人間の大半の活動を占めているが、この活動が人によって違いが生まれる。人は幼い時からどのアプローチを取るかを常に天秤にかかけて好みの方を自然と選択、実践している。実践することで経験し、より片方のアプローチが優位となる。そうやって片方のアプローチが発達することで性格のタイプが形成されていく。パーソナリティテスト(MBTI)はこの優位なアプローチの傾向を測定するものである。

▼知覚の天秤
感覚(S):5感を使ってあるがままを意識するため、目に見えるものへの知覚が優位になり身の回りの現実に強い関心を持つ。逆に空想や想像には関心がない。
直感(N):無意識の内在的な観念から始まるため、目に見えないものへの知覚が優位になり可能性の追求に強い関心を持つ。逆に現実にあるものには関心がない。

▼判断の天秤
思考(T):論理的な方法によって客観的に判断を下すアプローチ。論理的な問題点を明らかにして結論をだすことを得意とする。反面、合理的過ぎて周囲の状況を見落とすことがある。
感情(F):感情的な好みや個人的な基準によって主観的に結論を下すアプローチ。人の気持に敏感で関係者への受け止め方や状況へ配慮して結論をだすことを得意とする。反面、調和を重視し過ぎて割り切った結論を出すことができないことがある。

MBTIの結果を受けて大切なのは自分の特徴を振り返り当人が納得できる本来の自分のタイプを探すことになる。このタイプが自己の個性化を把握することの手掛かりとなる。

全ての心理的機能が均等に発達していることはなく、自身は何が発達して得意なのかを把握することで自分の価値が発揮しやすい問題解決プロセスにMBTIを参考にできる。プロセスと心理的機能は以下の対応になる。

①解決するべき問題について事実やデータに基づいて状況を調べる(感覚機能)
②可能性に着目して役立ちそうなあらゆる手段を探る(直感機能)
③論理的合理的に解決策を選択する(思考機能)
④解決策が周囲にどのような影響を及ぼすか配慮する(感情)

どの機能を指向しているかの理解は得意不得意を把握することだけではなく、自分を見つめ直す機会ともなる。感覚機能ばかりを選択してきた人が直感機能を持っていないわけではない。新しい自分を知るきっかけともなる。

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