バルセロナは市民のメンタルヘルスを改善するために緑に投資する
case|事例
気候変動への適応や排出ガスの削減、大気汚染の改善をはじめ、都市の緑化を進めるための理由は多くある。バルセロナ市は、市民のメンタルヘルスを改善することを目的として都市の緑化を推進しようとしている。バルセロナは、市内の3地区を対象に、交通の静穏化と緑化を施した「スーパーブロック(Superblock)」を試験的に設置している。この地区の住民を対象にした調査では、スーパーブロックの実施によって「よい休息が取れるようになった」、「近隣住民との交流機会が増えた」、「大気汚染の改善を実感するようになった」というような結果が得られており、住民のストレスが軽減しメンタルヘルスが改善している兆しが示されている。
現在、バルセロナ市は、この結果を受けて、「緑の軸(Eixos Verds)」というプロジェクトの下、スーパーブロックを市域全体に拡大することを目指している。「緑の軸」プロジェクトでは、徒歩や自転車での安全で快適な移動を支える静かな街路ネットワークを形成し、住民同士が交流できる緑豊かな公共スペースを創出する。このプロジェクトでは、緑化やアクティブトラベルの促進で大気汚染を改善し気候変動への適応を助けることなど、さまざまな成果が期待されているが、最終的な目標は、騒音や大気汚染の改善によって住民のメンタルヘルスを改善し、住みやすい環境で社交性を高め孤独感を軽減することと定められている。
都市の緑化がメンタルヘルスに与える影響については科学的なエビデンスも得られ始めている。バルセロナ国際保健研究所によると、「緑の軸」の全面的な適用によって、メンタルの不調は14%予防でき、精神科の受信は13%削減できると効果が見積もられている。また抗うつ剤の使用も毎年13%減らせることが可能であると試算されている。バルセロナ以外にも、オランダや中国の研究で、都市内の緑地の増加や自然へのアクセス機会の増加がメンタルヘルスが改善するという結果が得られている。
insight|知見
これまでも、もちろん騒音や大気汚染の対策として都市の緑化は進められてきましたが、どちらかというと都市内に彩を与える景観的な要素が強かったように思います。
一方で、緑へのアクセス機会の増加がメンタルヘルスを改善するという最新の研究結果を踏まえると、都市の緑化の意味がより厚みをもって実感できます。また医療費や社会保障費の削減などのクロスセクショナルな効果も期待できるかもしれません。
特に、well-beingな都市を実現するためには都市内の緑はとても重要になる気がします。