人事担当ハレルヤ氏の採用①
町中の小さな医療機器の組立工場にハレルヤ氏は働いていました。
時に現場で組み立て、時に品質管理、そしてメインは人事担当でした。
新しいパートさんの募集があるとハレルヤ氏が面接し、採否を決めていました。
社内で彼の眼力は認められていたので、彼は思う存分採用の仕事を楽しんでいました。
彼の採否の否の人は、根暗な人でした。
でも時には根暗な人も採用したりしていましたから、そうでもありません。
さて、今回もパート従業員希望の女性の面接です。
17歳、女性、無職、ユキ
中学生時代からずっと引きこもりで、このままではいけないと、外部の世界に少しずつ慣れようと思い、一念発起して面接に来たのだそうだ。
中学時代から何年も引きこもっていたので、何もできないし、社会のことなど全く分からない。さて、どうしたものか。
でもこういうコミットを持ってる人は、とりあえず採用でしょ。
機会を見て求める進路をつくっていこう。
新たなる人生のゲートを開こう!
というわけで、採用したのでした。
現場に入ると面倒見のいいおばさま方に若い子は可愛がられました。
手取り足取りパートのおばさまたちが、彼女に仕事を教えていったのです。
しかしながら、ある時問題が起こりました。
毎朝朝礼をやっているのですが、そこでは持ち回りで少しずつISO9000の教育資料を1センテンスずつ読むことになっているのです。
彼女も例外ではなく、順番が回ってきたのですが、緊張と焦りで全く読めませんでした。
自信を失った彼女は、目に見えて落ち込んでいるのがわかりました。
こういう挫折を何度も味わってきて、引っ込んでいったのかもしれないなぁ、と感じました。
次の日の朝、彼女の母親から電話がありました。
「うちの娘には、
教育資料を読ませないでもらえないでしょうか?」
来た!
彼女が突破しなければならない第一の壁
そして、現場の責任者からは、
「彼女は使えないのでこれを機にクビにしてほい。」
出た!
弱った時に畳みかける卑怯者のダメ押し!
こうして人はつぶされるのだ。
使えないからクビにするのなら、人事はいらない。使えない人を使えるようにするのが監督者の仕事なのに、それを放棄する現場責任者、使えないのは君の方なのだよ。
教えないけどね。悲しいね。
さて、ハレルヤ氏は、ユキに聞きました。
「お母さんから、
娘には教育資料を読ませないでほしいと言ってきたが、
あなたはどうする?どっちでもいいよ。」
さんざん考えた挙句、ユキの回答は、
「読みます」
だったのです。
数日後の朝礼、ユキの順番です。
前日から読む箇所を練習してきたようです。
練習してきたにしてもシドロモドロでしたが、そこにいた現場責任者以外の全員が彼女の資料を読む声を固唾をのんで見守っていたのでした。
最後の一語を読み終えた後、なんと、自然と拍手が沸き起こったのです。
ユキが人生の大きな大きな壁を突破した瞬間と、それを祝福する拍手!
製造現場のある朝の出来事でした。
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