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「フォロワーの影」3

第三章: 仮面の裏側


真琴は目覚めると、またしてもスマホを手に取った。SNSの通知が鳴り止まず、新しいコメントや「いいね!」が次々と押し寄せていた。これまではそれが心の支えであり、成功の証だと信じていた。しかし、例の謎のフォロワーのコメントがきっかけで、彼の心には疑念が芽生えていた。

「仮面の裏に隠れている自分は、本当に自分なのか?」その問いが、真琴を追い詰めていた。

ある朝、真琴は鏡の前に立ち、自分の顔をじっと見つめた。そこに映るのは、SNSで何万人ものフォロワーに支持される「早川真琴」だった。毎日のように完璧な写真を投稿し、ファッションやメイクにも気を配り、誰もが憧れる存在を演じている。しかし、その裏では、どこか疲れた自分がいた。

「もう、疲れたよ…」と真琴は小さな声でつぶやいた。

その日の投稿をどうするか考えるが、どの写真を見ても「本当の自分」ではないと感じてしまう。撮影スタジオで撮った美しいポートレート、笑顔が輝く友人たちとの集合写真。すべてが作り物のように見えてくる。結局、その日も投稿する気力が湧かず、スマホを放り投げるようにベッドの上に置いた。

昼過ぎ、大学の授業に向かうために外に出た真琴は、道すがら自分のSNSアカウントをもう一度確認した。そこで、またしてもあの謎のフォロワーからのコメントが目に入った。

「仮面を外すと、何が残るんだろうね?」

その言葉が、真琴の心を揺さぶった。フォロワーたちは、自分の「仮面」を見ているのではないか?本当の自分を見せたら、誰も自分に興味を持たなくなるのではないか?そんな不安が彼を支配していた。

大学の講義中も、真琴は落ち着かなかった。教授の話は耳に入らず、頭の中はSNSのことでいっぱいだった。仮面のように振る舞い続ける日々が、彼を次第に疲弊させていった。それに気づかないフォロワーたちは、彼を称賛し、崇める一方で、真琴は自分自身の中で孤立していた。

友人たちもまた、彼がSNSで築き上げた「早川真琴」に対して畏敬の念を抱いていた。それは、かつての親しい関係を壊してしまった要因でもあった。友人たちは「成功者」としての真琴を認識し、本音で話すことが次第に難しくなっていったのだ。

講義が終わり、真琴は図書館で一人の時間を過ごすことにした。ここはSNSの騒がしい世界から一時的に逃れるための場所だった。スマホを机の上に置き、開かれたノートにペンを走らせる。しかし、頭の中はSNSのことでいっぱいだった。無意識のうちに、彼はスマホを手に取り、再びSNSを開いた。

投稿の通知、フォロワーからのコメント、新しいダイレクトメッセージ。すべてが真琴を求めていたが、その全てがどこか虚しいものに感じられた。SNS上の自分が、まるで仮面をかぶった他人のように感じられる。

その時、またしてもあのフォロワーからのメッセージが届いた。

「本当の自分を見せたらどうなると思う?」

その言葉が、真琴の心に深く突き刺さった。彼はこれまでずっと、フォロワーたちに対して完璧な自分を見せ続けることが、自分の存在価値だと信じていた。しかし、そのフォロワーの言葉は、その信念を根底から揺るがせるものだった。彼は無意識のうちに、自分の「仮面」を手放すことを考え始めていた。

その夜、真琴は決意を固めた。彼はSNSに新しい投稿をしようと考えたが、今回はこれまでのような完璧な写真ではなく、ありのままの自分を見せることを決めた。スマホのカメラを起動し、自分の部屋でリラックスしたままの素顔の写真を撮った。笑顔も作らず、ただ無表情の自分。

「これが、僕です。」

彼は簡単なキャプションと共に、その写真を投稿した。普段であれば何時間もかけて考えるはずの言葉が、今回は自然に出てきた。彼は、今の自分をそのまま受け入れるための一歩を踏み出したのだ。

投稿した瞬間、胸の中に広がる静かな不安。それは、フォロワーたちがどう反応するかという恐怖だった。これまで見せていた「完璧な自分」とは全く違う姿を、彼らがどう受け止めるのか。真琴はベッドに横たわりながら、その結果を待つことにした。

朝になり、真琴はゆっくりと目を覚ました。彼は恐る恐るスマホを手に取り、前夜に投稿した写真の反応を確認した。そこには驚くべき光景が広がっていた。フォロワー数は急激に減少し、コメント欄には失望や批判の声が溢れていた。

「何これ?前の真琴が良かったのに。」
「もう興味ないかも。」
「偽りの笑顔もいいけど、今の君は違う。」

真琴はショックを受けた。期待していた反応とは全く逆の結果だった。これまでの彼を支持していたフォロワーたちは、作り上げられた「完璧な真琴」に期待していたのであり、本当の自分を見せた瞬間に、その興味を失ってしまったのだ。

しかし、その中で唯一、例のフォロワーからのコメントだけが彼の心に響いた。

「やっと、本当の君が見えたね。」

その言葉が、真琴の心に深い安堵をもたらした。仮面を外すことは怖かったが、それでも自分を取り戻すための第一歩を踏み出したのだ。

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