113. 起き上がれない|Stay Home編②
bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。コロナ禍のフランスからのどかな里山に帰ってホッと一息。そんな時にわたしの身に起こったこととは…?
*
まるで戦時中のようなコロナ禍のフランスからのどかな日本に帰ってきて、米を食べた時。今まで張り詰めていた糸が切れたかのように家族みんなで泣いた。
畳に敷いた布団に吸い込まれるように眠りについて、翌朝目が覚めると…。
あれ?
あれ?
体が、動かない。
力が全く入らない…。
まるで背中に分厚い銅版でも入ったかのように、カチカチになっている。痛みなどもない。ただただ力が入らない。あれ?わたし、一体どうしてしまったんだろう?と日本家屋の天上の木目模様を見上げる。わたしが止まっているからなのか、緩やかな曲線を描く木目がわずかに旋回していくように見える。
……。
わたしは言葉を失う。
そして、ふと、「わたし、ここで一体何しているんだろう?」などと考え始める。動けないのでじーっとしていると、体のあちこちが気になってくる。腸が腫れているのか、下腹部はパンパンだし、肩はまるで甲冑でもつけているかのように角張っている。しかしつま先はひんやりと冷たくてあまり感覚がない。
自分の体が自分ではないようだ。
あぁ、わたしは疲れていたんだ。とやっと気がつく。
きっと昨日今日でこういう状態になったわけではない。
ずっと体は疲れて、何かのサインを送っていたのに、わたしは完全に無視をしていたのだろう。そして、この体は飛行機で戻ってきたけれど、体のもう半分はまだフランスに残ったままで帰りを求めている。そんな気もした。
今思えば、あれは疲労のサインを出し続けていたのに届かないと判断した体が急ブレーキをかけたのだろう。
見知らぬ土地で、慣れない食生活。
フランスの野菜もお肉もチーズもフランスパンも、どれも本当に美味しかったけれど、体はいつもびっくりしていたに違いない。ごめんね、わたしの体。
ゆっくり寝たいのに、隣で咳き込んでいる夫が気になる。
大丈夫だろうか。病院に行ったほうがいいのかな。
ニュースを見ると、桜が開花してお花見に出かける人たちの姿が報道されていて、目を疑った。一体何を考えているのだろう?日本だってフランスみたいになるかもしれないのに…。どうしてこんなに危機管理が薄いのだろう。どうしてみんなで危ないよという空気にならなければ、気をつけることができないのだろう…。
体が不安定な状態だったからだろう。次々に不安が不安を呼び、体は疲れているのに頭が冴えて眠れなかった。
*
今でこそ、ワクチンができ、治療薬の研究が進み、対処法もわかってきたコロナウィルスだが、当時は何もわからない未曾有の感染症だった。春ののどかな日差しと日本の平和さがホラー映画のように感じられた。自分はまるでフランスの数週間前にタイムスリップしたかのようで、恐ろしくて仕方なかった。でも、コロナが一度国中に広まったらどうなるか体験してきたのに、何もできない。そんなんでいいの?と、あの頃はすごく自分を責めていたのでした。