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146. ちゃんと出会って、ちゃんと別れる

Bonjour!🇫🇷 毎週金曜日に更新のフランス滞在記をお届けします。
今号は、前号にひきつづき、お引越しのお話です。
荷造りをする中で、ご縁が切れてお別れする物に対してわたしが心がけていたことがあります。

それは、「ちゃんと出会う」ということ。



2020年4月末。
捨てながら引越す、その名も「すてっこし」を実践しながら引越し準備を進めていたわたしたち。

「すてっこし」では、ただ段ボールに荷物を詰める前に、一つ一つ「新しい家に持ち込みたいか」をしっかりと見極めながら進める。だから普通に荷造りよりもうんとうんと時間はかかるのだけれど、よくよく考えてみれば、家のなかにある物一つ一つにこんなにじっくりと向き合うのは引越しの時ぐらいだ。

物には思い出が宿る。
だから、一つ一つの物に向き合うということは、大袈裟に言うなら、この家で暮らし生きてきた記憶と向き合うことだ。

シンプルなフランス生活はわたしの生活観や人生観が大きく変え、本当に大切なものと共に生きていこうと決意させた。だから、この引越しでわたしたちは本当にたくさんのものとお別れをした。

初期段階では、冷凍庫に溜まった保冷剤とかもらいすぎてしまった割り箸など、サクサクと手放せるものが多かった。もしかしたら使うかもと取っておいたものの、その存在はすっかり忘れ去られ、これらはご縁がとっくに切れていたり、そもそも家に入れなくても良かったようなものたちだ。しかし、こういったものがだんだん片付いてくると、次の段階に進む。

それは、「思い入れはあるのに手放せないもの」たちの片付けだ。
これが結構エネルギーを要した。

例えば、結婚祝いにもらったけれどちょっともう今の生活に馴染まなくなった食器だったり、もしかしたら二人目が・・なんて考えて保管してある娘の赤ちゃんグッズ、誰かの形見・・。これらは、過去の思い出が宿っているから手放すことを躊躇してしまうのだ。

こういう時は、今、この瞬間に、じっくりじっくりその物と過ごした思い出や記憶を味わってみる。

今、目の前にあるその物と「きちんと出会う」。
そんな意識でしばらく物と一緒にいてあげるのだ。

すると不思議なことに、かさぶたがポロッと取れるかのように、自然と物がわたしから離れていくような気がするのだ。その代わり、物に宿った記憶がスーッとわたしの中に入ってパッと消えて、ホロリと心が緩むような感覚を覚えた。

こういう時は、自然と「ありがとう」を口にしている。

壊れてしまった揺れ椅子は、亡くなった祖父の使っていたもの。生まれたばかりの娘を抱っこしてよく一緒に揺れました。
座面にあいてしまった大きな穴。この機会に思い出を味わってさようならすることにしました。
祖父の形見の腕時計。何度も何度も電池交換したり修理に出しましたが、とうとう動かなくなってしまいました。


時には、もう今は使えないけれど「まだ一緒にいたいよ」という物もあるけれどそれほど多くはなく、わたしの小さな宝箱におさまってしまうものが多い。

ちゃんと出会う。
そして、ちゃんと別れる。

物に対しても、人に対しても、そうでありたい。
願わくば、わたしがこの人生を終える時も。

すてっこしはそのための練習なのかもしれない。

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