4. LuYang's LuYang Delusional Mandala
はじめに
こんにちは、この記事の趣旨はこちらでご覧ください。
第４回目の今回は、ルー・ヤンの『LuYang Delusional Mandala』を取り上げます。
この作品はVimeoで誰でも見ることができるので、是非見てみてください。
カオスな世界観が印象的ですね！
先日、森美術館でいくつか展示されていた作品を見ていたので、ドミニクがどのように紹介しているか気になったので、今回は彼女を選びました。
作家紹介
ルー・ヤンは、1984年上海生まれで、2010年に中国美術学院を修了しています。これまで3Dモデリングやモーション・キャプチャーなどの最新技術を駆使した映像作品を発表してきました。彼女の発表する作品群は、現代アートとして取り上げられることが多いですが、元々のルーツはアニメーションや漫画、ゲームなどのサブカルチャーであり、そこから多くの哲学的着想を得ているそう。混沌とした作風の映像は、人類が共有する身体をテーマの中核とし、科学から哲学、心理学、脳科学、宗教などを参照しながら、私たちの倫理観や人間性について問うものが多いように思います。
作品紹介
およそ16分ほどの映像作品『LuYang Delusional Mandala』は、リンクから視聴できるので、百聞はなんとやらということで、読者の皆様は直接ご覧になっていただくのが良いでしょう。しかし、作中のモノローグが中国語で、字幕も英訳ですので、少し補足という形で紹介させていただければと思います。
映像の冒頭では、ルーヤン自身がジェンダーレスの３Dアバターとしてスキャンされ、人類としての象徴的な身体像を形成します。
次に、頭部を固定するための器具であるStereotaxyについて説明されます。このフレームによって、脳を３次元的な座標として認識可能とし、この３次元座標系を利用し、小さなターゲットを見つけ出し、切除、生検、病変、注射、刺激、移植、放射線手術（SRS）などの処置を行う外科手術を可能としていることを説明します。
また、これを利用した脳深部刺激療法（DBS）について、患者の脳に電極を埋め込み、パルスジェネレーターで脳深部の神経回路を刺激し、脳の電気回路の異常を修正し、神経症状を緩和する治療法と説明されます。
これは脳の内部からの刺激による治療ですが、経頭蓋磁気刺激（TMS）という磁場発生装置によって、外部から脳の特定の領域に刺激を与える施術についても言及されています。
最後に、死の定義についても触れています。
以降はモノローグなく進行し、派手な装飾の霊柩車が荒野を駆け抜けていくシーンで映像は終わります。
これは傑作か？
この作品ではポップな映像の演出と打って変わり、モノローグでは、DBSやTMSといった脳への治療、また死について、科学的な説明が淡々となされていきます。そこで作家の深い考察や哲学的な思索が語られることは一切ありません。
しかし、そのモノローグに加え、映像を同時に見ることで、その説明に作家の意図が肉付けされ、作品に広がりを持たせています。
脳に刺激を与え、精神・身体の異常を抑え、または感情をコントロールする技術は、人類が意識という深淵を覗き込もうとする行為であると言えます。また、技術が発展し、私たちの意識、身体をコントロールする力を手に入れれば、精神を解放し神の存在に近づくことも可能かもしれません。そのような希望が技術によって獲得しようとする人間をヤンはアバターの歪んだ顔やグロテスクな身体で表現します。
また、最後に生命の死について淡々と科学的な説明がなされることで、生命にとって死が絶対的であったことを鑑賞者に冷静に伝えているかのようです。
最後、さまざまな改造をされたヤンのアバターはついに死に、棺桶ごと霊柩車に積まれ、荒野を突き進みます。この茫漠たる荒野を趣味の悪いデコトラックのような霊柩車が暴走している様子は、いっそう虚無感を増幅させるように感じます。
いかがだったでしょうか？
簡略化すると、まさに何事も諸行無常であるということでしょうか。
ドミニクは、Stereotaxyの器具が王冠にも見えるし、拷問器具にも見えるといっています。…確かに。このギャップも面白いポイントですね。
このような独特な映像による表現が彼女の魅力であり、唯一無二感があります。本当に素晴らしいと思います。
それではまた次回。
参照元
この連載は以下の本を参照します。
Dominique Moulon, "Masterpieces of the 21st Century - art in the digital age",Translated by Geoffrey Frinch, 2021
見出しの画像は、以下のサイトのスクリーンショットを使用しています。
https://www.cobosocial.com/dossiers/lu-yang-delusional-mandala/