「週一」 善方基晴
小学生の頃、週一のイベントと言えば習い事だった。
イベントというと、毎週楽しみにしていたかのように聞こえるが、全くそんなことはなかった。
僕は水泳を習っていたのだが、行きたいと思ったことはほとんどなかった。
少なくとも僕は水泳を習いたいと親に言った覚えはない。
今では、あの時水泳を習っていてよかったと思うが、当時は本当に水泳を「習い」に行っていただけでそこに楽しいという感情ややりがいはなかったと思う。
とは言いつつも、プール場内で響いていた音やプールサイドに置いてあった大きな時計、自販機の近くがやけに涼しかったことなど当時毎週見ていた景色はわりと記憶に残っていたりする。
そんな水泳教室で、僕は人生で初めて大きめの嘘をついた。
今でも覚えているほどの嘘だ。
それはクロールの検定が近づいてきた頃、当時クロールが大嫌いだった自分は、「肩を上にあげると痛い」とコーチや親に言った。本当は全く痛くなかった。ただただクロールの検定を受けたくなかった。それだけだ。
平泳ぎの検定は受けられるが、クロールは受けられない。これを達成するために小学生の僕が考えた嘘こそ「肩を上にあげると痛い」だった。
普段僕がどこかを痛めるということは滅多になかったため、コーチも親もそれなりに心配してくれて結果的にクロールはしばらく泳がなかったと記憶しているが、病院に連れていかれることもなかったため、親には大したことないと、ばれていたのかもしれない。
小学生ながらに肩が痛そうな演技とか痛みが滲む顔を作っていたのかと思うと、当時のその瞬間の自分を見てみたい。
初めて大きな嘘をついたときの自分の顔はどんな表情だったのだろう。
水泳を辞めた後は、しばらくサッカーを習っていた。
嘘こそつかなかったもののただ走るだけの練習がきつくてダラダラ走っていたら、コーチに「いつまでもマイペースだな」と笑いながら言われたことが驚くほど怖かった記憶がある。
人は笑っているほうが怖いときもあるのだなと初めて知った。
習い事の中身よりも、それに付随するやり取りのほうが記憶に残っている。時々休んだりして、完全な週一ですらなかったのに。
善方基晴