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【ネタバレ】迷子のゴールはどこにある――「BanG Dream! It's MyGO!!!!! 後編 :うたう、僕らになれるうた & FILM LIVE」レビュー&感想

前編に引き続き、総集編後編が2024年11月公開となった「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」。迷い続ける彼女達は、いったいどこにゴールを見つけたのだろう?


1.迷子のゴールはどこにある

2023年に放送されたTVシリーズを2本の総集編にまとめて劇場公開となった「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」。前編から6週間を経て上映された後編は、主人公の高松 燈を始めとした少女たちが更に迷いを深めていく内容だ。
かつてガールズバンド「CRYCHIC」を組んでいた燈、長崎 そよ、椎名 立希の3人に新たに千早 愛音と要 楽奈の2人を加え結成された新バンドは、名前も決まらぬまま決行されたファーストライブでは知名度の低さをはね返す大反響を獲得する。しかし感極まったあまりCRYCHIC時代の曲である「春日影」を演奏し元メンバーの豊川 祥子を傷つけてしまったことにそよは激怒。漏れ出すそれぞれの本音からバンドは分解状態に陥ってしまう……あやふやではあるがバンド結成に向けて動いていく流れがあった前編に対し、この後編は目的地が見えない。目指すゴールがバラバラでまとまらないが故に燈たちは「迷子」になってしまっている。

そよが目指すゴール、それは過去だ。彼女にとってはCRYCHICを組んでいたあの時こそがあるべき姿であり、愛音や楽奈の加入を認めたのもそれを取り戻すため利用したに過ぎなかった。しかし時計の針を巻き戻すことなど誰にもできはせず、そよは目指すゴールにたどり着けない。新バンドは祥子をいっそう傷つけ、そよはすがるようにして彼女に謝るがいっそう拒絶される結果に終わった。

過去というゴールにたどり着けないならどこを目指すべきか? 多くの人が考えるのはもちろん未来だろう。立希は祥子を傷つけたこともそよが練習に来なくなったことも振り返らず、彼女に代わり同級生の八幡 海鈴をベーシストを迎えて活動を再開しようとする。まさに未来志向だ。しかしそよを忘れられない燈は練習が始まっても歌い出すことができず、それを察した海鈴が参加を辞退したことでバンドは再び止まってしまった。過去につまづいた立希たちは、ただ未来に向かうだけではゴールにたどりつけなかったのだ。

人間は過去からの連続によって生きている生き物である。故に過去を振り返り未来から目をそらしても、未来だけを見て過去から目を背けても結局は迷子になってしまう。ゴールにたどり着けなくなってしまう。そもそもの話、前編でゴールを否定してみせた本作がたどり着く場所がそんな安易な代物であるはずがないのだ。では、ゴールを否定した本作が迎えた「ゴール」とはいったいなんだったのだろう?

2.迷子のゴールは”ここ”にある

ゴールを否定する物語がたどり着くゴール。この禅問答のような難題に本作が出した答えは、けして遠い彼方のものではない。

バンドが分解状態に陥る時、燈は無力だった。感性が世間とズレていると感じている彼女は思うことをなかなか上手く口にできず、言葉では皆を繋ぎ止められないからだ。しかし一方、彼女の「うた」には言葉を超えた説得力があり、だから彼女は一人ライブハウスに立ち「うたう」ことで自分を示していく。自分の心を――今ここにいるという、己の所在を明らかにしていく。そしてその「うた」は、「僕らになれるうた」と呼ぶべきそれは、1人また1人と仲間達を呼び戻すことに繋がっていった。

迷子になったそよや立希が目指したもの、それは目的地であった。だが、迷子とは目的地ではなく現在地・・・が分からないからなるものだ。東に行くつもりで西へ、あるいは過去や未来を見ているつもりでかえって遠ざかってしまった時、私達はまず自分がどこにいるのかを知らなければならない。己の所在を叫ぶ燈の「うた」を通してメンバーが気づいたのは身勝手な自分や必要とされている自分、あるいはこのバンドという居場所を大切に思っている自分だ。すなわち彼女たちは燈の「うた」を通して己の現在地を知ったのであり、だからこそこのバンドは再び歩き出し再び集うことができたのだろう。

当然の話だが、現在地はあくまで現在地であって目的地ではない。少女たちの道のりはけしてここで終わりではなく、大団円のように再び揃った後でもう一度行われるライブの準備もドタバタ続きだ。いつだって彼女たちは迷い、現在地を見失っては見つけ直していく。けれど人生とは、目的地に向かって進むとはそんなふうに現在地を見つけ直す積み重ねではなかっただろうか。「一生バンドやる」という燈の重い問いに愛音が出した答え、「一瞬の積み重ねが一生になる」とはすなわち、ゴールをめぐる禅問答のような難題に彼女達のバンド「MyGO!!!!!」が見つけた答えに他ならない。

迷子のゴールはどこにある? 迷子のゴールは”ここ”にある。今この場所この時を、小さなゴールを見つけては迷う繰り返しこそ「ゴールを否定する物語」がたどり着いた本物のゴールなのだ。

感想

以上、バンドリMyGO映画後編のレビューでした。ゴールを否定するなら最終的にはどこにたどり着くんだろう?というのは前編のレビューを書いた時から気になっていたのですが納得の落とし所だったなと思います。公開2日目にしてパンフが売り切れていて(めでたい!)記憶だけで書けるか不安だったのですが、すんなりまとまってホッとしました。未体験だったシリーズにこうして触れる機会を与えてくれたことに感謝です。

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普段はTVアニメのレビューを1話1話ブログに書いています。2024年秋は「ラブライブ!スーパースター!! 3期」「来世は他人がいい」「アクロトリップ」をレビュー中。


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