中国でゲーム規制や思想教育、企業への制裁始まる!
未成年者へのゲーム規制や、『虎牙』と『斗魚』の合併禁止など新たな規制が続く中国ゲーム市場。最大手テンセントの対応を含めて中国の最新情報をまとめてみました。(2021年9月版)
はじめに
こんにちは。Spicemart(スパイスマート)です。
私たちはアジアや北米を中心に、ゲームの開発・運用に役立つ情報を収集・分析し、お客さまであるゲーム企業に情報提供をしている調査会社です。
このnoteでは「ゲームやアニメが好き」「世界のゲーム事情を知りたい」といった方々にも興味を持っていただけるような内容を配信しています。
今回は中国のゲーム市場についてお届けしていこうと思います。
上半期中国ゲーム市場の売上額、約2.5兆円
7⽉30⽇から上海で⾏われた「ChinaJoy2021」で、『2021年1〜6⽉ 中国ゲーム産業報告書』が発表されました。
それによると、今年上半期の中国ゲーム市場規模は下記の通りです。
売上額 : 約2兆5,557億円
ユーザー規模 : 6億6,700万人
売上額は前年同期⽐で8%、ゲームユーザー規模は1%の増加と、どちらも僅かですが成長を維持していることがわかります。
未成年者へのゲーム規制
そんな巨大ゲーム市場となった中国で、今、新たな規制が次々と発表され、企業や人々を震撼させています。
中でも話題となっているのは、中国の国家新聞出版署が発表した「⻘少年オンラインゲーム中毒防⽌のための規制強化通知」です。
未成年者へのゲーム規制は年々強化されていましたが、今回の通知により一層厳しいものとなりました。
9月1日から適用された規制は以下のような内容です。
▼18歳未満の未成年者へのサービスは金、土、日、祝日の午後8時から1時間のみ
▼実名登録していない人にサービスを提供してはならない
▼⻘少年の1か⽉の課⾦額制限
加えて「誤った価値観や違法な内容を含むコンテンツ」も排斥するようにとの指示もでており、以下のような描写についても、今後取締りが強化されることになります。
▼わいせつで暴力的もの
▼血まみれの描写
▼女のような男性(ボーイズラブ、BL)
これを受けて、「王者栄耀」(邦題:伝説対決 -Arena of Valor-)などで有名な中国最大手テンセントは、ただちに「双減、双打、三提唱」という新たな未成年者保護施策を発表しています。
テンセントの対応
①「双減、双打、三提唱」
テンセントは2017年から未成年者への規制(毎⽇平均580万のアカウントに対してログインや課⾦を制限するなど)を実施してきましたが、今回さらに下記の規制を加えました。
・未成年者のゲームプレイ時間を平⽇1.5時間から1時間に短縮
・週末と祝祭⽇は3時間から2時間に短縮
・12歳未満のゲーム内アイテム購⼊を禁⽌
尚、今後は未成年者だけでなく成⼈アカウントの売買に対しても、一定の取り締まりを行っていくようです。
➁「零点巡査」から「全天巡査」へ
テンセントは上記にあわせて、今年7⽉5⽇にWeChatで公表した「零点巡査」というシステムを、「全天巡査」にアップグレードすることも発表しました。
これは未成年者が親や兄弟などのユーザー情報を使ってプレイするのを監視するための見回りシステムで、今後は、夜間のみの見回りだった「零点巡査」から終日監視となる「全天巡査」へと移行することになります。
具体的には⼀定時間以上プレイしているアカウントに対して顔認証が求められ、拒否したり認証に失敗すれば、未成年者とみなされゲームが強制的に中断されるようになります。
テンセントによると、2021年6月のある時点において顔認証が必要と判断されたアカウントはログイン時に約580万、課金時に約2万8千あったとのこと。
このうちログインに失敗した91.4%が中毒防⽌指導の対象となり、課⾦に失敗した87%がゲームを中断されたようです。
その他の大手企業への制裁
①ゲーム実況メディア『虎牙』と『斗魚』合併禁止
昨年8月、テンセントはゲーム実況プラットフォームの⼤⼿2社、Huya (虎牙)とDouyu (斗魚)の合併計画を発表しました。
