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124. 自分にカフェオレをいれてあげた朝|Stay Home編⑨
bonjour!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。Stay Home編ではコロナ禍のフランスから帰国し、自主的に14日間の自宅待機中に感じたことを綴っています。今号は、自宅待機9日目。豆を挽いて、自分にコーヒーをいれはじめた朝について。
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2020年3月28日・Stay Home9日目。
自宅待機も終盤に差しかかりながらわかったのが、人って本当に外に出ず、他者と交流をしないと莫大に時間が生まれるということ。ましてや当時は周辺に商業施設もほとんどない人口密度がかなり低いひっそりとした里山に暮らしていたので、ちょっと外をぶらぶら歩いたところで誰とも会わない。今はSNSがあるから指の操作一つで簡単に人とつながることができるけれど、それもわたしがデバイスの電源をOFFにすればパタンと閉じてしまう世界だ。
当時は連日、SNSにもニュースサイトにもコロナコロナでちょっと食傷気味だった。特にSNSは溢れかえった感情にも触れるので、知らず知らずのうちに心に疲れが溜まっていく。でも、ネットの接続を切って、ただただ生活を眺めてみると、騒がしいのはわたしの心の中で、実際の世界は本当に本当に静かで穏やかなんだなと思った。夜も久しぶりにぐっすり眠ることができた。
当時は平屋の古民家を借りて暮らしていた。朝日が昇ると、遮光性のないカーテンか差し込んだ光が障子にあたって、和室の中を優しく照らすので、太陽とともに自然と目が覚める。鳥のさえずりに誘われて散歩に出かけ、一時間ほどかけて近所の田んぼの畦道をゆっくりゆっくり歩く。そんなことが日課になっていた。
ある日、朝目が覚めると外はしとしと雨。今日は流石にお散歩はできないかなと思ってリビングでやることもなくぼーっとしていると、「そうだ、今日は自分のためにカフェオレをいれてあげよう」と思い立った。
飾り棚でおとなしくしていたミルを手にとると、近所の人が銀杏の網で丁寧に焙煎して持ってきてくれたコーヒー豆を入れてゴリゴリと挽いた。その香ばしい音に気が付いたのか娘がのそのそと起きてきて、寝ぼけ眼でわたしの向かいに座って机の上に突っ伏しながらトロントした目でわたしの手の動きを追っていた。
コーヒーをドリップしながら、キッチンでミルクを沸騰させないように温める。そして、最後にちょっとだけ、フランスから持ち帰ってきたハチミツを入れると、琥珀のようなトロントしたものがカフェオレの中にスゥッと吸い込まれてほのかに香りが立った。あぁ、至福だ。娘は静かに冷蔵庫の中からリンゴジュースを取り出してきて、小さなカップに注いでくれと持ってきた。注いであげると娘は豪快にぐいっと一気に飲み干すと、紙と色鉛筆を持ってきて絵を描き始めた。
わたしは手のひらでカフェオレの温かさを感じながら、彼女の生き生きとした線を目で追いかけていた。子供の線っていいなぁ。ハチミツみたいに自由で、何にでもなれて、そしてちょっと甘い香りがするような気がするのだ。
普段、忙しくしていると忘れてしまうけれど。
こういう時間を幸せって言うのだろう。
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今日はしとしと雨の日。
自分のために久々に豆を挽く。
娘は自分でリンゴジュースを冷蔵庫から出して、グビッと一杯飲んで、絵を描き始める。
それを眺めながら飲むカフェオレは美味しい。
我が家はセルフサービス式です(笑)。
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