社会的システム・デジタル化研究会から「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」が公表されました。
中小企業や小規模事業者のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を考えるにあたって、興味深い提言が公表された。
社会的システム・デジタル化研究会から6月25日にに公表された「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」がそれである。
社会的システム・デジタル化研究会(通称 Born Digital 研究会)は、社会的システムのデジタル化(Digitalization)を通じ、社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図ることを目指して、2019 年 12 月に当初はTax Compliance by Design 勉強会として発足したとのこと。
以降、2020 年 6 月まで合計 5 回の研究会を開催し、この提言を策定した。
【参加メンバー】(法人名 50 音順、敬称略)
・SAP ジャパン株式会社 代表取締役会長 内田 士郎
・株式会社オービックビジネスコンサルタント 代表取締役社長 和田 成史
・ピー・シー・エー株式会社 取締役相談役 水谷 学
・株式会社ミロク情報サービス 取締役常務執行役員 岩間 崇浩
・弥生株式会社 代表取締役社長 岡本 浩一郎
【オブザーバー】(敬称略)
・日本税理士会連合会 税理士 磯部 和郎
・東京税理士会 情報システム部 税理士 井村 明博
・東京税理士会 情報システム部 税理士 木南 誠
・東京税理士会 情報システム部 税理士 菅沼 俊広
・東京税理士会 情報システム部 税理士 髙橋 邦夫
・内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 企画官 浅岡 孝充
・内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐 山内 伸隆
・内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官補佐 青木 宏之
この提言では、その「1.背景と課題認識」の中で「ただし、これまでの取り組みは、紙を電子化する、例えば確定申告書を電子的に送信する、という観点に留まっており、デジタルを前提とした申告・納税プロセス全体の見直しには至っていない。」とし、「また、紙を前提としたまま、プロセスの一部を電子化するだけでは、実現される効率化は限定的であり、新型コロナウイルス禍によって如実に示された通り、リモートワークも含め、これからの時代の働き方実現への大きな阻害要因になっている。」と、実に適切かつ率直な指摘をしている。
「3.基本的な方向性」では、「デジタル技術を浸透させることで社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図るためには、今ある業務プロセスの電子化(Digitized/Digitization)を図るだけでは不十分であり、デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化(Digitalized/Digitalization)が必要である。」とし、「デジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化を実現するためには、税制のあり方も含め、社会的システムの根幹から見直すことも否定すべきではない。」とする。
まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)である。
デジタル化、すなわちDXのためには、次の4つのポイントを踏まえる必要があるとする。
〇発生源でのデジタル化
・情報は発生源においてデジタル化する。近年では POS での販売管理や、給与計算ソフトでの給与計算など、情報は当初からデジタルデータとして処理されていることが一般的である。これら発生源でのデジタルデータを起点とする。
〇原始データのリアルタイムでの収集
・発生源で生まれたデジタルデータは、情報量を維持するという観点で、合理的な範囲でそのまま、かつ、リアルタイム(もしくはリアルタイムに近い形)で次のプロセスに引き渡す。
〇一貫したデジタルデータとしての取り扱い
・発生源で生まれたデジタルデータは、業務プロセス全体を通じて一貫してデジタルとして取り扱う。事業者内、さらに事業者間の業務プロセスにおいて、紙などのアナログを経ず、一貫してデジタルとして取り扱う。事業者から行政への申告・申請等においても、デジタルデータとして引き渡し、行政内の業務プロセスにおいても、一貫してデジタルとして取り扱う。
・行政から発信する告知や通知についても、デジタルデータとすることによって、事業者等の民間においてデジタルでの処理が可能となる。
・データは、XMLのように、後工程でのデジタルでの処理を前提とした構造化された(Structured)フォーマットとする。逆に紙の様式を模したデータフォーマットである必要性はない。
・つまり、これまでの取り組みのように、事業者から行政の申告・申請等を中心とした紙の様式の電子化にはとどまらない。
〇社会的コストの最小化の観点での、必要に応じた処理の主体の見直し
・発生源から行政まで一貫してデジタルデータとして取り扱う中で、どの時点でどのような処理を行うのかは、必要に応じ、全体最適の観点で見直しを行う。
・例えば経費精算において、個々の従業員が経費精算処理を行うのではなく、購入・利用明細データをサービス提供主体から直接事業者が受け取って従業員に代わって経費精算処理を行うことも可能である。
・行政が必要なデータにアクセスできるのであれば、社会的コストを最小化する観点から、事業者個別に処理を行うのではなく、行政において一元的に処理を行うことも考えられる。
「4.取り組むべき領域」では、「短期的に取り組むべき領域と中長期的に取り組むべき領域を明確化し、優先順位を付けながら計画的に進めるべき」とし、短期的に取り組むべき領域として令和5年10月に予定されている消費税の適格請求書等保存方式の導入を挙げる。そして「インボイス義務化に際し、紙だけを前提として業務プロセスを構築するのではなく、当初から電子インボイスを前提とし、デジタルで最適化された業務プロセスを構築すべきと考える。」とした上で、「これによって、取り組みが進んでいる大企業だけでなく、広く中小事業者も含め、商取引全体を通じての生産性向上が期待される。」とする。中小企業と小規模事業者のDXにおいては、まさに、この商取引全体を通じての生産性向上が重要となる。
中小企業と小規模事業者のDXを考えるにあたっては、もっと広くビジネスチェーン全体を対象として考える必要があるが、特定の組織に焦点をあてたデジタル化、DXを考えるにあたっては、多くの気付きと示唆を与えてくれるものである。
この提言は、Born Digital 研究会の中間成果物と位置付けられるものとのこと。Born Digital 研究会の今後の活動に期待したい。