見出し画像

GPSデータで1,419橋の交通量と迂回経路を調査【位置情報データの活用:広島県東広島市】


昨今、埼玉や千葉で道路が陥没するというニュースが報じられ、インフラの老朽化が改めて注目されています。

私たちが普段、何気なく利用している道路や橋などの社会インフラは、適切に整備されているからこそ、支障なく快適な生活を送ることができています。しかし、これらのインフラも年月とともに老朽化し、その維持管理が大きな課題となっています。

今回は「橋」をテーマにお話ししますが、日本全国にどれくらいの橋があるかご存じでしょうか?

国土交通省によると、全国には約73万橋あり、そのうち約71%にあたる52万74千橋は政令市と市区町村が管理しているとのこと(*1)。自治体が管理する橋が大半を占めていることから、維持・修繕の負担も地方自治体にのしかかっていることがわかります。

また、日本の河川は世界的に見ても勾配が急で、豪雨時には短時間で大量の水が流れ込み、洪水が発生しやすいとされています。近年はゲリラ豪雨も増加しており、その影響で橋が損傷・崩壊するリスクも決してゼロではありません。人の移動を支える橋が使えなくなれば、日常生活にも大きな影響が出るでしょう。

しかし、全国の橋を含む社会インフラの老朽化が進む一方で、自治体では維持管理のための予算や人手の確保が難しくなっているのが現状です。

これからの社会インフラをどう守っていくかが日本社会の課題になってきています。

LocationMindは橋の維持管理に課題を抱える東広島市とともに、その解決に向けてデジタル技術を活用した変革を実現しました。


橋の維持管理のデジタル変革とは


東広島市の悩みは以下の3つ

  • 1,419橋もの道路橋を維持管理

  • 法定点検・修繕・補修にかかる費用の財源確保が課題

  • 橋の維持・集約・撤去の検討を効率的に進めたい

位置情報のプロフェッショナルであるLocationMindからの提供価値

  • 位置情報データ加工・分析のノウハウを保持

  • 道路・交通分野での分析実績がある

  • 各分野での位置情報データ分析の社会実装



LocationMindでは、携帯電話のGPSデータから取得される統計加工データ(人流データ)を活用し、橋梁の通行量を分析するノウハウを保有しています。そこで東広島市と共同で、人流データを用いて以下のような分析を行いました。

  • 各橋の通行量の推定

  • 橋が撤去された場合の迂回路の距離計算

  • 維持・集約の優先度の判断材料となる指標設定

これにより、どの橋を維持すべきか、どの橋を集約・撤去することができそうかを効率的に検討できるようになりました。データに基づく意思決定が可能になることで、自治体による調査等の負担軽減を実現し、持続可能なインフラ維持につなげることができます。


▼東広島市とLocationMindの出会いについてはこちらをご覧ください▼


使用データ

今回の分析にはNTTドコモのモバイルGPSデータ(※)、OpenStreetMap(OSM)、橋梁データを使用して以下の3つを算出し、1419橋の撤去・集約・維持の優先度の設定を行いました。

① 橋の推定通行量
② 橋の迂回経路の推定
③ 対象の橋と最も近くにある橋との距離

※「LocationMind xPop」データは、NTTドコモが提供するアプリケーションの利用者より、許諾を得た上で送信される携帯電話の位置情報を、NTTドコモが総体的かつ統計的に加工を行ったデータ。位置情報は最短5分毎に測位されるGPSデータ(緯度経度情報)であり、個人を特定する情報は含まれない。

分析方法 ① 橋の推定通行量

橋の推定通行量はモバイルGPSデータで算出しました。
「GPSデータから通行量がわかるのか?」と精度に疑問を持たれる人もいるかもしれませんが、我々はデータを扱う企業ですので、そこはきちんと精度検証を実施しました。
GPSデータから算出した推定通行量と、東広島市が実施した交通量調査(人がカチカチとカウントしているやつです)の結果を比較して、相関係数は0.8747と一般的には強い正の相関を確認。交通量の大小関係は概ね一致したため検討材料として有用性があると判断をして使用しました。

交通量調査と推定通行量の比較結果



分析方法 ② 迂回経路の計算方法

橋の迂回経路の計算はOSMの道路リンクを使って算出しました。今回対象となる橋の特性上、以下2つの道路は計算対象から除外しました。今回の分析では、自動車が通行可能な迂回経路が担保できることを重視しました。

  • 高速道路(高速道路を迂回経路とはしないため)

