読蜥蜴の毒読日記 24/5/13

小説番外地 4

例えばこんなスタージョン 1

“A Noose of Light” “Alter Ego”
by Theodore Sturgeon


今回 蟻塚とかげは文学フリマ東京38で
翻訳同人誌『天空精気体 シオドア・スタージョン怪作集』を頒布します。「天空精気体 シオドア・スタージョン怪作集」爬虫類館出版局@文学フリマ東京38 - 文学フリマWebカタログ+エントリー (bunfree.net)

そこで発刊記念として
スタージョン短編全集第1巻から
未訳作品 二作をレヴューします。
いずれもスタージョンの生前未発表だったもので
この全集が初出の作です。

“A Noose of Light”
テリーとフロレンスは姉妹
テリーは美貌の持主で、もてまくりだし男友達を作り放題
フロレンスはリケジョで、色彩の光学的分析に専心していて、
家に引きこもって実験ばかり。
対照的な二人だが仲はいい。
研究ばかりで男のいないフロレンスを心配したテリーは、
フロレンスにぴったりのインテリ男子を紹介しようとする。
その彼氏候補:ベンは失われた古代文明の痕跡を研究しているインテリ男子だから
インテリ同士でフロレンスにぴったりではないか!
そんなテリーのお節介を断り続けるフロレンスだったが
ある晩、偶然出会ったベンに夢中になってしまう。
ところがそんなフロレンスの様子を見たテリーはベンが惜しくなり
自分の彼氏にするとフロレンスに宣戦布告。
かくしてベンをめぐって姉妹間戦争が勃発するのだが…

粗筋だけ書きだすと “なるほど未発表作だね” と思われる方が多いと思いますが、実際読んでみるとこれがけっこう面白い。
スタージョンのウィットにとんだ表現と比喩がリズムのある文体と混じり合い、かなり魅力ある作品に仕上がっています。
設定が凡なだけ、スタージョンの特異な魅力が浮き彫りになる作品というべきか。
そしてタイトルからも察せられる通り、フロレンスが光学研究をしていることが最後の落ちにつながる所もいい。作品中の科学用語も小説にソリッドなアクセントを与えていて、スタージョンがSF作家になることのある種の必然性を感じさせます。

実はこれも今回訳してみたいと思ったんですが、前述したとおり短編全集が初出の作だったということで断念。
決して大傑作とかではないのですが、スタージョンの短編集なんかに混じっていたらいい感じの作品じゃないかと思います。


“Alter Ego”
昔々 世界が今より若く、今より少し愚かだったころ、そこに“リーダー” という支配者がいた。彼が納める領土では”リーダー”は神とあがめられていた。ところがある日 “リーダー” が民の前に姿を現すと、彼に向けて投石があり、家来の一人が殺されてしまう。
自らの死を恐れるようになった“リーダー” は、秘かに自分にうり二つの男を探し、己の影武者を創りあげるが……

 いつどことも知れぬ王国を舞台にした寓話的作品。スタイルとかテーマはダンセイニっぽいと感じました。ただ、正直言って印象は薄い作品です。スタージョンにおいては、その語り口が夢幻的な印象を与えたり、その舞台がいつどことも知れぬ設定の作品であっても、作者が作品内にソリッドな基盤や細部を備えることをおろそかにしてはいない、と筆者は考えています。
 
 そんな考えを前提にすると本作は、ダンセイニ風の寓話作品にスタージョンが挑んだ例外的な珍品である、といの位置づけに個人的にはなりますね…


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