#9 銀河の犬と水玉~曼珠沙華の伝言~
第5章 二人の病気
体を張って予定を変えさせる
その頃私の体調もまたしんどい時期が続いていた。
そんな中、友人のライブがあるので少し離れた場所へ出かける予定だった。遠いから運転大丈夫かなぁ…少し不安が残った。
出かけようとしたその時間に、ジュビ子の様子がおかしくなった。
ぐったりと疲れた様子を見せて息も荒い。
しかしいつもの病院は定休日。
ネットで調べて開いてる病院を見つけた。
急いで連れて行ったけどとても込み合っていて順番まちで何時間もかかった。
友人のライブへは行けないと連絡をいれた。
ジュビ子の番が回ってきて、診察台にのると、血が1滴垂れた。
手術の跡からなのか?
よく見たけれどどこにも血はついていない。
どこから垂れたのか?
1滴だけ?
先生もよく見てくれたけれど、結局わからなかった。
とりあえず検査をしてみましょう、と。
そこはジュビ子だけを、連れていかれて飼い主が検査を同行出来る病院では無かった。
いつもの病院は、先生と受付兼助手の方と二人の為に、レントゲンとか注射の時に抑えるのは飼い主の仕事だった。
何をされているのか見ていられたし、ジュビ子もいつも私が一緒にいたので、離された病院は初めてだった為、呼ばれて中に入った時にはジュビ子はビビってオシッコを漏らしていたと聞かされた。
怖かったね。
そして検査結果はどこも異常が無いため、何もわからない、ということ。
手術跡もよく見たけれど、血が出るような所は見当たらなかったし、あの1滴がどこから垂れたのかもわからないけれど、もしかしたら尿が出る所から1滴だけ垂れたのかもしれない、との事だった。
様子を見て、いつもの病院でまた見てもらった方がいいでしょう、との事だった。
検査が終わるとジュビ子は優しそうな先生の後を追いかけ回して、先生が気に入ったのか、ついて回っていた。
お家に帰る頃には何事もなかったかのように元気にスタスタ歩いていた。
おしっぽもご機嫌な振り方で、本当に何だったのか?と思える程だった。
それからは異常なく、特に急変も見られなかった。
後から気づいたのは、お盆休みも私は東京へ追悼ライブへ行く予定だった。
ジュビ子が体調を崩したのでキャンセルした。
この日も友人のライブへ行く予定だった。
キャンセルした途端にジュビ子は元気になった。
もしかして、私が疲れた身体で無理をして遠出をしようとしてるので、身体をはって止めてくれてるのか?
犬猫はしばしば不思議な行動をとる。
飼い主の為に自分の身体を犠牲にしてでも予定を狂わせる事をする。
それだけの為に血まで流して?
でもそこまでしないと私はきっと出かけていただろう。
ジュビ子が元気になってくれるなら、予定はキャンセルしても構わない。
もっと他の方法で止めて欲しい。
ジュビ子が身体をはるのはやめて欲しい。
とにかくジュビ子の原因不明の不調は気になるので、もう少し慎重に他の病院も行くべきかと考えた。
アニマルヒーリング
近くの施設で、アニマルヒーリングの勉強中の方がワンコインで見てくれるイベントを行っていた。
動物は写真でも良いと書いてあったので、早速お願いした。
ジュビ子の写真を見せると、早速繋がる事を始めた。
なんだか…ほんわかした穏やかなわんちゃんですね。と言われた。
最近、散歩に誘うと喜んで門を出るのに、門を出た途端にくるっと方向転換して家に入ってしまい、行かない時が増えた。
どうして散歩に行かないの?と聞いてもらった。
——散歩だ!嬉しい!と向かうのだけど、いざ歩き始めようとすると身体がとても重くて疲れてる。
歩くのがしんどくて、行くのをやめる。——
そう答えられて、とても心配になった。
どこか痛いの?どんな感じに体調が悪いの?