  • 歩行者道(自動車移動者の迂回経路確保を担保するため)

1,419橋に判定材料の指標を付与

算出した①橋の推定通行量、②迂回経路、③最も近い橋との距離の3つのデータと、緯度経度、建設年度など市が保有する橋梁の基本情報と組み合わせて指標を作り、橋梁の対応方針・優先度を検討していくこととなりました。


「どのような指標で優先度を振り分けていくのか?」については①~③のデータを基に、7つのグループを設けて全橋梁を分類していきました。

まず、「最も近い橋との距離」を61.3m未満と61.3m以上に分類。
近くに橋がある場合、集約・撤去の検討優先度が高くなります。

61.3m未満の橋はさらに「迂回経路の全長」で分類し、707.8m未満をグループ「1」とし、707.8m以上をグループ「2」と設定しました。迂回する経路が長い場合、撤去した際に利用者への影響が大きいため、集約の優先度は低くなります。

最も近い橋との距離が61.3m以上ある橋は「推定通行量」でさらに分類します。多くの人に利用されている橋は、集約の検討対象となる可能性は低くなります。よって推定通行量をある閾値の人数未満かそれ以上かで分類をし、それを「迂回経路の全長」でさらに細かく分けていきます。そうして「3」「4」「5」「6」のグループ分けができ、迂回経路が計算できない橋は「99」と振り分け、全ての橋を7グループにしました。


分類結果と手応え

7つの指標で分類した結果、集約の検討優先度が高いグループが2つあることが分かりました。

  • グループ「1」165橋:付近にも別の橋が存在し、迂回経路が短い

  • グループ「3」418橋:推定通行量が少なく、迂回経路が短い

市ではこの結果を基に、集約・撤去の検討余地があると判定された各橋梁について、詳細に確認し、集約・撤去の検討を進めていくことを目指しています。



乗り越えるべき課題とその解決策

データを活用することで、優先順位の検討を効率的に進められる可能性が見えたには大きな成果でした。しかし、すべてが完璧だったわけではなく、データ活用にはまだ課題も残されていることを改めて実感しました。

  • データ精度の限界

  • 予算確保の難しさ

課題1:データ精度の限界
人流データでは、サンプル数や測位間隔に起因し、特に通行量の少ない道路や新道・旧道の並走区間で通行量推定の精度が低下するケースが見受けられました。迂回経路推定時には、道路ネットワークの整備状況などに起因し、意図しない経路が算出されてしまうケースもありました。また、自治体が保有するデータにも不足している情報が見つかることがあり、データの精度向上が求められます。

この課題を解決するためには、より測位間隔の短いモバイルGPSデータやプローブデータを用いた通行量推定の精度向上に加え、道路種別などの属性情報が整備された道路ネットワークを用いた、より実態に即した迂回経路推定を行うことなどが求められます。さらに、自治体側でもデータの整理・管理を継続的に行い、正確なデータを維持することで、より信頼性の高い分析結果を得ることが可能になります。

課題2:予算確保の難しさ
自治体がデータを活用するには予算が必要ですが、活用の成果が未知数な状態では、予算を確保するのが難しいのが現状です。特に、この取り組みはまだ始まったばかりで、実績が少ないため、市町村単体での予算確保が難しいといます。

橋梁の維持管理におけるデータ活用や、インフラ老朽化対策を全国的に進めていくには、国や県などのサポートが欠かせません。自治体がスムーズに取り組めるよう、事業推進の支援体制を整え、予算確保のための新たな制度を設けるなど、包括的なサポートが早期に構築されることが期待されます。


データを活用したインフラ管理は、持続可能なまちづくりの鍵となります。LocationMindはデータ活用を通じて自治体の皆さまとともに課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

今回の取り組みは第70回土木計画学研究発表会・秋大会でも論文を発表しました。

論文名:モバイルGPSデータによる推定交通量と 推定迂回路を利用した橋梁維持管理方針の検討"
著者:LocationMind株式会社)西村 真登・金杉 洋・三宅 光葉、東広島市建設部技術企画課)彌勒 昌史

対談記事もぜひご覧ください

東広島市のご担当者とLocationMind担当者の生の声をまとめた記事もありますので、ぜひご覧ください!



参考文献
*1)“老朽化対策の先進的な取組事例”. 国土交通省. 2024-04. https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/pdf/sensin-jirei.pdf, (参照 2025-02-18).

★ご興味がある方はぜひお気軽にお問合せください★
【お問合せフォーム】https://locationmind.com/#contact-us
【担当】西村