「週一」 松平
ふといつもの癖で、写真フォルダを振り返ってて思い出した。
去年は、毎週金曜日に行う楽しみがあったな、と。
去年の5月。金曜日。
夜に出かけたがらない母が急に
「近くの温泉に行かない?」と言い出した。
珍しいと感じながらも、金曜の夜なんて何も予定がなかった私は有り難くその誘いに乗った。
近くと言いながら、向かった先は車で30分弱の温泉施設。夜に母と2人で出かけることなんて滅多にないので、胸を躍らせて温泉へと早歩きをする。
早速さまざまな湯に浸かり、母の気まぐれな提案に感謝した。
週末のちょっとした贅沢。
とてつもない極楽だった。
そこはサウナが有名な温泉で、サウナの経験があまりなかった私もどハマりしてしまった。
温泉から出たら、お茶を飲んで、休憩所の畳に寝転がりながら、施設に置いてある漫画を読む。
このまま寝てしまいそうで、帰るのが惜しい。
1人で行くには交通手段がないので、また母の気まぐれが起こることを願って温泉施設を後にした。
そこから何故だかは覚えていないが、その温泉施設にその日だけでなく、次の週の金曜の夜、その次の週の金曜の夜も。
毎週、金曜日の夜に通うようになっていた。
週に一度の楽しみだった。
その温泉施設の写真をフォルダから見つけて、久々にその存在を思い出した。
懐かしい。
そういえば久しく行っていなかった。
週末の楽しみだったはずなのに。
何故行かなくなったのかも覚えていなかった。
最後に行ったのは去年の11月だろうか。
11月、、具体的な数字が出てきて思い出す。
その温泉施設は11月で潰れてしまったのだ。
切ない。
今まで存在を忘れていたものを、ふと写真を見つけて鮮明に思い出してしまったので、より切なくなってしまった。
もうあの釜の風呂にも、寝湯にも、ずっとテレビ東京がついてるサウナにも入れない。
少し年季の入った、くつろぎ甲斐のある畳も、読みかけの海月姫も。
その思い出のある温泉施設を写した唯一の写真が、
とあるアニメとその温泉がコラボ中のときの、
アニメキャラの等身大ってくらいでかいパネルが玄関に飾られている写真だった。
……もっと写しとく瞬間があっただろうに。
画面いっぱいにそのアニメキャラのパネルが映し出されており、その施設の雰囲気などは一つも感じ取れない。
なんとなく、私はその写真をアニメ好きの友人に送りつけた。
この温泉の存在は、また、写真フォルダからふとその写真を見つけるまで思い出さないだろう。