『メタファー思考は科学の母』●大嶋 仁著
著者は歌はいのちの力であると言い、文学は個人の心や社会を育て人類を守るなどと言うが、本書は、情動教育が大切だといった類の素朴なエッセーではない。脳科学や精神分析の見解を引用しながら、対象を別のものに喩えたり、自己の身体感覚や生命感覚を世界に投影するアニミズム的と言ってもいいメタファー思考が、実は人の認知機能を支えており、「物語は脳に備わっている」ということを考察した科学的な論考の書である。本書で取り上げられている認知科学者のマーク・ターナーは、人のメタファー能力は、文学上の表現手法としてばかりではなく、人間の思考の基本方式であると言っているという。概念的論理的な思考はその基本があって初めて十全に育まれる。
この、認識や思考の基層としての物語能力が近代になって生み出した個人史物語として、志賀直哉の『暗夜行路』が精神分析的視点でとり上げられる。またさらに、神話なき時代に社会の自己形成に必要な社会の物語の例として、フォークナーの『響きと怒り』が考察される。
◆2052円・四六判・229頁・弦書房・福岡・2017/10刊・ISBN9784863291577
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(地方・小出版流通センター情報誌【アクセス】492号新刊ダイジェストより)