電子インボイス、海外での導入事例
消費税の適格請求書等保存方式導入に伴い、電子インボイスの導入を検討する必要がある。
どのような仕組みで、どのような電子インボイスを導入するかを検討するにあたり、海外の事例を見ておこう。
EUでは自国内の取引ばかりではなく、EU域内貿易においてもインボイス制度をどう適用するかを常に考える必要があり、インボイスに関する規定が加盟国͡によって異なるとEU域内貿易が円滑に行われず、統一市場形成に大きな支障となる。EUでは電子インボイスの利用は任意であるが、その利用促進のために電子インボイスに紙のインボイスと同様の地位を与えるとともに、加盟国間の規定の統一を図っている。
他方、韓国では全面的に電子化した電子インボイス制度が導入されており、すべての法人事業者と税抜年間売上高が10億ウォン(約1億円)以上の個人事業主に電子インボイスの発行が義務付けられている。
韓国の電子インボイス制度では、電子的方法で電子インボイスを発給した事業者は、発給翌日までに発給明細書を韓国国税庁(NTS)が運用するシステム(ホームタックス)を通じて国税庁長に電送しなければならない。個々の電子インボイスが課税当局に転送される仕組みは、電子インボイスの特性が活かされたものであるが、課税当局では電子インボイス発行の対象となる取引について、ほぼリアルタイムで取引内容を把握でき、厳格なチェックが可能となっている。
メキシコでも原則としてすべての企業、すべての取引に電子インボイス(CFDI)を発行することが義務付けられており、そのデータは税務当局から提供される電子署名を付加すること、企業側はそのデータ(XML形式であり、印刷したCFDIやPDFは有効ではない)を保管しておくこと等が義務付けられている。CFDIの発行対象となる取引も財やサービスの提供により顧客に送付される請求書だけではなく、従業員へ支払う際に発行する給料明細等、多岐にわたる。
すべてのデータは税務当局のシステムで管理され、発行日の調整、変更等は困難であり、記載ミスや期限内の発行および入手等ができていない場合、その取引の損金不算入、仮払VATの控除不可、罰金の賦課等が生じる。
一方、電子会計情報提出制度も2015年1月より導入されており、企業は月次試算表等のデータを翌々月の第3営業日までに税務当局へ提出する必要がある。
ベトナムでは20万ドン(約1千円)以上の取引において、レッドインボイス呼ばれる赤い色の公式領収書を発行する義務がある。レッドインボイスがなければ経費に算入できず、付加価値税VAT10%の支払いとしても認められない。
レッドインボイスには下記のような情報を記載する必要があり、記載内容に一字でも誤った記載があった場合、税務申告において認められないため、記載項目には細心の注意を払う必要がある。
・会社名・住所、・日付、・納税番号コード、・商品・サービス内容、・単価、・総数、・合計金額、・VAT率・額、・ VATを含めて合計、・ インボイス番号、・ 印鑑・サイン
ベトナムでは現在電子インボイスへの移行が進められており、2020年11月1日をもって完全に移行する。
電子インボイスには大きく2種類のフォーマットに区分される。
・税務当局による認証コードが付された電子インボイス
・企業が自社作成した(税務当局による認証コードが付されていない)電子インボイス
電子インボイス移行後は20万ドン(約1千円)未満の取引においても売手はインボイスの発行が免除されず、未使用のレッドインボイス用紙は廃棄しなければならない。また、紙ベースのインボイスは無効となる。
このように電子インボイスの導入は多くの国々で進められており、韓国やメキシコ、ベトナムのように電子インボイスが課税庁のシステムに取り込まれる仕組みとして構築されているところも多い。
課税庁に詳細な情報を把握されることを嫌う我が国において、そのような電子インボイスの仕組みを導入するにはハードルが高いと思われるが、申告手続きの簡素化、効率化を図る上で検討の余地があるかもしれない。数ある業務プロセスのひとつである税務申告単体で考えるのではなく、一連の業務プロセス、ビジネスプロセスの中で考えることが重要であろう。