中小企業と小規模事業者にとって、適格請求書等保存方式の導入はDXの必要性を実感する大きな転機となる。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、スウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマン氏の、ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる、という考え方に始まるが、残念ながら我が国の中小企業や小規模事業者は、ITの浸透が自分たちのビジネスの一側面においてさえ、より良い方向に変化させるとは考えていない。
ここに解決すべき大きな課題があるのだが、実は中小企業や小規模事業者がDXの必要性を実感せざるを得ないであろう大きな変化が待ち受けている。
令和5年10月1日に予定されている消費税の適格請求書等保存方式の導入である。
令和元年10月1日より改正消費税法が適用され、標準税率10%と軽減税率8%の複数税率制度が導入された。それ以前の消費税率は単一であり、課税か非課税か、あるいは不課税かを区分すれば、あとは課税取引を単一の税率で処理すればそれですんだ。ところが複数税率制度の下ではそうはいかない。課税取引を標準税率の10%が適用されるものと軽減税率の8%が適用されるものとに区分して管理し、処理しなければならないからだ。すでに税務申告で苦労された方もたくさんおられるのではなかろうか。
ここで消費税等の納税額を算定するための計算方式について、簡単に確認しておきたい。
一言で言えば、販売時に預かった消費税額等から仕入れ時に支払った消費税額等を控除して消費税額等の納付額の計算を行なうのであるが、預かった消費税額等から支払った消費税額等を当然に差引けるわけではない。法律で定められた一定の要件を充足して初めて、預かった消費税額等から支払った消費税額等を控除できるのである(預かった消費税額等から支払った消費税額等を控除することを仕入税額控除という)。その要件の一つが、適格請求書等の交付を受け、保存していることである。
仕入税額控除ができなければどうなるか?
販売時に預かった消費税額等を全額納付しなければならないのだ。
適格請求書等保存方式においては、原則として適格請求書等に記載されている消費税額等を合計して仕入税額控除を行ない、消費税等の納税額を算出する。
ちなみに適格請求書には、以下の事項を記載しなければならない。
① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び
適用税率
⑤ 消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
従来の請求書、あるいは現在の区分記載請求書に追加して記載しなければならない事項は上記④と⑤だが、記載内容に誤りがあれば修正して再発行をしなければならない。
しかも、適格請求書等の作成が求められるのは販売時のみではない。
返品や値引き等をした場合にも、適格請求書(適格返還請求書)等を交付しなければならないのだ。適格返還請求書には返品や値引きのもととなった販売を行なった年月日やその取引の内容も記載しなければならない。
販売にあたって適格請求書等を作成し、交付し、そして控えを保管する。場合によっては修正して再発行し、交付し、控えを保管する。
販売時だけでなく、返品された時、値引きをした時、リベートを支払った時にも、適格請求書等を作成し、交付し、控えを保管しなければならない。
仕入税額控除を行なうにあたっては、すべての適格請求書等に記載されている消費税額等を税率ごとに区分して合計する。
適格請求書等をこれまでのように紙ベースで作成し、やりとりすることの事務負担が相当なものになるであろうことは、容易にご想像戴けると思う。
消費税における適格請求書等保存方式の導入は、中小企業や小規模事業者にとって正面からDXと対峙する大きなきっかけとなる。そしてDXの推進によって、中小企業や小規模事業者は自らのビジネスをあらゆる面でより良い方向に変革し、生産性の向上を図る転機としなければならない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?