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ゴールを否定する物語ーー劇場版「BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 : 春の陽だまり、迷い猫」レビュー&感想

TVシリーズを2本の劇場版にまとめる形で生まれ変わった「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」。迷う者達の物語とは、ゴールを否定する物語である。


1.迷いがないのはいいことか

ブシロードのメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!」(バンドリ!)。アニメやリアルバンド等様々な形で活動が続く中、2023年の新作TVアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」は更に大きな反響を獲得。1クールの物語は2本の総集編として映画公開されることとなった。「BanG Dream!」シリーズに全く触れてこなかった私もこれを機会に、と劇場に足を運んで見たのだが……初見時に感じたのは「目まぐるしい映画だな」ということだ。主軸となるのはボーカルの高松燈(たかまつともり)を始めとしたガールズバンドの5人だが、本作では彼女達5人が仲良く一緒に、といった場面はほとんど見られない。燈、ベースの長崎そよ、ドラムの椎名立希(しいなたき)はかつて「CRYCHIC」というバンドに所属していたがすれ違いから解散しており、ギターの千早愛音(ちはやあのん)は海外留学に失敗して戻ってきた逃げ癖持ち。リードギターの要楽奈(かなめらーな)は猫のように気まぐれだからそもそも姿を見せたり見せなかったり。バンドを組むか組まないか、ライブをやるかやらないか、曲をどうするかーー何をやるにもいちいち揉めるのだ。全く初見の私はまず冒頭のそよの激怒が何に怒っているのか分からず、続いて描かれる楽奈の過去から彼女が中心になって物語を動かすのかと錯覚、その後しばらく彼女の出番を待ち続けながら画面を見たりと困惑することしきりであった。言うなれば「迷子」……つまり私の困惑は本作の思惑通りなのだろう。

迷うことは辛いものだ。迷いたいとわざわざ自分から望むのは稀なことで、できるなら無縁でいたいのが多くの人の本音であろう。けれど劇場版で追加されたらしい楽奈の過去はそこに疑問を突きつける。彼女は祖母の影響もあってギターが大好き、加えて猫のような気質もあって他人とコミュニケーションもいつも気ままなものだ。中学校の入学式も途中で帰って祖母の詩船からエレキギターを譲り受け、彼女の運営するライブハウス「SPACE」でギターを弾く毎日……迷いとは縁遠い日々を送っていたのだが、詩船はむしろ危うさを覚えていた。楽奈は自分の気持ちもギターも祖母以外には通じないと思い詰めてしまっており、迷いなき日々はむしろどん詰まりの産物だったのである。
恵まれ過ぎていたのかもしれない。そう感じた詩船は、楽奈のために「SPACE」を閉めることを決心する。ここはゴールではなく通過点に過ぎない、と。そう、詩船は楽奈に「迷って」ほしかったのだ。「SPACE」を失った楽奈は文字通りの居場所を失い、新たなそれを探さねばならなくなってしまった。

2.ゴールを否定する物語

迷いのなさは危うい。そこに立脚した時、本作の目まぐるしさは迷走であると同時に必然である。

燈達はいつだって本当に迷いっ放しだ。物語の開始時点で燈達は過去の解散に囚われているし、バンド結成の際の燈の「一生、バンドやろう」という言葉に愛音は素直には頷けない(計算高く行動してるつもりで根が真面目だなこの子……)。立希も彼女の実力の低さや練習に来たり来なかったりの楽奈にライブで演奏する曲のアレンジに悩み一度は逃げ出してしまう……けれど一方、それ故に彼女達の物語は終わらない。ゴールにたどり着かない。愛音はひとまずライブまでをバンドの目標にすることで「一生、バンドやろう」への返事を保留にしているし、立希が再びバンドを組んだのは燈の歌が忘れられなかったから――迷い続けたからだ。

燈達の迷子は終わらない。映画としてのクライマックスは終盤のライブシーンにあり燈の歌は大きな熱狂を呼ぶが、だからといって私達をただいい気分にして終わらせてはくれない。彼女の心の叫びと楽奈のギターの響きが導いた「春日影」の演奏はCRYCHICの元メンバーである祥子を大きく傷つけるものであり、ライブ後に盛り上がる皆に対してそよが浴びせたものこそ冒頭の「なんで春日影やったの!?」という正に怒髪天を衝くような叫びであった。まなじりが裂けるような彼女の怒りはただのクリフハンガーではなく、本作が終わりにたどり着かない、迷いの中にあってこその物語であるが故なのだろう。

「ここはゴールではなく通過点に過ぎない」 詩船の言葉はこの映画の全てを象徴している。迷子になることを否定しない本作はすなわち、迷いなきゴールを否定する物語なのだ。

感想

以上、バンドリMyGO映画前編のレビューでした。一口にガールズバンドものと言っても色々なのを再認識させられる作品というか、話題を呼んだのも納得の内容でした。1クールで見るよりある意味気楽かもしれませんね。11月の後編を楽しみに待ちたいと思います。

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普段はTVアニメのレビューを1話1話ブログに書いています。2024年秋は「ラブライブ!スーパースター!! 3期」「来世は他人がいい」「アクロトリップ」をレビュー予定。

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