2社ともテンセントが株主であり、合併によりユーザー数3億⼈・時価総額100億USDの巨⼤インターネットストリーミング企業が誕⽣するはずでした。
しかし今年7⽉、この合併が禁⽌されたことが報じられました。
中国当局による合併を禁⽌した理由は以下の通りです。
『テンセントがすでに中国のゲームサービス市場の40%を占有している状況で、 ゲーム実況配信市場シェア40%のHuyaと30%のDouyuまで合併すれば、ゲーム流通およびゲーム実況配信市場でのテンセントの⽀配⼒が⼤きくなりすぎるためである』
尚、この制裁においてもテンセントは即時受け⼊れを表明しています。
➁TikTokを運営するByteDance⽶国市場上場を断念
ウォール・ストリー ト・ジャーナルが、ByteDanceがアメリカ証券市場への上場を断念したのは、中国政府の圧力によると報じました。
ByteDanceは昨年から⽶国市場または⾹港市場でのIPOに向けて準備を進めていましたが、今年4⽉に突如IPOを無期限に延期することを発表しています。
③タクシー配⾞アプリDiDi(滴滴出行)捜査対象に
「中国版ウーバー」と呼ばれるタクシー配⾞アプリDiDi(滴滴出行)は、当局による海外市場での上場規制にもかかわらず、今年6⽉末にニューヨーク証券取引所に上場しました。
その結果、国家安保規定違反という容疑をかけられ、捜査対象となっています。
また市場では、”中国の全てのアプリストア からDiDiのアプリを削除せよ”という指⽰まで出たのではないかと噂されています。
中国はどこへ向かうのか
・営利目的の学習塾の廃止
今年7月、中国当局は「小中学生の宿題と塾・習い事の負担を軽減するための意見」を発表しました。
大量の宿題と塾通いが子どもと保護者の負担になっていることを問題視したことによるものだそうです。
規制の内容は以下の通りです。
▼学習塾の新規開業を認可しない
▼既存の学習塾は非営利団体として登記
▼塾の費用は政府が基準額を示して管理下に置く
▼学習塾の株式上場による資金調達の禁止や、外国企業の参入禁止
この件については、日本でも月謝の返還を求める保護者が塾に殺到しているニュースが報じられています。
宿題に関する規制は以下の通りです。
▼小学1、2年生に筆記式の宿題を出さないようにする。
▼宿題量の目安として、同3~6年生は1時間、中学生は1時間半を超えないようにする。
▼宿題が終わらなくても、睡眠を優先させる
▼宿題の代わりにスポーツや読書、文化活動を促進。
中国の『一人っ子政策』は日本でもよく知られていますが、現在は人口減少により3人目の出産を認める方向にあり、この規制の背景には、若い夫婦の教育費懸念を払拭させる目的もあるようです。
親からの猛反発を避けるためか、高校生以上への塾規制は今回は見送られましたが、中国では巨大マーケットとなっている学習塾経営の今後が懸念されています。
・小中高で思想教育開始
今年は「思想教育」もスタートすることが発表されています。
会見をした中国教育省の幹部が、「学生の頭脳を習氏の思想で武装しなければならない」と述べたと報じられていますが、小学生向きの教本には「習おじいさん」として習主席が登場し、愛国心や社会主義などを指導する内容となっているようです。
また、思想教育を強める一方で、外国語の授業を減らしたり、外国教材の禁止の動きもあり、すでに英語の期末試験を廃止すると決めた都市も出ています。
突如、中国市場経済が乱気流に巻き込まれたかのような様相をみせています。
貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという『共同富裕』も声高に提唱されており、向かっている方向は社会主義の理想郷ともいえる世界でしょうか。
どちらにせよ、日本に影響があるのは必須で、しばらく中国から目が離せない状況が続きそうです。
Spicemartは引き続き中国現地での情報収集に努め、こちらのnoteでも発信していく予定です。よろしければぜひフォローをお願いします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?