——お腹の部分がね、キューッてするの。——
その言葉を聞いた時に涙が込み上げた。
キューってするの。
それはジュビ子の言葉だと思ったからだ。
散歩行く行く詐欺をされる度に「なんでー?行かないのー?もうー」と私は不貞腐れた時もあったのだ。
何度も何度もお散歩行く!と言っては全く歩かないので、なんなのさー!と思っていた。
お腹が締め付けられるほど痛かったなんて。
歩くのを躊躇するほど身体がだる重くなってたなんて。
全く気づいてあげられなかったのだ。
そこで、病院について聞いてもらった。
この前初めて行った病院で、先生の後を追いかけていたけど、あの病院が好きなの?いつもの病院とどっちがいい?
もちろんそれ以上の情報は与えていない。
しかしセラピストさんから出た答えは
——この前の先生は優しいんだけど……腕があるのはいつもの病院の方が…——
ホンモノだ!!
でもさ、どっちの病院でも検査異常ないじゃない?
でも血が出たじゃない?
どうしたらいいと思う?それ、何の病気なの?
ジュビ子に聞いてわかるものなのか謎な質問をしてみた。
——気になるんだったら、納得できるまで他の病院も行ってみたら?——
そこで、そのセラピストさんに、色んなわんちゃんをみてると思うので、どこか良い病院の情報知りませんか?と訊ねてみた。
ひとつの病院を教えてもらった。
ネットで見ても口コミはとても素晴らしい!と書かれたものばかりだった。
その病院へ行ってみることにした。
クチコミの良い病院
全てを知ってるような叡智の塊のジュビ子さんは、朝から何かを察していた。
その口コミの病院へ連れていこうとしたが、とにかく車に乗るのを嫌がった。
そして向かう道中もシートベルトを絡まらせたり、危ない格好で椅子から落ちるように暴れてみたりと、いつもは大人しく座っていてくれるのに、酷い暴れようで何度も車を停車させた。
おかげで着いた時には順番待ちが長蛇の列だった。
ジュビ子の番はギリギリ午前中の最後の方だった。
受け付けのお姉さんがバインダーに挟んだメモがコチラに見えるようになっていた。
本日、先生が用事があるので、〇時までで終わるように受付を締め切る。とな!
その〇時までに間に合うにはジュビ子を診ている時間はなさそうなのだった。
いや、待って。だからと言って適当に検査されたのでは困るのである。
受付さんから「あの、もしよろしかったら午後の順番にして貰えたら…」と提案された。
「いいですよ。わかりました。何時に来れば良いですか?」
「午後は午後でまた順番待ちの列が出来るので、それに並んで下さい。」
え?そちらの都合で午後に回されるのに、また順番待ちの為に早く来て並ぶの?今から一度帰るのにまた早く来るの?
ジュビ子を何往復もさせて?
怖がってるのに?
と思いながらも、人気の病院だから仕方ないかと、一度帰宅し、数時間置いてまた来ることにした。
そしてまた午後の順番待ちをしたが、また午後も長蛇の列で初診は後半に回されてしまった。
朝から2回も来ているのに、順番は18時頃だと言われる。
え?まだ完全にお昼。また帰るのか…
片道30分以上かかる道のりをまた帰宅した。
そして夜にまた3度目の来院をしたが、ジュビ子は更にイヤイヤして足を踏ん張って「入りたくない!!」アピールをしていた。
ここまで嫌がる病院は初めてだった。
しかもまだ何もされていないのに。
けれど、その理由がすぐにわかった。
クチコミの先生はどこ?
