#5 銀河の犬と水玉~曼珠沙華の伝言~
犬との時間
1日24時間の内の、どれくらい犬と過ごせるだろうか?
おはようの挨拶。
ご飯をあげてお水を変える。
行ってきますをして、仕事から帰ってただいまの挨拶。
散歩に行く。
夜のご飯。
おやすみの挨拶。
お休みの日は一緒に遊んだ。
ジュビアはわんぱくで、紐でも草でも引っ張りっこ。
かなりの力で離さない。
紐をブンブン振り回して、ジュビアは軽いので身体が浮いて空中を振り回される。
当時のお笑い番組で極楽とんぼの加藤さんがやっていた「爆裂お父さん」ごっこ。
それがジュビアは大好きだった。
「振り回して~‼」と、よく紐を咥えて持ってきたものだった。
お気に入りのおもちゃは、噛むとピー!ピュー!となる茶色いクッション。
白いブタちゃんのぬいぐるみ。綿の入ったものは大体破壊されて中の綿をひたすら全部出すのが好きだった。
私が仕事に出かけている間は一人で遊べるようにペットボトルの中にカリカリを入れて渡してから出かけた。
うまく転がして中からカリカリが出てくれば食べられるのだ。
帰ってくる頃にはいつもカラッポになっていた。
ズルをして噛みちぎる事は一度もしなかった。
転がして口から出てくるのが楽しかったのかもしれない。
ジュビアが吠えた日
ジュビアが家に来て半年ほどたち、まだ一度も声を出さず、吠えることがなかった。
吠え方を知らないのか、大人しい子で吠えないのか……
近所のわんちゃんが放し飼いにされており、よく道路を渡って家の中に入って来ていた。
吠えずに大人しいジュビアの上に乗ったり、オシッコをひっかけられたりしているのに、ジュビアは怒りもせず、吠えもせず、自分から見たら大人の大きな犬に怖がる事は無かったが、されるがままに寝転んでいた。
どんな声で鳴くんだろうか。
初めてジュビアが吠えた。
ウーウォウ!ワン!
……ドスの効いた低い声だった。
母親は「どんな可愛い声で鳴くのかと思ったら、低くて太い声だった」と残念そうだった。
ジュビアから見える世界
ジュビアから見た世界はどんなだろう?
興味を持って犬小屋の前でジュビアが何を見て何をしてるのか、ずっと隣にいて観察してみた。
家のドアをずっと見ていた。
あそこが開いたら誰かが来るのだ。
ご飯かな、散歩かな、遊ぶのかな。
ジュビちゃーん。ってニコニコした人間が出てくる所なのだった。
犬の無償の愛
犬の十戒なるものがあるが、その中でも
噛める牙を持っているのに、飼い主を噛まない事を覚えておいて、というような文言がある。
全くその通りなのだった。
人間を噛み殺す事も出来るのに、虐められても叩かれても、しっぽを振って「好きになって。怒らないで。嫌わないで」と純粋な瞳で見つめてくるのだ。
中には虐待をする愚かな人間も決して少なくない。
犬の飼い方が不慣れでリーダーとして充分な働きが出来ない飼い主も多い。
私もその中の一人と言える。
それでも犬達は飼い主を愛してくれるのだった。
人間には、家族があり、友達がいて、恋人がいて、仕事があって、趣味がある。
しかし犬はひとりぼっちでずっと外に繋がれている。
どんな気分なんだろう?
それを忘れてはいけない、と。
私は度々、ジュビアの横に座り込んで一緒にただ家を見つめていたのだった。
そんな事を繰り返す内に、やっと心を開いてくれたのだった。
そしてジュビアの呼び方は
ジュビちゃん、ジュビたん、ジュビ太、ジュビ助、ジュビごん、ジュビ太郎……散々変換され続けた上で
ジュビ子と呼ばれる事が定着していた。