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より高密度で人口の多い地区では人々がより歩くようになる
case|事例
「American Journal of Epidemiology」に掲載されたワシントン州立大を中心とする研究チームの論文で、都市環境の改善が人びとの歩く量を増やすことを明らかにされた。この論文では、家族の影響と遺伝的要因をコントロールするために約11,000人(5,477組)の双子を対象に2009年から2020年にかけて実施された全国調査のデータを分析している。調査対象者からは歩行時間は居住地とあわせて典型的な1週間の歩行時間が聞き取られている。歩行時間は運動やレクリエーション、単なる移動にかかわらず歩いた時間を集計している。歩きやすさは、人口密度や道路密度、店舗や公園、レストラン、カフェなどの歩いて行きたくなる場所の密度を用いて指標化している。
結果として、場所の歩きやすさと活動の間に強い相関が確認され、空間の歩きやすさを1%増やすと歩く量が0.42%増えることが明らかにされた。これを拡大すると地区の歩きやすさを55%増加させると歩行時間が23%増加し、住民1人あたりの週の歩行時間が19分増加することを示している。論文の著者のひとりであるワシントン州立大学のグレン・ダンカン教授は「座りっぱなしの生活の多いアメリカの国民にとって、週19分の歩行時間増加は大きな違いをもたらす。」とコメントしている。
また地理的には、歩きやすい地区は都市部に立地している傾向が強かった。特にショップやレストランが多く、公共交通でのアクセスも良いシアトルのキャピトル・ヒル地区は好例と言える。一方で、郊外は店舗や施設へ自動車でのアクセスを強いることが多く、歩きやすさは高くない。
研究では、歩きやすさと公共交通の利用との関係も調査していが、今回の対象者はほとんど公共交通を利用していなかったため、公共交通利用が増えるという結果は得られなかった。しかし、歩きやすい地区では公共交通を全く利用しない可能性が32%減少しており、影響がないとは言い切れない。また、地区の歩きやすさは、ウェイトリフティングやランニングなどの激しい運動には影響を及ぼさなかった。
insight|知見
家族の影響や遺伝的要因による影響を小さくするために双子を対象に調査をしているという点が面白いなと思いました。あまり都市計画の調査サンプルの設定で家族や遺伝要因の影響を考慮することはないように思いますが、考察の説得力を高めるためにはサンプル設計の方法も大事だなと思いました。
都市レベルでは、Peter Newmanが人口密度とガソリン消費量の関係を示した研究が有名だと思いますが、今回の研究で示されたように地区レベルでの都市環境の改善も歩く量を増やすのであれば、都市スケールでも地区スケールでも自動車ではなく歩行者や自転車、公共交通に優先的に投資すべきという公共投資の判断が出来そうですね。