何十年も浸かってる皇室沼について
その本たちは、私の書棚の大半を締め鎮座している。
スペースは限られているので、ここに居る本たちは精鋭ばかりだ。
どの本も幾多の断捨離、幾多の整理を経て、生き残っている。
大型本に合わせて買った書棚には、一冊数万円で取引される古書や、今では手に入りにくい写真集や図録がでんと並ぶ。
どれもほぼ、皇室と旧華族、ロイヤルジュエリーに関する本。
彼らを読み返しては、絵を描く参考にし、家系図を調べ、ドレスや装飾品、果ては家宝の流転遍歴や皇室敬語研究の大きな材料にしている。
世界に名だたるアンティークジュエリーコレクターである、日本のアルビオンアートコレクションの図録などは我が宝物だが、世界に名の知れた有名ロイヤルジュエリーが日本で所蔵されていることにまず興奮する。
そう、まあ、こういう事なので、これらに中学高校から足を突っ込んでいる私は、変わっている子だと言われる訳である。
大人たちの意見も仕方がない気もするが、私にとっては至って真面目なライフワーク。
もう何十年続いているのか分からない。
気持ちは至って真剣だ。
そもそもこういう類にハマったのは、中学生のとき。
当時ニコライ二世皇帝一家にドはまりしていたが、今のようにインターネットは気軽には使えない時代。
県立、市立の図書館を巡っては、何十年開かれてないだろう、カビとホコリまみれの地下蔵資料までも出してもらっていた。
さて、ロマノフ王朝やインペリアルイースターエッグに始まる数々のジュエリーの流転は、今だに好きで研究も続けているが、
なんといっても日本の近代皇室(明治維新後から現代)にかける思いはひどく重たい。
これは、高校生の時に観た秀逸な皇室特番に機縁する。
現在の上皇陛下と、美智子さまのドキュメンタリーの雷に、ガンと打たれた。
その特集は、シンデレラストーリーとしてではなく、命の旅の物語としてリアルだったからだろう。
よくある皇室番組は、テニスコートの恋からご成婚までを描く。
Happily ever after‥‥‥‥‥‥(めでたしめでたし)
で終わるのだ。
しかしその番組は違った。
ご結婚後から直面する様々なご苦労を、今では放送されない貴重な資料をもとに語られている。
そしてご即位後初の記者会見での美智子さまのお言葉に、いつも涙がじわっと出る。
ゆっくり、一語一語発語される美智子さまに、ご婚約時代の美智子さまを重ねて、この方のご苦労を思う。
「‥‥両親のもとで過ごした年月よりも、更に長い年月が過ぎたことを思いますと、やはり、深い感慨を覚えます。」(お言葉まま)
ご即位の2年前に亡くなられた美智子さまのお母様の映像が流れ、いつもここで、私は自分の親を今大事にしようと決意する。
この番組以来、美智子さまの写真集を買い漁り、未知の言葉遣いを研究し、流行の服に見向きもせず、すべて美智子さまをお手本とする痛い日々が始まっていく。
そして次のジャンルが押し寄せて来る。
旧皇族華族の研究。
彼ら旧皇族華族の、皇族、公家、武家、軍閥など、毛細血管のように繋がる関係を辿っては、
「あの人とあの人は兄妹!親戚!」というのがパズルを解くように楽しい。
そして家系図を丸暗記するのが次のパズルを解く手掛かりになる。
その頃追い打ちにあった。
明治〜昭和初期にかけての上流女性ファッションの素晴らしさを記録した、精密な白黒写真との出会いだ。
書店で一目惚れした写真がある。
それは、梨本宮伊都子妃殿下のロングトレーン付のコートドレス(謁見用一級礼装)姿の写真だった。
この方は、秩父宮勢津子妃殿下の実の伯母君にあたる。
当時の一般市民は知り得なかっただろう、華やかすぎる世界だが、
その人間関係や人物の一生は、調べれば調べるほど底なしの暗闇に覆われており、ミステリー小説を読んでいる気分に近い。
そして現存する明治〜昭和初期までのドレスの写真を集め、論文を読みこんだ。
面白いことに洋行を経験したどの妃殿下も、一度あちらでドレスの誂え(あつらえ)をすると、国産品を嫌う=国産品はおしゃれに見えなくなる、という傾向が見られ、感想が正直で興味深い。
そしてこれらドレスに付随するのが、ティアラを始めとした、秀逸な時代のジュエリーだ。
どの妃殿下もご成婚時に実家負担で誂えたジュエリーを持ち、どれも流行が違いデザインも違う。
当時の最高のデザインとともに身にまとっている。
終戦後、宮内庁が買い上げたそれら旧皇族のティアラなどは、現在、今の女性皇族方の身につけるティアラの中に、隠しきれない戦前アンティークの片鱗として見え隠れする。
ああ、文字数が大変なことになってきた。
これだから、趣味を語りだすといけない。
熱く長く語ってしまう。
とにかく、この長い皇室沼からは抜け出せそうにない。
そして一番悲しいのは、同じ趣味の方が見つからないこと。
これに尽きる………………………………………………