この人でないのは確かだ。
そう確信するまでに時間はかからなかった。
とても高圧的な上からの言い方。
飼い主の見解は全てバカにして却下。
糖尿病は治ったはずで、血液検査の数値も異常ないけど、水のがぶ飲みが凄いといえば、
「この暖房で乾燥する季節に水を多く飲むのは当たり前!」
いや、そんなレベルじゃなくて2リットルがぶ飲みするんですけど…
寝てても起きてても突然震えだす時がある。と言えば
「犬は夢見て体を動かす時もあるし、震えるって言ってもそんなの犬なら当然でしょ!」
え?いつもの獣医さんはてんかんではなさそうだけど、何か病気が潜んでいるのか、そういう体質や癖があるのか、注意してみててね。撮れたら動画も撮っておいて。と言ってましたが…
いつもの病院で「これは良性のイボだから取らなくて大丈夫なんだけど、邪魔になったらいつでも取れるから」と言われていたイボを「腫瘍があるから検査しないと」と言い出した。
良性のイボだと言われていると伝えても
「これが癌だったらどうするつもり?殺す気なの?検査もしないで良性なんてわかるわけない!すぐに検査が必要!」そう言って嫌がるジュビ子をまた引き離して連れていった。
しばらくして、ジュビ子の悲痛な叫び声が聞こえた。
キャキャキャイン!キャイン!ギャンギャイン!キャキャキャイン!!
いや、鳴きすぎでしょ、何されてるの?
ジュビ子があんなに叫んだことは今まで一度もない!!
そして悲しい瞳でいっぱいのジュビ子が連れて来られた。
逃げるように走って私の所へ戻ってきた。震えていた。
結局イボを調べる為にそこを焼いたのか切ったのか削ったのか、何らかの処理で取ったのだった。
そして「良性だったから良かったですね」と言われて終わった。
とにかく腹がたった。
2度と来ないと誓った。
精神的なストレスかもしれないのでとサプリを勧められたがもちろん断った。
2度と通う気はなかったからだ。
ジュビ子は診察中もひたすら外に出ることばかりに必死でそれは全力で引っ張って逃げようとしていた。
診察が終わってお会計を待つ間もジュビ子は
「とにかくここには1秒でもいたくありません!帰ります!」
とすごい力で出口へ向かおうと必死だった。
色々な検査で数万円を取られ、ジュビ子も私もかなり嫌な気分で帰った。
ジュビ子のあれほどまでに嫌がる態度を信じて、こんな病院来なければ良かった。
ジュビ子にごめんね、2度と行かないからね。と何度も伝えた。
その後、いつもの病院でその病院で起きた事を話すと、
「先生変わったのかな?あそこの先生は私の名前出したらそんな良性のイボを取るような事はしないんだけどな。
検査しなくてもある程度の医者ならこれは見てわかるから。良性のイボだって。しかもこんな切り方されて。
また盛り上がって来てるからもう一度大きくなったら切って焼くしかないね。
ホントは一度で綺麗にポロッと取れるやり方があるのにね。可哀想に。痛い思いしたね。」
と言われて、その言葉の通りイボはそこからまた再生し、前より大きくなって、それを取ってもらったけど、ジュビ子は一声も発さずにちょっとビビっていたけれど、すぐに終わった。
そしてそこからは固まった痕がポロッと取れたら綺麗になくなり2度と生えては来なかった。
ジュビ子の言う通り、腕が良い医師はやはりここの先生なのだった。
そして、セラピストさんの
「気が済むまで他の病院行ってみたら?」の言葉にジュビ子らしさを感じていなかった事を思いだした。
ジュビ子のキャラ的にそんな言い方はしないと思った。
腑に落ちていなかったのに、動いてしまった。
今度からはジュビ子を信用しようと思った。
ジュビ子が嫌がる病院にはそれなりの理由がある。
単に病院を嫌がっているわけではない。
現にここの病院へ来るのはスムーズだ。
やはり宇宙の叡智の詰まった子!!なんてお利口さんなの!!
更に親バカは加速するのであった。
病の主
この頃、SNSから、テレビから、やたらと犬猫が飼い主の病気や不幸を背負って他界する事で持って行ってくれる、という内容のものが目に付いた。
中には「持って行ってくれたのね、ありがとう」と言ってる飼い主もいた。
そこで私はハッとした。
3つの病院で検査しても何もわからず、時折グッたりしているジュビ子さん…
もしかしてそれって…
私の病気なの?ジュビ子が引き受けてくれようとしているの?
そう思い始めたら全身の毛穴が震えるようにゾッとした。
そして神様とジュビ子に、天使に、あらゆる運命を握ってる存在のなにかに、私は激しく抗議した。
冗談じゃない。私はありがとうなんて思わない。
今すぐ辞めて!私によこしなさい!私に返しなさい!
私は口が聞けるの。言葉で説明出来るの。
病院だって沢山種類があるの。
私なら治せるの。人間なんて、治せるの。
私の幸せを願ってくれるなら、病気を身代わりに受けるのは間違えてる。
それはとっても不幸な事でそれはとっても悲しいこと。
私を信じて欲しい。
私ならその病気、、治せるの。
だからこっちによこしなさい。今すぐに。
神様仏様天使様、ジュビ子が病気になるのは誰も幸せにならずに不毛です。
永遠に何度も何日も繰り返し言って聞かせた。
すがるようにお願いした。
そして病気に命令した。
お前の主は本当にジュビ子か?
本当の主の元へ行きなさい。
誰かわからなくてジュビ子の中にいるのなら、 とりあえずこっちに来なさい。
終いには病気にも語りかけていた。
想いが通じたのか、脅迫に屈したのか、病気は私へとやってきた。
原因不明で治療法のない難病。
口で説明出来るから、病院も沢山あるからすぐに治ると豪語したはずなのに、この病気は地元では診断できる医師がおらず、それはそれは厚い壁まみれの病気であった。
体が重くて散歩も歩けない病気であった。
検査結果に何も異常の出ない病気であった。
こんな大変なものを、ジュビ子は引き受けてくれようとしたの?
こんな身体の辛さを抱えてくれていたの?
こんな小さな身体で……
ジュビ子からこの病気が離れてくれて、本当に良かった。
私は何がなんでも寝たきりになっても、ジュビ子のお散歩とお世話が出来る余力は残してジュビ子より1日でも長く生きねばならない。
もしかしてジュビ子が介護が必要になったなら、それも出来る体力が必要だ。
お金も必要だ。
ジュビ子の生命を預かる。
その責任を果たすまで、
泥沼にハマっている場合ではない。
そう闘志を燃やすものの、病気は完全に泥沼だった。
蟻地獄のように、砂時計の砂が落ちるように、私の身体はどんどん寝たきりへと進んでいった。
身体の異変、初期症状
初期症状は既に始まっていた。
何とか誤魔化しながら仕事を出来るまでに留められていたのは、きっとジュビ子が半分背負ってくれていたからなんだろうと思う。
とにかく身体が重くて起き上がるのがしんどいのだった。
4年間で15箇所の病院に通うが、検査に異常はなく
免疫低下、疲れている、ストレスかな?などと言われて漢方薬の補中益気湯を出されたが、私は漢方が効いたことが無く、半年飲み続けてもやはり効果は得られなかった。
病院を回る度に病気だと認めて貰えないので、精神的なものなのか?うつ病になってしまったのか?と思った。
抗うつ薬を試したいと言っても、医師たちからはうつ病とは思えない。と出して貰えないこともあった。
試しにデパスを処方してくれた医師もいたが効かず、鬱の疑いも自分の中から消えた。
ではいったいなんなのか?
土日休みの仕事でも、月曜日から金曜日まで身体が持たない。
毎日毎日仕事から帰り、ジュビ子のお散歩に行くだけで、ご飯とお風呂ですぐに寝ても、翌朝身体が重くて起き上がれない。
お風呂も毎日は入れず、1日おきになっていった。
金曜日の夜はやっと休めると安心するも、土日のどちらかで買い物を近所に30分出かけるだけでも、月曜日に仕事に行ける身体にまで戻らなくなった。
土曜も日曜も、着替えず、外出せず、化粧もせず、ただただひたすら寝て過ごさないと翌週は五日続けて仕事が出来ないのだった。
友人の結婚式が土曜日にある時には金曜日に会社を休み、1日寝ていないと、結婚式に参加出来る体力が無かった。